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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第25話 水着は誰が一番なのか

「うーん……無いな……」


 いつもの部屋のいつものタタミの上で、異次元収納装置に手を突っ込んでいる俺。

 異次元収納装置には知識の提供に必須な本や異世界での情報を得るための機器以外にも多くの物が収納されており、その中から俺が今探しているのは水着であった。数日後に水禍の王がいる島に行くということで、当然ながら海でウハウハザブーンと泳ぐことが考えられる。つまり、水着が必要だった。

 しかしいくら異次元収納装置を探しても、見つかる衣服は普段着やらスーツやら同調加速(シンクロ・アクセル)の全力運動にも耐えられる戦闘服といった陸上用の物ばかりで、水に強い服が無い。いっそここは下着で……いや、あえてスーツか。

 などと困っていると、部屋に誰か入って来た。ヒメか、メイドか、魔王か! 誰でもいい、水着下さい!


「……」


 入って来たのは、王妃だった。一番水着持ってそう。


『すみません、今、お時間ありますか』


 手帳に書いた文字を見せる王妃。時間はあるけど、まずはあれだ。


「王妃って、男用の水着用意できる?」

『夫のために何着か作りましたから、それで良ければ』

「助かる。それで、何か俺に用なのか?」

『水着を見てもらおうと思いまして』

「王妃の!?」


 マジか!

 首を横に振って否定する王妃。

 だよね。


『私の水着は、夫に見てもらいますから』

「あんたらはラブラブで妬けるっすね」

『でへへ』


 王妃が手帳に書いた文字を、翻訳機がそう翻訳した。俺の中にある王妃のイメージが崩れつつあるが、子持ちの人妻に清らかなイメージを抱く方が間違っているので諦める。


「そうなると、ヒメの水着を見ればいいのか」

『それとマリアとメアリのもお願いします』

「……なんで?」

『見たくないんですか?』

「ちょっと見たい」

『そうですよね』


 にこやかに微笑む王妃。何を企んでいるのか分からないのが正直不気味なんだけど、悪意があるわけでは無いようなので流れに身を任せる。つまり正直に言って、見た目だけは美人な女性たちの水着姿見たいッス!


『それでは、まずはマリアからですね』


 手帳を見せた後、王妃は部屋から退出する。マリアの水着姿か……あいつはゴリラだから筋肉凄いんだろうな……あんま期待できないか……

 二の腕に力こぶを作るマリアの姿を想像していたら、水着姿のマリアが部屋の入口に現れた。


「……」

「……」


 胸の辺りを両腕で隠し、目線を俺からそらし、少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしているマリア。これは…………意外とポイント高いんじゃね?


『どうでしょうか?』


 マリアの横を通り過ぎ、王妃が俺の横までやってくる。


『悪魔さんの世界には色々な水着がありますが、マリアには「ビキニ」という水着が似合うと思いました。色は彼女の性格を考えて、赤にしてみました』

「なるほど……確かに似合うな」

「な……なんですか、その感想はっ! どうせ胸しか興味が無いくせにっ!」


 もじもじしながら文句を言うマリア。お前の言う通りいつもなら胸を凝視する所だが……


「…………」

「……なんでおへその辺りを見ているのですか?」

「いや、思ったより腹筋が無くて綺麗だな、と」

「なっ……!」


 俺の言葉に慌てて腹部を隠すマリア。腕や脚の筋肉も筋肉質というよりは引き締まった健康体で、どうもゴリラパワーは筋力では無く魔力によって発揮されているようだ。ゴリラマジック。

 まぁ、それはそれとして……


「……」

「……って、次は胸を見ていますわね!? 汚らわしい視線ですわっ!」


 そう言って後ろを向いてしまうマリア。だがな、マリア。お前は水着を理解していない。


「…………」

「…………ま、まさか次はお尻を見ているのですね!? ああもう、何なんですの貴方はっ!!」


 ついにマリアはしゃがみ込んでしまう。うん、今の一連の流れで今までのマイナスを全部消しても良い気にすらなるぜ!


