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 教会内にある部屋に案内され、暫く待つとソフィアがお茶と茶菓子を運んできた。ジョセフと名乗った男は鼻歌を歌いながらジャムの壜の蓋を開け、ジャムを掬ってお茶の入ったカップに一匙落とし、くるり、とスプーンで掻き混ぜた。

「今、私が気に入っている飲み方だ。試してみたまえ」

 ソフィアは静かに部屋を出ていき、扉を開け放したまま、どこかへ行ってしまった。

 リラと顔を見合わせ、ソーサーに添えられたスプーンでジャムを掬う。苺のジャムだ。そろりとカップの中に入れ掻き混ぜた。

 甘い苺の香りが漂った。口に含むと甘さが口の中でほどけた。

「おいしい、です」

「そうだろう。この飲み方は遠い国の寒い地方でよく飲まれるそうだ」

「まあ、知りませんでしたわ」

「香辛料を入れ、ミルクで煮出すところもあるそうだぞ」

「香辛料、ですか」

「そう。不思議だろう」

「ええ」

 飲み物が甘いものだからか、茶菓子はシンプルに焼いたビスケットだった。

「もし、私の墓参りに来るとしたら、クララ嬢、君だと思っていたが、本当に来るとは、な」

「あの、いけませんでした?」

「いや、王太子殿下と賭けをしたのさ。私は来ないに賭け、王太子殿下は来るに賭けた」

 ビスケットを齧ったジョセフは笑った。

「賭けに負けてしまったから、私は王太子殿下の為に面倒くさい事をせねばならぬ」

「まあ、申し訳ございません」

「何より会ったのは数回だけの筈なのに、王太子殿下は君の行動を読んだ事が悔しい」

 悔しそうだが、少しだけ楽しそうに感じるのは、気の所為だろうか。異母兄弟の上、年も離れているから交友はないに等しいと思っていたが、そうではないようだ。

「ま、よいか。……驚いただろう、私が男だと知って」

「ええ、驚きました」

「少しも気づきませんでした」

「接触は最低限だったしな。制服が露出の少ないものだったのも助かった」

 制服以外の衣服も露出が少なかった理由がわかった。

「そもそも母が私が男で生まれた事により、殺されると思い込んだ事から始まった。隠し通せる訳がないというのに。女という事で余計に身が危うくなった。そう、卒業したらあの忌まわしい離宮に閉じ込められ、死ぬまで父親の分からない子を生ませる、……そんな未来がやって来る。そこで男と分かったらどうなるだろうか。そのまま殺されるか、もしくは男に嬲られるか」

 クララはその離宮を見た事はないが、とても美しい庭があり、年中、花が咲き誇っているそうだ。美しい離宮は似つかわしくない恐ろしい惨劇の舞台になり、時には高貴な女性が閉じ込められた。

「王太子殿下と取引をした。そう、決して不相応な未来を望まない、と。代わりにこの目立つ瞳を隠し、国王陛下が退位するまで、身を潜めると」

 もし国王陛下がジョセフの性別と瞳を知ったら、王太子の変更をさせるだろう。王宮は大変な騒動になるだろうし、政治も荒れる。下手をすれば国は分裂するかもしれない。

「よろしいのですか?そのような事をお話しになって」

「国王陛下が退位し、王太子殿下が即位すれば、公然の秘密として、密やかに語られるだろうし、私も王都へ出入り出来る。そう遠い未来の事ではないさ」

「……左様でございますか」

「ああ」

 近々、国王陛下は退位されるという事か。

 可愛がっていた娘に先立たれ、弱音を吐く事が多くなったと聞く。

 隠居所となる地方の離宮の手入れも始まっているようで、王太子殿下の即位に向けて着々と準備も進められている。


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