5-5 結構魅力的だとは思うよ?
「そういえば殿下。お約束しておりました剣、受け取って頂けましたでしょうか?」
「剣……? そんな約束――ぐふぅ!?」
けげんな顔を浮かべたアルフのみぞおちに肘打ちを一発。話を合わせろと分からせてやる。突然変なことを言い出したって自覚はあるけどさ、さっきは私が急な演技に合わせてあげたんだからさ、今度はそっちが何も言わず合わせてくれたっていいよね?
「あ、あー……あの、剣の、こ、とだね……?」
「はい。殿下にふさわしい逸品でして、昨日謂れもない罪で逮捕された際に、殿下にお渡しするよう騎士様に言付けさせて頂いたのですが」チラリとクソ野郎の腰に視線を向けた。「そう、ちょうどこちらの騎士様が腰に差しているような黒い鞘の魔導剣です」
これみよがしにそう言ってやると、コンラッドの逆恨み極まりない視線がみるみるうちにどっかへ吹っ飛んでいって、顔を青ざめさせながら慌てて腰から剣を引き抜いた。
「は、はい! で、殿下に献上する剣と伺ってお、おりましたので、わ、わわわ私の方で大切にか、管理させて頂いておりました……」
「ふむ、そうだったのか。手間を掛けさせてしまったね。感謝しよう。しかしその剣が君の腰に差してあったのは――」
「も、ももも、申し訳ありませんが急用がございますので失礼いたします!」
アルフに剣を渡すとコンラッドは慌てて逃げていった。ふん、下女だからって甘く見てるからそんな目に遭うんだよ。いい気味だね。ま、それもアルフが皇子様だからだけど。
「今回ばかりは、アルフが皇子様で良かったって思ったよ」
「もうちょっと他の部分で『良かった』って思ってくれても良いんだけど……」
「そんなもんあるわけ無いじゃん。あ、でもアルフ個人は結構魅力的だとは思うよ?」
顔もいいし、強いし、下女を本気で心配できるくらい人間もできてるし。皇子様じゃなかったら色々と面倒くさいしがらみがなくて超優良物件だと思うけど。
そう本音を言うと、アルフはプイと明後日の方を向いた。ただ、私を支える手のひらが少し熱くなったような気がした。なんでだろ?
ともあれ、そんなこんなでお姫様抱っこのまま城内を練り歩き、そりゃもう数多の好奇の目にさらされながらアルフの部屋に到着した。まったく、なんて羞恥プレイだよ。
部屋に入るとずっと我慢してたため息が思わず漏れた。んで、ふと視線を感じて見上げれば、アルフがなんとも楽しそうに微笑んでた。
「部屋に着いたんだから降ろせっての」
それがなんか癪に障ったのでイケメン面に拳をめり込ませる。アルフの悲鳴が上がって私はようやく解放された。
「……君、仮にも僕は皇子なんだからさ? もうちょっと容赦というものをだね……」
「ご所望ならそう対応致しますが?」
私は別に皇子様として扱っても一向に構わないんだけどね。恭しく一礼して敬語で話してみると、アルフは肩をすくめてため息をついた。
「素の君の方が魅力だからね。痛いのは嫌だけど、かしこまった態度は遠慮しておこう」
「まーた歯の浮くようなセリフをスラスラと」
「本心だよ。ところで……コイツはどうする?」
アルフがコンラッドから受け取った剣を差し出してきた。そういえばそうだったね。
「どうしよっかな……私の部屋だとまた誰が忍び込むか分かんないし」
「君さえ良ければ、僕の部屋で管理しておこうか? もちろん勝手に使ったりはしないよ」
仮にもレオンハルトの剣だ。剣自体はもちろん、歴史的な価値も計り知れない。せっかく手に入ったそれがコンラッドみたいなクソ野郎に盗まれるのも癪だし……しかたないか。
「ならお願いします。面倒をかけるけど」
「何事ですか……?」
レオンハルトの剣の処遇に話がついたところで、男の人の声と一緒に机にあった書類の山がガサゴソと動いた。
山の陰から紫色の髪がぬるっと現れて、手探りで見つけた丸い眼鏡を、めっちゃ濃いクマができた目に掛けた。あ、起こしちゃってゴメン……って、どなた?
「ああ、誰かと思えばリナルタさんでしたか。ここにいるということは、無事に疑いが晴れたということですね?」
「紹介するよ、リナルタ。コイツはジェフリー・ローダム。ローダム男爵家の次男で、子供の頃から僕に仕えてくれてる唯一無二の存在だ」
「唯一無二とおっしゃって頂けるなら、もうちょっと僕を大切に扱ってほしいものですよ。おっと、失礼。ご挨拶するのは初めてですね。よろしくお願いします、リナルタさん」
ジェフリー様が私にも恭しく一礼する。それに私は少し驚いた。なにせこちらは一下女で、向こうは男爵家のご貴族様だし。
「女性にまったくと言っていいほどご興味を示さなかったアルフレッド殿下が懸想なさっている方ですから。侍従として礼を尽くすのは当然です」
そう言って微笑みながらもジェフリー様の視線は鋭い。私を見定めようとしてるみたいだ。てか「懸想してる」って言うな。
外堀を埋められてるようでちょっと腹立たしいけれど、それでも礼を尽くしてもらったのなら私も礼は尽くさなきゃね。エプロンドレスの裾をつまんでカーテシーで返してあげる。すると、今度は二人が驚いた表情を見せた。
「君、もしかして何処かの貴族の出自かい?」
「まさか。長らく皇城に勤めてますから覚えてしまっただけです。それで、殿下――」
「ああ、言葉遣いは気にしなくていい。呼び方も『アルフ』で構わないよ」
チラリとジェフリー様の様子を伺うと、微笑みながら小さくうなずいた。ならお言葉に甘えさせてもらって。
「んじゃ、アルフ。部屋に連れ込まれたわけだけど、私に濡れ衣着せた犯人をいい加減教えてくれない?」
「人聞きの悪いこと言わないでほしいな? 安心して会話できる場所が城内だとここだけだったんだ。それで犯人についてなんだけど……残念ながらハッキリと分かってはいない」
おっとぉ? 散々もったいぶっといてそれはないんじゃないの?
「言いたいことは分かるよ? だけど、まだ僕たちも全容が全然つかめてなくてね」
「全容? どういうこと?」
「そうだね、僕らが今しようとしていることも含めて話すことにしよう」
そう前置きしてアルフが語ってくれたのは、なんともまあ悲惨なこの国の状態だった。
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