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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第2章 街の人たち

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10-2 一つヒントをやるよ





 アルフの言葉が耳に残ったまま私は自分の部屋に戻った……わけなんだけど。


「眠れないっての」


 そもそも私に睡眠は必要ない。けど、そうは言ってもいつもなら眠ろうと思ったら眠れるのに、着替えてベッドに大の字になってみても今日ばかりは全っ然眠れない。


「……よし、街に行こう!」


 ここでゴロゴロしてても退屈なだけだし、酒場ならこの時間でもどこか開いてるっしょ。

 いつもなら如何なる時も下女服(戦闘服)で出かけるんだけど、今日だけはお休み。一着しかないのに滅多に出番のない私服に着替えて街に繰り出した。

 客の少ない酒場に入って、隅っこの席でソーセージをつつきながら一人でグビグビと何杯もビールを飲み干していく。今日は苦い酒をとことん飲みたい気分なんだ。


「珍しいじゃないか、アンタがこんな時間にいるなんて」


 ハイペースで飲み干してく私に注目が集まり始めた頃、不意に視界で青いショートボブの髪が揺れた。

 ガキンチョみたいなちっちゃな体に不釣り合いの大ジョッキ。大酒飲みのギルド情報部門長・エイダだ。ちぃーっす。そういうアンタは今日も平常運転みたいだね。


「ちょいと邪魔するよ。それで、アンタが一人で飲みに来るなんて、何かあったのかい?」

「べっつにー? 私だってたまには飲みたい気分の時はあるっての」

「面白いジョークを言うようになったもんだ。良くない飲み方をしてるクセに」

「どんな飲み方しようが私の勝手だっての。アンタの流儀を押し付けないでよ」

「おっとこれは失礼」エイダがジョッキの中身を一気に飲み干した。「だが酒飲みってのは少々お節介でな。上手い酒の飲み方をついつい教授してやりたくなるんだ」

「教えたいなら勝手にしゃべってなよ。明日には忘れてるだろうけど、それで良ければ耳だけは貸したげる。てか、どうせアンタだし、私が何してんのかも分かってんでしょ?」


 ニコラたちが口を滑らせたとは思わないけど、エイダなら誰それのアソコの毛がむしり取られたくらい下らない話でもギルドのことは把握してるだろうし。


「妙なことに首を突っ込んでるってくらいは知ってるよ。けど知ってんのはそんだけだ」

「ふーん、あっそ。一応聞くけど、アンタの方で何か情報持ってたりする? あるなら高額で買い取ってあげるけど」

「バカ言えよ。皇室の金なんざ死んでも欲しくねぇし、ガキの行く末にも興味もねぇから調べようとも思わねぇよ」

「ぶれないねぇ、アンタも」


 ギルドは設立以来権力側とは距離を置いてる。もちろん有事の際は協調することもあるけどね。だけどそれ以上にエイダの皇室嫌いは筋金入りだし、お金にもうるさい。


「皇族だろうが貴族だろうが、あんなとこゴミとクズの巣窟だ。傭兵ギルドも大概だけどね、あそこはまともな人間が生きるとこじゃない。必要もないのに自分から関わりに行くやつの気がしれないね」


 そこは同意するよ。金欲と権力欲のるつぼだからね。下女として働いてる分にはまぁまぁ良いとこだけど、お貴族サマたちの中に割って入ったら次の日にでも頭からまるかじりされててもおかしくないし。


「で、首突っ込んだはいいものの、上手くいかねーからここでやけ酒飲んでるってわけか」

「ま、そんなとこ」


 それだけじゃないけどね。私の感情は私だけのもの。エイダに分けてやる道理はないし。


「なら一つヒントをやるよ」

「ヒント? 別にいいよ。後で何を請求されるか怖いし」

「ンなことしねぇっての。せっかく珍しく一緒に酒を飲み交わしたんだ。お節介お姉さんからの礼だよ」


 そ。なら聞くだけ聞いたげる。


「どんだけ調べてもなーんも情報が出てこねぇってことはな、そこには本当にアンタが知りてぇ情報がねぇんだ」

「そんなの当たり前じゃん」

「その当たり前ができてねぇって言ってんだ。情報があるんなら、それが些細な役に立たないもんでも何かしら出てくるもんなんだよ。それすら出てこねぇってんなら、まったく見当違いのとこを調べてるってことなのさ」


