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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第33話 魔王はひさびさに新しい魔法を披露するのか

 実験場。城下町にある大学校に併設された、長方形の空間。剥き出しの地面と、物置らしき小屋。一見よくある学校のグラウンドに見えるが、ここで行われるのは運動では無く室内で使うと危険な魔法に関しての実験である。

 そしてこの場所に連れて来られたということは、今から魔王の危険な魔法実験に付き合うというわけだ。俺自身は魔法無効化の機能で大丈夫かもしれないけど、野次馬らしき若者が結構集まっているのでそいつらが酷い目に遭う可能性はある。というか危ないんだから無関係な人間は立ち入り禁止にしろよ!!


「夏休み明けなのに、結構人が来てるね~」


 魔王は野次馬たちを見回しながら、呑気に言いやがった。夏休みはいつの間にか終わっており、里帰りなどをしていた学生たちも今は戻って来ている。新学期で忙しいはずなのに、こんな場所にいて良いのか。死ぬぞ! 割と冗談抜きで!!


「なぁ、大丈夫なのか……間違って学生に魔法が当たったりしたら」

「大丈夫だって。ちゃんと的を狙うから」


 お前、そういうので死んじゃう若者って結構多いんだぞ!? 王様としてもっと安全管理の意識を身に付けないとヤバいって!


「それにしても、野次馬が多いな」

「手伝ってくれる人を募集したんだけど、予想以上に希望者が多かったよ。ボクの魔法に興味がある人が多いのかな」

「だったら良いけどな」

「それとも手伝いの報酬を少し高めにしたからかな」


 そっちだ。


「手伝いって、具体的には何をやるんだ?」

「今日使う魔法は的に当てたいから、それの設置だね。あと念のため治癒魔法を使える人も募集したよ」

「治癒魔法って、お前がいれば良いんじゃないか?」

「そうなんだけど、実験場の規則で必ず何人かは必要なんだよね。決まりはちゃんと守らないと」

「王といえども法の下にある、か」

「それ、悪魔さんの世界の言葉?」

「まぁな」


 本当は「神と法の下」なんだけど、この世界における神っぽい奴はアレなので削りました。全能の神という概念が薄い世界は時々面倒だな!


「クマ……じゃなかった、魔王様、的の設置完了しました!」


 男子学生が俺たちに駆け寄り、報告をした。


「ありがとう。的の近くは危ないから気を付けてね」

「はい! 皆にも伝えて来ます」


 そう言って、男子学生は的の近くにいる学生たちの方に向き直る。


「なぁ、ちょっと良いか?」

「はい?」


 俺は男子学生を呼び止めた。


「なんか野次馬が多いんだけど、どうしてなんだ?」

「だって、ク……魔王様と悪魔さんの面白いやり取りが見れるって、噂になってますから」


 なにそれ。


「何でそんな噂が……」

「夏休みの前、ク……まお……じゃなかった、クマ先生と悪魔さんが大学で愉快なことをしてたからだと思います!」


 めんどくせぇな、魔王の偽名システム。


「クマ先生とそんなに面白いことしてたの、悪魔さん?」

「分かった、ありがとう」


 魔王の質問を、無視!! テメェのその無駄な偽装で学生たちが混乱してるのが分からないんですかい!?


「それにしても、ボクとクマ先生を間違える人って結構いるんだよね。なんでだろうね」

「ははは……」


 魔王の言葉に男子学生が愛想笑いを作った。これはあれだな、立場の関係で怒るわけには行かないけど内心では「コイツ殴りてぇ」って思ってる奴だな。


「だが俺は殴れる立場にあるっ!!」


 魔王の頬に向かってパンチを放つ俺!! 「うわっ、何するの悪魔さん!!」と言って回避する魔王! テレビのバラエティ番組でよく使われる効果音みたいな笑い声を上げる野次馬集団! 若者たち、魔王の魔法実験は見世物でも無いし、そんな無闇に笑うことは許されないんだ!!


