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第6話「あんたは照れてる!」第二部

 次のチャイムが鳴り、昼休み前の最後の授業の始まりを告げるまで、あと数分。貴重なわずかな時間。教室に戻る途中、竜斗は進路を変え、トイレのドアを通り過ぎた。


 それは、ささやかな戦術的避難だった。教室にいれば、自分が標的になることは分かっていた。視線、ひそひそ話、もしかしたら直接的な挑発さえあるかもしれない。森田先生は彼を屠殺場から引きずり出してくれた。そして竜斗は、その休戦を可能な限り引き延ばすつもりだった。彼はただ時間を潰し、数分間だけでも敵対的な環境を避ける必要があった。それがどれほどの時間であろうと、関係なかった。


(一分もあれば、誰かに絡まれるには十分だ)


 あるいは、それが竜斗の望みだった。平和が長続きすることは、めったにない。


「三浦!」


 タイル張りの壁に反響する、ガラガラとした敵意に満ちた叫び声がトイレのドアから響いた。


 竜斗は手を洗い終えた。冷たい水の流れだけが、その場の唯一の音だった。鏡に映る自分の姿に目を上げる。いつも通り、虚ろで、意志のない顔。その目は、鏡越しに彼を睨みつける目――昨日、中庭で彼に絡んできた茶髪の少年の目――とは正反対だった。


 彼の目は生気に満ち、竜斗にとっては全く非論理的な怒りと不満に支配されていた。少年の嫉妬の起源は理解できなかったが、それが問題であることだけは特定できた。(ああ、昨日の問題の続きか)


 彼は蛇口を閉めた。突然の静寂が、緊張を手に取れるほどにした。彼は落ち着き払って、ドアに向かって歩いた。


「何の用だ、佐藤くん?」竜斗は、出口を塞ぐ少年の数歩手前で止まって言った。


 佐藤は彼を睨みつけ、胸が重い呼吸で上下し、顎が食いしばられていた。どちらも動かない。重苦しい空気が数秒間、静かな膠着状態を作ったが、それを破ったのは竜斗の、いつもの無感動さだった。


「どいてくれ…」


「待てよ、三浦!」佐藤の手がバッと伸び、竜斗の肩を掴んで、乱暴に前へ引いた。


「なんだよ、テメェ?秋山さんが同情してくれてるからって、いい気になってんじゃねーぞ?」


(同情?親切にされてるだけだと思ってたが…同情も、まあ、十分な理由か。どっちでも大差ない)


「何も思ってない…」返事は、他のどんな言葉とも同じように、感情を伴わずに発せられた。


 竜斗の視線は、佐藤のもう片方の、体の横で握りしめられている手に落ちた。彼は拳をすさまじい力で握りしめ、指の関節が白くなっていた。竜斗は内面的に衝突に備えた。恐怖からではなく、避けられない不快な出来事を待つ者の退屈さで。だが、パンチは来なかった。


「彼女に近づくな!分かったか!」佐藤の声は低い唸り声だった。


「別に、僕から近づきたいわけじゃない。でも、分かった。関わらな―」


 彼が言い終わる前に、佐藤はとてつもない力で彼のシャツの襟を掴み、その顔を自分の数センチ前まで引き寄せた。少年の歯は食いしばられ、その目は犬のような怒りで充血していた。


「この野郎!テメェのその顔が、その態度が、ムカつくんだよ!」佐藤の右拳が上がり、竜斗の頭の横で空中で震えた。握りしめられた手は、目に見えてブルブルと震えている。(怒りか?それとも恐怖?問題を起こすことへの恐怖か?それとも、俺が期待通りに反応しないことへの恐怖か?)


「怒らせるつもりはなかった、ごめん…」その謝罪は、彼があらゆる摩擦に使う社会的潤滑油として、純粋な反射で口から出た。


 その言葉は、佐藤の魔法を解いたようだった。不満の唸り声と共に、彼は殴らなかった。代わりに、竜斗をドンッと暴力的に突き飛ばした。竜斗はよろめいたが、バランスは保った。佐藤は腕を下ろし、顔はまだ俯いたままで、歯をギリギリと鳴らしていた。彼が顔を上げて竜斗の目を見たとき、その瞳はまだ燃えていた。


 だが、竜斗は何もせず、ただクシャクシャになった制服の襟を直した。


「じゃあ、失礼する」


 彼は、まだ麻痺したように立ち尽くす佐藤の横を通り過ぎ、廊下を歩き続けた。佐藤は後ろに取り残され、拳はまだ握りしめられたまま、無力な怒りと共に床を見つめていた。


 廊下のドアがバタンと静かに閉まる音だけが聞こえ、彼はそこに置き去りにされた。彼の怒りと、ただ一人で。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数学は歴史と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に退屈だった。女教師の声は単調な羽音のようで、抑揚も情熱も一切なく、まるで買い物リストでも読み上げるかのように数式を唱えている。この場の唯一のリズムは、竜斗のペンがノートにカリカリと書き込むかすかな音、近くの机で指がトントンと叩かれる苛立たしい音、そして誰かが絶え間なく足を揺する音だけだった。不安と退屈が織りなすシンフォニーだ。