「大体、この水着というもの、どう見ても下着じゃありませんか……悪魔様の世界の女性はどうして、こんなものを人前で着れるのですか……」

「あれ? この世界って水着無かったの?」


 俺が尋ねると、王妃がこくり、と頷いた。


『魔界では海に入るのは水の魔法が得意な魔族や水の中で生活できる魔物の方々ばかりで、そのような方々には水着というものは必要無いようでした』

「地上の人間たちはどうなんだ?」

『仕事で海に入る人々は多いのですが、水着という海で遊ぶための衣服はありません。なので、悪魔さんの世界の本を参考にして私が作りました』


 超すげぇ。新しい衣服を作っちゃうのもそうだけど、魔王みたいに「ミズーギ」みたいな怪しい言葉になってない所もすげぇ。恐らくこの世界の単語を上手く組み合わせて、「水着」という言葉に対応する新語を作り上げたのだろう。ダブルすげぇわ。


『水着を作るのに特に苦労したのは、素材となる糸を探すことでした。水に濡れても透けず、伸縮性にも優れた糸はなかなか見つかりませんでした。ですが地上に生息している動物の中にそのような毛を持つものを見つけ、今はその飼育に多額の投資をしています』

「水着のためだけによく投資できるな……」

『夫や魔界に住む貴族の方々に水着を紹介したところ、とても好評でした。またその毛を使ってネコミミ、イヌミミ、ウサミミといった装飾品も作りたいと思ったので絵を見せたところ、投資を即断していただけました』


 つまり女の子の水着やらネコミミやらが見たかったのね魔王とその他の奴ら! 正直かよ!


『まだ水着を量産するまでには至っていませんが、体制が整ったら水着やネコミミをたくさん作るだけではなく他の衣服にも使いたいと考えています。水を弾く性質があるので、雨季に着る服などに使えると思うのです』

「そこまで考えると、無駄な投資とは言えないな。流石王妃だ」


 素直に感想を言うと、王妃が自慢げに胸を反らした。本当に14年前と比べて明るい性格になったなこの人……その辺はヒメにも影響してる気がするな。


『それで、マリアの水着はいかがでしたか?』


 王妃が手帳の文字を俺に見せ、続いてずっとしゃがんだままのマリアにも見せる。


「普段とは違う態度も含めると、相当良い」

「それじゃあまるで、普段の私がダメみたいではありませんか!?」

 

 その通りだが?


「ところで王妃、マリアは意外と露出が多い服が苦手なのか?」

『男性に肌を見せることに慣れていないようです。かわいいですよね』


 ああ、分かったわ。この人は俺とマリアとメアリとヒメの全員で遊んでるわ。良いご身分だと言いたい気もあるが生い立ちを考えるとそう言えないのが困る、そんなシンデレラさん。


『それでは、次はメアリを呼んできますね』


 王妃が立ち上がり、マリアの横を通り過ぎる。


「あの、私はどうすれば良いのでしょう……?」

「とりあえず俺は後ろ向いてるから、その間に着替えて来い」


 俺はマリアに背を向け、目をつぶる。


「本当に、どういう人なんですの貴方は……」


 ぶつくさと何やら言いながら、マリアが部屋から出ていくのが分かった。やれやれ。

 そして目を開けて入口の方に体を向けると、王妃がメアリとマリアを連れて部屋に入って来るのが見えた。ああ、逃げられなかったのね。


『どうでしょうか?』

「あ、ああ」


 王妃が手帳の文字で質問してくるが、それより部屋の隅でしゃがみ込んでしまったマリアが気になって仕方なかった。恥ずかしがる必要なんて全く無いんだから堂々としてろよ……! もっと水着見せろよ……!

 まぁ、それはそれとしてメアリである。


「……スクール水着?」


 恥ずかしそうな表情で軽く俯いているメアリが着ていたのは、藍色に近いスクール水着だった。正確にはスクール水着とは異なる箇所も多いが、スクール水着っぽいのでスクール水着でいいや。


『はい。メアリは肌の露出が多すぎると人前に出れそうに無かったので、布の面積が多い「スク水着」が良いと思いました』


 それならマリアもスクール水着にすべきだった気もするが、そこは王妃の美学が許さなかったのだろう。あとスク水着なんて言葉は無い。

 そんでメアリをじっくり見ると、マリアよりも多少肉付きが良いため水着が引っ張られているようにも感じた。特に胸の辺りで。胸の辺り。胸の辺りですだよ。


「あ、あの……」


 か細く声を出したメアリ。


「なんだ?」

「視線がその……気持ち悪いです」

「……ああ」


 自覚してる。


「あの……そろそろ戻っても良いですか」

「ああ」

『ダメです。最終審査が終わるまでは部屋にいてください』


 王妃がストップをかけた。ってか何だよ最終審査って。


「は、はい……分かりました」


 仕方なくという様子でメアリはマリアの隣に移動し、しゃがみ込んだ。何か気まずいんですけど……


『それでは、最後にヒメを連れてきますね』

「お、おう……」


 部屋を出る王妃、待たされる俺、怯える獣のように隅でじっとしているメイド2人。もっと明るく水着審査したかったよ俺は!