「も~、突然何するの悪魔さん」

「スマン、誰かがお前を殴れって言ったような気がして」

「疲れてるの、悪魔さん?」

「かもな」


 原因はお前。


「いや、やっぱり面白いですねお二方」


 男子学生は楽しそうにそう言った。楽しんでもらえて芸人冥利に尽きる。誰が芸人だ。


「それでは、的の周りから離れるように伝えて来ます」

「うん、お願いね」


 しばらくして的の周囲には誰もいなくなった。俺たちから10メートル以上離れた地点に、同心円が書かれた木製の立て看板が5つ。その背後には石壁があるが、恐らく魔法が実験場の外にある木などに当たらないようにするためのものだろう。実験場の裏には林があるし、そこに火炎魔法でも命中したら大惨事である。それを防ぐのは当然と言えた。


「よーし、頑張るぞ」


 ただ、魔王の放つ魔法の威力が強すぎた場合、魔法が壁を突き破って外に出る可能性もある。その場合はあきらめよう。というか、頑張るな魔王!


「それで、今日はどんな魔法を使うんだ?」

「今回使う魔法、その名はビィィィム!」

「ビィィィム……」


 どんな魔法か分かったわ。


「指から光が出る奴か?」

「さすが悪魔さん、詳しいね」

「……まぁな」


 だってそのまんまだし!

 それにしても、異世界で使える魔法は全てクリエイターが開発したと考えられているのだが、あいつらなんでビームの魔法とか作ったんだ? 指からビームが出るのが面白いとか、そういう感じか? あり得るから嫌だ。


「ビィィィムの魔法は、魔力を帯びた光の粒を飛ばす光の魔法なんだよ」

「ああ、分かって……ちょっと待った」

「なに?」

「光の魔法って、光属性ってことか?」

「多分そうだね。魔法の属性についてはまだまだ分類が難しいけど、ビィィィムは光属性だと思うよ」

「なんで大魔王の眷属で、闇属性が強いはずのお前が使えるの?」

「なんでだろう?」


 首を傾げる魔王。これだから感覚でやっちゃう奴は!


「でもさ、大魔王様も光の球とか出してたよね?」

「……そういえばそうだったか」


 あんまり覚えてないが、確かに大魔王も光の魔法らしきものを使っていたような気がする。ということは、魔族って完全な闇属性じゃないのか? よくよく考えると魔族と人間で子どもが出来てる点からも両者にそれほど種族的な違いは無いはずで、そうなると光属性であるはずの女神の眷属と闇属性であるはずの大魔王の眷属は割と近いことに……えっと、つまりどういうこと?


「大魔王様って、ボクや悪魔さんが思っているほど闇じゃ無いんだと思うよ」

「……そうなのかもな」


 完全な闇属性であれば、恐らく魔族はこれほどの多様性を得ることは無かっただろう。クリエイターの設計なのか、それとも女神との戦いの中で変化したのかは分からないが、大魔王にも光の魔法を行使する資質があった。それが受け継がれたことにより、魔王もまた光の魔法を使えるというわけだ。


「複雑だな、人ってのは」

「急に何言ってるの悪魔さん?」


 まぁ、急に何言ってるんだ俺、って感じだけどさ、ちょっと真面目なこと考えてたんだよ!


「気にするな。それより、さっさとそのビームを撃て」

「ビィィィムだよ」


 どうでもいいわ!


「じゃあ行くね。ビィィィム!」


 魔王が伸ばした右手人差し指から、光の弾が発射された。光線というよりは、光弾。速度も光の速度では無いが、粒子の集まりだと考えると威力はそれなりだろう。的を外れたビィィィムが石壁に大きな陥没を作っていることからも、そのことが分かる。


「外してやんの、わっはっは」


 俺の笑い声に続いて、野次馬も笑い声を上げた。お前ら、もしかして魔王への嫌がらせのためにここに来てるのか?


