16-3 私たちの敵だと思っていいですか?
「ちぃっ! 言ったそばからかい!」
全員、ギルドから飛び出していく。鐘はなおも必死な様相で打ち鳴らされ続けていて、ざわざわと通りへと出てくる人も増えていった。
「リナルタ?」
そうした中で私は空を見上げていた。ああ、これは――本格的にヤバいかもね。
「なんだ、これは……?」
ニコラが唖然として声を失った。
空を、薄っすらと赤みがかった膜が覆ってる。血管みたいに細いものが膜表面を走ってて、なんとも禍々しい。よくもこんなものを聖域魔術だなんて呼んだもんだね。さらにその血管の元を辿っていくと、いっそう濃い赤をした幹みたいなものが地上から空に向かって伸びてた。
「あの場所は……魔術学院がある場所か!」
「サヴィーニ支部長」アルフが呼びかけた。「鐘が打ち鳴らされた、ということはおそらくまた魔獣たちが迫ってきているはずだ。貴方たちギルドにはそちらの対処をお願いしたい」
「分かりました。殿下たちは……?」
「私とリナルタは魔術学院へ向かう」
ま、そうなるよね。というか、それしか選択肢はないし。
「お二人でですか!? あまりにも危険過ぎます!」
「この様子だと儀式は始まってしまったと考えるべきだ。魔王の儀式と魔獣の襲来。どちらか一方を捨て置くことはできないし、魔獣に関してはギルドが当たるのが適任だと思う」
「ですが……」
「心配は要らないさ。なにせ――」アルフが私を見て微笑んだ。「私にはとても強い女神がついているからね」
「恥ずいことさらっと言ってんじゃないっての」
ゴスっと横っ腹に拳をぶち込んでやると、悶絶してアルフが転がった。ったく、最近この手のこと言わなかったから油断したじゃない。
でも言うとおり、アルフのことは私が守るよ。それに、アルフも傭兵としての腕前は相当なもんだし、そこらの兵士くらい蹴散らせるからあんまり私は心配してない。
「ほら、寝っ転がってないでさっさと行くよ」
「転がしたのは誰だよ……」
「さぁ?」
そらっとぼけつつアルフを引き起こして、二人で魔術学院に向かって走り出す。
と、直後に「殿下! リナルタ!」とニコラに呼び止められた。
「……お気をつけて」
「そっちもね。死人を出したらただじゃおかないから」
色々と飲み込んで一言だけ伝えてくれたニコラに軽口を返し、また私たちは走り出した。
さーて、頭のトチ狂った連中をぶっ飛ばしに行くとしますか。
相変わらず肌の表面が粟立つ感覚が消えない。それどころかますますその感覚が強くなってるのを感じながら私とアルフは魔術学院目指して走ってく。
妨害の一つくらいはあるかなーと思ってたけどそういうのは全くなく、あっさりと魔術学院にたどり着いた。
「っ、これは……」
皇都を覆うこの異様な空間の中心地なここは、アルフでもたじろぐほどいっそう奇妙な雰囲気を放ってた。どんな阿呆でも気づくぐらい魔素の濃度は異常で、陽炎みたいに建物が揺らいで見える。うう、気持ちワル。ほら、アルフ。さっさと行って終わらせよ?
「アルフ、こっち。たぶんこの建物の中」
どうやら儀式の中心地は三つある建物のうち正面の大きな建物みたいで、赤い光が天を貫いて伸びてる。分かりやすくて結構なことだね。
入口に向かってると、中から一人が出てきた。ようやく妨害しにきたってところかな……って、おや? 何か見覚えある人が。
「ほう、驚きました。まさか本当に殿下がここに来られるとは」
階段の上から偉そうにこっちを見下ろしてきたのは、前に私を牢屋にぶち込んでくれた騎士だった。えーっと、名前は確か……
「コンロッドだっけ?」
「コンラッドだ!」
そーそー、そうだ、コンラッドだ。思い出した思い出した。あの後、お城でもまるっきり顔を合わせる事なかったから気になってたんだよね。心配? いやいや、あんな事してくれたクソ野郎を心配するほど私の心は広くないよ。
地団駄を踏んでたコンラッドは、気を取り直すと前髪をキザったらしくかきあげた。
「ふん、下女風情が……またしても邪魔をするか」
「またしてもってほどでもないと思うんですけど? で? コンラッド様がそこにいるってことは――私たちの敵だと思っていいですか?」
まさかここに来て味方なはずもないしね。そしてそれを肯定するように、コンラッドがニヤッと笑って指を鳴らした。
「――出てこい」
建物の奥から次から次に人が現れる。数は十や二十じゃきかない。たぶん、魔術学院の生徒と先生たちかな?
幼さの残る子どもからすっかり髪の白くなったおじいさんまで含まれてる。口は半開き、目は虚ろの状態でフラフラと揺れてて、そのままコンラッドの後ろに横一列で並んだ。
これは……どう見ても全員正気じゃないね。
「精神操作魔術か……!」
「ご明察。さすがは殿下。聡明でいらっしゃる」
コンラッドが手を叩いてアルフを褒め称えた。ただし口調には敬意のかけらもないけど。
「コンラッド卿にこれだけの人数を操作できるほど魔術の腕があるとはね。騎士ではなく魔術師になった方が良いんじゃないかい?」
「いえいえ。私はあくまでも騎士です。この国を思い、尽くすのが本分。腐りきった国を正さなければならないのです。己の欲望に忠実な魔術師どもと同類など、身震いします」
なーにが国を正す、だよ。魔術を使って人を自分勝手に操っといて白々しい。自分の嫌いな魔術師相手なら何やってもいいとでも思ってるのかな? 何にせよ、ろくでもない野郎だね。分かっちゃいたけど。
目を凝らしてみると、魔力の繋がりがコンラッドから生徒たちに向かって伸びてた。その手をよーく見れば指輪がはまってる。コンラッドにこんなに大勢を従えられるほどの魔術的な実力はないだろうし、たぶんあの指輪の形をした魔導具のおかげかな?
「どうです? ここで引き返して頂けるのであれば、殿下は見逃して差し上げますよ?」
「ふざけたことを言ってくれる。君に言われて引き返すようなら、最初から来てないさ」
「他の皇族と違って殿下は見事な心持ちでいらっしゃる。ですが、みすぼらしい下女と二人で何ができると言うのです?」
コンラッドがまた指を鳴らすと、魔術師たちが前に出てたくさんの魔法陣が浮かび上がった。コンラッドのことだし、彼らを盾にして私たちを本気で殺す気だろうね。
しっかし、しゃらくさいけど有効な手ではある。アルフは操られてるだけの人を攻撃したくないだろうし、私だってできれば殴りたくはない。普通なら逃げ回るしか手はないし、儀式が完了するまでの時間稼ぎには十分だ。
でも、残念ながら打ち手はあるんだよね。
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