 そう……なのかな? 相手が上手く情報を隠してるだけかと思ってたんだけど。

 押し黙った私を他所に、いつの間にか注文してたおっきなジョッキが二つ届く。その一つをエイダは私に向かって差し出して、そしていつにも増して皮肉顔で笑った。


「そういう時はな、だいたい調べる必要がねぇと思い込んでるところに情報が転がってんだ。それを覚えときな」





 翌朝、いつもどおりてんやわんやな朝の激動ピークをどうにか乗り越えて、少し落ち着いた後で上階の掃除を一人進めていた。

 本来は上級下女の担当なんだけど、クビになったフリーダとハンナの担当分を私が引き継ぐことになってしまった次第である。もちろん私は下級下女なので断ったのだけど、


「殿下のお世話をしてるんだから実質上級下女でしょう?」


 と下女長様から一蹴されてしまった。別にアルフの世話は一切してないのだけれど、どうやら彼女らの認識はそんなものらしい。くそぅ。

 てなわけで、基本的に侯爵様以上の方々だけが脚を踏み入れることができるフロアの清掃をしているのだけど、手を動かしながら私は昨夜のエイダの言葉を噛み締めていた。


「調べる必要がないと思い込んでいるところを調べろ、か……」


 つまり、一見無関係に見えるところが実は関係しているってことか。


「無関係に見えるところ……城内、は無い。ここはお貴族サマばっかりだし、脱税と横領を調べる時にアルフたちも調べ尽くしてる。あとは……身近なとこ?」


 身近なところって言っても私たちの生活はほとんど皇城で完結してる。お忍びでアルフが街に出ることはあるけど、せいぜいがギルドくらいだ。ギルドが関係してるなら、あのエイダが把握してないはずがないし。


「他は……う~ん……」

「こんなところで何をうんうん唸ってるのかしら?」


 考え込んでたらいつの間にかリズベット様が、上級下女一人を伴ってやってきていた。


「これはリズベット様。本日もご機嫌麗しゅう」

「ふん! アンタに会って機嫌が良いわけないでしょう! 相変わらずみすぼらしい格好で下働きを続けてるのね。長いくせにまだ下級なんて、よっぽど無能なのかしら。こんなのがお城で働いてるなんて、ああ、なんて恥ずかしい!」


 リズベット様は変わらず豪華で派手なドレスをまとって私を見下す言葉を投げつけてくる。ホント、変わらないね。だからこそリズベット様らしいんだけど。

 しっかし、未だに分からないんだよね。どうして彼女がこんなに突っかかってくるのか。私が牢屋にぶち込まれた時も心配してくれたわけだし、根っから悪い子じゃないとは思うんだけどさ。

 チラリと、控えてる上級下女を見てみると、目を伏せてスンとしてる。うん、どうやら彼女は必要最低限のことだけするタイプらしい。なら……ちょっと向き合ってみようかな。


「伺ってもいいですか?」

「何よ?」

「いっつもリズベット様は私を目の敵にされてるんですけど、どうしてでしょう?」

「どうして? あっはは! この期に及んでそんなことも分かんないの? さすが万年下級下女だわ」

「はい、万年下級に甘んじてる無能の下女ですのでぜひご教示頂きたいのですが」

「いいわ、なら教えてあげる――アンタのことが大っ嫌いだからよ」


 リズベット様は盛大に悪意に歪めた顔で私を覗き込んできた。わお、シンプルな理由だね。それだけに分かりやすい。


「アンタと一緒に仕事してる時からそう。大大大大っ嫌いだったの。そのぼやっとしたとぼけた顔も、そのくせに何でもそつなくこなしてしまう手際の良さも、なのに……なのに高みに上り詰めようともせず現状に甘んじてる野心の無さも何もかもがムカつくのよ!」

「私が嫌いでしたら無視なさればよろしいのでは?」

「そういうところがムカつくのよ! 私はミリアン様の寵愛を受けてるの! 第一皇子様に愛されてるのよ!」

「ええ、存じてます」

「だというのにアンタは私に縋りもしない! 媚びもへつらいもしない! 愛敬も振りまかない! 下女のくせに『下女で十分です』みたいな顔をして……たかが下女のくせに!」

「下女がお嫌いですか?」

「ええ、嫌いよ! 下女だけじゃない。平民なんて存在が嫌い! しょせん皇族や貴族に媚びへつらって、お情けで生かされてるだけしか能がない存在じゃない!」


 おっと、それは聞き捨てならないね。

 目をまっすぐ見つめると、リズベット様が少したじろいだ。





お読み頂き、誠にありがとうございました!


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