 そして、外では、蝉の鳴き声。それはどこにでもあり、退屈だったが、不思議と苛立たしくはなかった。その音には、どことなく心を落ち着かせるような一定のリズムがあった。


 教師とほぼ同時に教室に滑り込み、廊下から逃れたにもかかわらず、竜斗はやはり標的になった。いくつかの好奇の目が、彼の席まで後を追う。そして決定的な一撃は数分後、教室のドアがガラリと開き、遅刻してきた佐藤が現れた時だった。自分の席に着く前に、彼の目は竜斗の目を捉え、純粋な軽蔑の眼差しが教室を横切って敵意と共に投げつけられた。トイレでの一件はまだ終わっていない、という無言の約束だった。


 ついに、金属の鐘をハンマーが叩く。その音が授業の終わりと、待望の昼食の始まりを告げた。まるでオートマトンのように、教室は動きと音で爆発する。そして、いつものように、竜斗は自分の席で身じろぎもせずに、ただ観察していた。いつもと同じ儀式。私語が支配的な音となり、弁当箱から温かいご飯とおかずの匂いが漏れ出す。椅子がキーキーと引きずられる甲高い軋み。木の床をタタタッと駆け足で進む音。


 彼は待った。五分間。人間の波が引き、通路が空になるのに必要な時間だ。教室がほとんど空になった頃、竜斗はついに動き出し、リュックから弁当箱を取り出し、いつものあのベンチ、彼の個人的な聖域へと向かう準備を整えた。


 だが今日、その儀式は破られることになる。


 バンッ!


 静まり返った教室に、彼の手が机を力強く叩く音が響き渡った。彼がビクッと小さく飛び上がった、その無意識の驚きの痙攣は、そこにまだ残っていた数人の女子生徒たち――その手の主を含めて――の笑いを誘うには十分だった。


「あら、三浦くん。今は臆病な子猫ちゃんみたいだね?」


 いつもの女性の声だった。以前は、遠くでしか聞くことのなかった珍しい音。だが昨日から、その声はとても、とても近くで聞こえるようになっていた。彼が積極的に拒絶したいと願い始めている距離で。


「秋山さん…」


「ねえ、三浦くん。あたしたちと一緒にお昼食べない?」彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。「由美ちゃんはどのみち購買に行かなきゃいけないから、どこか隠れた場所で食べられるよ」彼女の口調はからかうような、芝居がかったものに変わった。「闇の王は注目されるのがお嫌いですもんね。ううううう…」彼女は指を鉤爪のように曲げ、安っぽいホラー映画の幽霊のように、そろりそろりと近づいてきた。


「悪い、秋山さん」


 竜斗の声は、彼女が聞き慣れているよりもずっと固かった。声は大きくなかったが、真琴の幽霊のポーズを揺らがせるほどの重みを帯びていた。


 彼女は、はっと彼をちゃんと見た。すると、彼女の唇から冗談めいた響きが消えた。彼の眼差しは相変わらず虚ろで、意志がなかった。だが、それに続く言葉は、その無気力さとは矛盾していた。意図的だった。


「秋山さん、悪いけど…僕を放っておいてくれないか?」


 その後に続いた沈黙は、重く、気まずかった。真琴の顔は、相反する感情が入り乱れるキャンバスのようだった。衝撃。混乱。そして、チクリと刺すような痛み。彼女は、これほど唐突で、直接的な拒絶を予期していなかった。彼女にとっては、それは冗談だった。近づこうとする試みだった。


「どうして…?」彼女の声は、ほとんど囁きのようだった。「あたしたち、友達じゃないの?」


 友達…またその言葉だ。それは、竜斗が心の底で理解を拒む、重み、責任、意味を伴っていた。


(やらなきゃいけないんだ。必要なことだ。僕自身のために。僕の平穏のために)


 教室に残ったわずかな者たちの視線が彼を突き刺す。そして徐々に、沈黙が訪れる。彼の心の中の、沈黙が。


(世界が、無音だった)


 静寂の中、切迫感が固まっていく。(やらなきゃいけないんだ。必要なことだ。僕自身のために。僕の平穏のために)


「秋山さん、僕は―」


(『そんなこと、絶対に彼女に言うなよ、三浦くん!』)


 森田先生の声。記憶。命令。躊躇いが彼を麻痺させた。横目で、教室のドアに立つ人影が見えた。佐藤だ。同じ敵意に満ちたしかめ面、純粋な軽蔑の眼差しが彼に固定されている。外からの圧力、内なる戦い。


「僕は…」


 その時、無意識の、彼を押し潰すプレッシャーから生まれたチックのような仕草が出た。彼の左腕がゆっくりと上がり、その手が左耳の上に置かれると同時に、彼の頭は窓の方へ、虚空へと向けられた。


「…ただ、君の…その、奔放さに慣れてないだけなんだ」彼は窓に向かって、低い声で言った。「ただ…僕のスペースを尊重してほしい」


「あ…」真琴は、反応できずに声を漏らした。「うん、分かった、三浦くん…」


「よかったら―」


「失礼する」


 罠から逃れるネズミのように、竜斗は彼女の言葉を遮って立ち上がった。弁当箱を掴むと、早足で教室を出て、ドアのところで彼を軽蔑の目で見つめる佐藤とその友人の横を通り過ぎた。


 真琴は立ち尽くし、彼が消えた空っぽの出入り口を見つめていた。その顔にはまだ混乱があったが、何か別のものが形作られ始めていた。彼女の視線は、まだ竜斗が消えた廊下を睨みつけている佐藤へと移った。彼女は、そのしかめ面、変わることのない純粋で不合理な敵意を見た。


 それは、勝利への反応ではなかった。恒常的な状態だった。


 そして今回、真琴は理解した。


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