「大丈夫だって、次は当てるから」


 そう言って魔王は再び指を伸ばす。


「ビィィィム!」


 再び、光の弾丸が発射される。見た感じでは、空気中の粒子にエネルギーを加える魔法では無く別の異世界から粒子を呼び出す魔法のようである。ということは、そういう粒子が満ちている異世界がどこかにあるわけだ。その異世界の粒子を使えばビームなライフルとかライトなセイバーとかメガな粒子砲とかビッグバンなアタックとか出来そうであるが、そのためにわざわざ専用の世界を作っているとしたらクリエイターは相当物好きである。面白いものでは無く、もっと人類の平和と健康に寄与する技術を磨けば良かったのにね!


「やった、当たったよ!」


 などと色々考えていたら、魔王の放ったビィィィムが的に命中したらしい。見ると、立て看板の1つが先端からぷすぷすと煙を出す木の棒と化していた。そして、背後の壁がさらに陥没していた。ヤバいんじゃね?


「もう1回」

「やめろ」

「えー」

「威力が高すぎる。後ろの壁がそろそろ崩れるぞ」

「それならいっそ崩すつもりでもう1回……」

「やめろって」

 

 伸ばされた魔王の人差し指を掴む俺。この状態でビィィィムを撃ったら俺の魔法無効化と干渉して魔王の指が吹っ飛ぶんじゃなかろうか。指鉄砲が暴発とかマヌケすぎて面白いな。


「ところで、この魔法はどんな時に使うつもりなんだ?」

「ほら、この前聖獣と戦ったでしょ?」

「ああ」


 聖獣。女神の眷属にして、勇者となっている可能性の高い猛獣。見た目はウサギだったが、他の聖獣もそういう見た目かどうかは不明である。もし全部ウサギならば、光属性のビームよりも光属性の手榴弾とかを使った方が良いと思う。なんとなくだけど。


「聖獣ってビリビリが効かないのもいたんだ。仕方ないから威力が高い魔法を使ったんだけど、効果範囲が広いからボクまで大変な目に遭ったわけだよね」

「それに何の問題が?」

「問題だらけだよ! もし強い聖獣が魔族の生活している村とかに現れたら、村ごと吹き飛ばさないといけなくなるでしょ!?」

「確かにそうだな」


 そうなると効果範囲が狭くて威力が高い魔法が求められる。そのためのビィィィムか。


「ボクが今まで覚えていた強い魔法だと、どうしても命中させるのが難しそうだったからね。ビィィィムなら他の魔法よりも命中させやすいと思うんだ」


 確かに10メートル先の的に当てられるのであれば、それほど命中率は悪くない。弾の速度も速いので、動きが素早い聖獣に対してはそれなりに有効だろう。


「それとね、上手く使うと便利なんだよ」

「便利?」

「こうやって地面に向けてね」


 魔王は地面に人差し指を向け、光の粒子を放つ。ただし先ほどよりも速度は速く、一方で粒子の量は少ないようだった。魔王の指から出る粒子はまるで熱光線のように、地面に焦げ目を付けていく。


「威力を抑えれば地面に文字が書けるってわけか」

「そういうことだね。武器としても使えるし、魔法陣を書くのにも使える。手が届かない場所に魔法陣を書く場合は凄い便利だよね」

「なるほどな」

「でも魔力は結構使うから、他の魔法と上手く使い分けたいね」


 そう言いながら、魔王は地面に魔法陣を書いていく。なんか楽しそうだな、熱光線。俺の疑似人体にも悪魔ビームとか出せる機能が欲しかったわ。


「よし、出来た」

「…………」


 魔王はビィィィムを止め、仕上げとばかりに「えい」と魔法陣を指さした。魔力を注入でもしたのだろう。


「じゃあ悪魔さん、ちょっとこの魔法陣を踏んでみて」



 勇者カウンター、残り9452人。


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