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 ユゼファ王女殿下が亡くなった。

 その一報を聞いた時、クララは手にしていたカップを落としてしまった。

 ユゼファは卒業後、すぐに嫁いだ。後見人のミュンスター子爵の親戚と結婚し、領地へ向かったのだ。

 そして質の悪い風邪にかかり、回復する事なく、そのまま衰弱し亡くなったそうだ。

 ユゼファが嫁いだ事も噂で聞いた後に正式に通達され、正直なところ真実味がなかった。

 訃報を受け取っても、信じられずにいた。

 葬儀は領地で行ったそうで、クララは友人達と合同で花を贈った。



 卒業から半年が経った。

 漸く身辺が落ち着いたが、直に友人たちの結婚式などで忙しくなる。同時に、クララ自身も婚姻に向けて動かねばならなくなる。

 その前に、領地にあるというユゼファの墓参りに行こうと思い立った。

 領地内の共同墓地にある領主の一族が眠っているところに埋葬されたという。一国の王女でありながら、王家の人間としてでなく、婚家の人間と同様に埋葬を希望したと聞いて、あの方らしい、と思った。

「そうですよね。きっと墓石もごく普通のものですよ」

「ええ、でも……」

「どうしました?」

「墓石に刻む書体にこだわってそうだわ」

 リラが弾けたように笑った。

「ええ、きっと!」

 教会の一角に墓地があるという事でまず教会にて祈りを捧げ、墓地に案内してもらう。今朝まで宿泊していた宿に頼んで手に入れた花は少し元気がなくなっていたが、供える。

「やはり美しい書体ね」

「ええ。きっとわざわざ注文されたのでしょう」

「そうね」

 この領地で大事にされたのだろうか。ミュンスター子爵の親戚という事ならば、乳姉妹のソフィアの親戚でもある筈。

「おやおや、本当に墓参りに来たもの好きがいる」

 知らない声に振り返ると黒い髪を丁寧に撫でつけ、この辺りでは珍しく体に合わせて作ったであろう衣服を身につけていた。領主の一族だろうか。瞳の色は分からない。日光が苦手なのか色のついた眼鏡をかけていた。

 見知らぬ男の出現に、じり、と下がった。反対にリラが前を出る。

「なんだ、君たちか。よくここまで来たな」

 まるで知り合いのように話しかけられ、戸惑っていると、男の連れがひょっこりと顔を見せた。

「若様、まるで不審者ですよ」

「え、あなたソフィアさま⁉」

 男に隠れて見えてなかったが、そこにはユゼファの乳姉妹のソフィアがいた。

「じゃあ……」

「ああ、そうか」

 眼鏡が外され現れた瞳の色は、金色だった。

 黒髪に金色の瞳はクララが知る限り一人しかいない。

「ユゼファ王女殿下……」

 はしたなくも呆気に取られ口をぽかり、と開けてしまう。

「ふふ。ここでは、ジョセフと名乗っている。さあ、来なさい。お茶を用意しよう」


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