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「ジョセフ様はこれからどうされるのですか?お聞きしてもよろしければ」
「そうだな。王太子殿下が即位するまでは、基本、ここにいるが、たまに買付に外国へ行く事になっている」
「買付、ですか?」
「そう。商人の真似事もするし、そうそう菓子店も持っているぞ」
「まあ、菓子店」
「それは流行りそうですね」
舌が肥えていて、妥協の許さないジョセフの事だ。価格設定は優しくはないだろうが、きっと流行るに違いない。
「最近はショコラの店を出したぞ」
「え、もしかして王都の『黒い鳥』ですか?」
にんまりとジョセフは笑った。
「美味であっただろう?」
「ええ!もちろん!」
「帰ったらまた行きましょう、と話していたんです!」
思わずリラと一緒に興奮してしまう。
店内の家具やファブリックも素敵だったが、何より良かったのは、店員だ。貴族の家に招待されていると感じる位に洗練されていた。あそこまで店員の教育が行き届いている店はない。貴族の家に雇われていた経験があるのかと思う位だ。
クララ達、貴族の淑女は昼間、カフェでお茶や菓子を時折、楽しむ事があるが、行ける店というのは限られる。王都の中での治安のよい通りで、なおかつ店内の治安も重要になってくる。評判の店でも、落ち着いて飲食出来なければ、足を運ぶ事はしない。
マナーの悪い客をあしらえない店も駄目だ。
「そうだろう。在学中から準備していたが、なかなか順調のようだ」
「ええ、王都のカフェは色々ありますけど、もう一流店並だと思います」
「他にも色々出すつもりだ。なかなか忙しいぞ」
「そうでしたの。実はわたくし達、ユゼファ王女殿下に招待される日を楽しみにしていたんですよ」
「おや」
「だって、きっと美味しいものや珍しいものをご準備して下さるって……」
「そうだったのか。いや、すまないね。期待を裏切って。そうだな。私の事が大体知れ渡るようになったら、こっそり開催するか」
「是非!」
期待に胸が膨らんだ。
「それで君達はどうだ?婚約の話はとんと聞こえてこないが」
「全然、お話が来ませんの」
「違います。今、吟味中です」
「そうなの?」
リラの言葉にホッとした。全く来ていなかったらどうしようか不安だった。良い嫁ぎ先はもう残っていないだろうと思っていたから。
「まあそうだろうな。家柄もだが、王太子殿下のお気入りの妹だ。嫁に貰えば引き立てて貰えると思う奴もいるだろう」
「そうです。侯爵夫妻がそれぞれ念入りに調査もしていまして」
「当然だろうな。……うん?そうか」
「どうかなさいまして?」
突然考え込みだしたジョセフに声をかける。
「そうだ。君は何かと都合が良い。私にとっても、だ。どうだ?私と結婚しないか?」
「え?あの」
「君と結婚すれば、君に対して王太子殿下も無茶は言わないだろう。将来、私の子供は王家か王家に近い貴族と結婚し、私の爵位は一代で終わるだろう」
そして金の瞳の血筋は王家から一旦は離れるが、再び王家に戻る。それを既に決められているようだ。
「厄介な事が多いが、君はその点、よく分かっている。外国語も堪能だし、食の挑戦も出来るタイプだから、外国へ行く事にも拒否感はさほどないだろう」
「ジョセフ様に都合よいだけで、クララ様には面倒な事ばかりのように思いますが」
「リラ!」
王家から離れたとしても、血筋は王家のものだ。慌ててリラを嗜めるがジョセフを楽しそうに笑った。
「リラ嬢はどうだ?ん?どんな男が好みだ?クララ嬢についてくるとなるとこちらで婿を斡旋するぞ?君は目端が利くし下の身分のものにも親切で、なおかつ美人だと評判だ。何人か見繕っておくから、家族で選ぶがよい」
リラの視線が揺れ動く。
「わ、わたくし……」
「リラ、しっかりして」
「この領地で条件に合うものが揃わなかったら、よそからスカウトしてくるぞ」
「ジョセフ様、面白がってませんか?」
「まさか」
笑いながら、ビスケットを摘んだ。
「私の都合ばかり押し付けるより、クララ嬢、君の都合もきくべきだろう?結婚するなら。君一人でこちらに来るより、リラ嬢が一緒の方が良いだろう?」
「まだ、決まっておりません。そういう事は父までお願いします」
「ああ、無論、そうしよう」
ビスケットを咀嚼し、カップを取り上げたジョセフは優雅に微笑んだ。
「クララ嬢、私と一緒に生涯、人生を楽しまないか?」