 そして、ヒメと王妃が部屋に入って来た。


「どうじゃ!」


 ヒメが両手を広げて水着を見せびらかす。フリルの付いたワンピース型の水着。色は薄いピンクで、とても女の子らしく見えた。デザイン性では一番だろう。


「どうじゃ!」

「うん、可愛い」

「……反応が薄いのう」


 ヒメが何故か不満そうだ。本心から可愛いと思っているんですけど……


「ヒメは水着が恥ずかしくないのか?」

「可愛いから恥ずかしくないのじゃ。この服なら悪魔殿と一緒にお風呂にも入れるのじゃ」

「それはやめとこう。大体、一緒にお風呂に入るとかはあそこにいる格好悪い奴の悪ふざけだしな」

「か、格好悪い奴とは失礼じゃありません!?」


 マリアがしゃがんだまま反論する。だがその姿に説得力は微塵も無い!


「悪魔殿、本当に私の水着姿は可愛いのか?」


 ヒメがタタミの近くにまで寄ってきて、水着の前後を俺に見せる。


「ああ。可愛いな」

「やっぱり反応が薄いのじゃ」

「ヒメは普段から可愛いから、水着が特別って気がしなくてな」

「ごふっ」


 変な声を出してヒメが顔を覆う。今のセリフのどこに動揺する要素があったのか俺には分からんのだが。


「くっ、じゃが悪魔殿を水着でドキドキさせなければ気が済まないのじゃ」

「何か手はあるのか?」

「そ、それは……マリアやメアリのように、胸の谷間を……」


 そう言ってヒメは水着の胸の部分を引っ張ろうとする。俺は慌ててヒメの両肩を抑える。


「あ、悪魔殿……?」

「やめなさい」

「で、でも悪魔殿はおっぱ」

「やめなさい」

『悪魔さんの世界では小さい女の子が無闇に裸を見せてはいけないんですよね』


 王妃が俺とヒメに手帳の文字を見せた。ナイスアシスト。


「ああ。だからやめろ。それ以上いけない」

「そ、そうなのか……でも、だったらどうすれば……」


 ヒメはしばし考える仕草をした後、何かを思いついたらしく急に笑顔になった。


「何か良い考えが浮かんだのか?」

「うん! お兄ちゃん!!」

「ぐほぁっ!!」


 それ正解!


「やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんが好きなんだね!」

「それはちょっと言葉の意味が分からない」


 違和感のおかげで俺はすぐに復活した。妹力がまだまだ低いな、ヒメよ。


「むむぅ……他の呼び方も試してみるかのう……」


 ヒメが思案し始める。それを見ていたら、俺の肩を王妃がトントンと叩いた。


「何だ?」

『お兄ちゃん』

「誰がお兄ちゃんだ」


 悪戯っぽく笑っていた王妃が、少しだけ残念そうな顔をした。というかヒメが俺の妹分だとすればアンタはお母さんかおば……いや、言うまい。

 でもちょっとだけ言ってみよう。


「お母さん」


 王妃は目をぱちくりとさせ、手帳にこう書いた。


『はい、お母さんです』


 こうかがないみたいだ……


「よし、これで行くのじゃ!」


 ヒメが良からぬことを思いついたらしいので、身構える。


「ヘイ、おやぶん!」

「よし可愛い。でも本当に意味が分からない」

「うーむ、やはり悪魔殿はお兄ちゃんで攻めるのが正解かのう……」


 呼び方で人を動揺させる遊びはやめてくれませんかねぇ。


『それで悪魔さん、3人の中で誰が一番水着が似合っていましたか?』


 王妃の質問に、俺は改めて考える。全体的な得点は信じられないことにマリアが一番と言えたが、男としてはメアリも捨てがたいし、ヒメはとにかく可愛い。よって、決められない。


「引き分けで!」

『それで悪魔さん、3人の中で誰が一番水着が似合っていましたか?』


 再度、手帳の文字を見せてくる王妃。


「だから、引き分けで!」

『それで悪魔さん、3人の中で誰が一番水着が似合っていましたか?』


 三度、手帳の文字を見せてくる王妃。お前はロールプレイングゲームの登場人物か!


「王妃様! 見つけましたよ!」


 急に部屋の入口から大声が聞こえた。見ると、1人の男が……ん? いや、見たことあるなコイツ。


「もしかして、勇者が来た時にいつも知らせに来た……」

「あ、はい悪魔さん! お久しぶりです!」


 男はにこやかに答えた。かつての勇者がこの城を襲撃しに来るたびに、この部屋に報告に来ていた男性魔族。最近見ていなかったが、どうやらまだこの城で働いていたようだ。


「ああ。調子はどうだ?」

「勇者がいなくなってから少しだけ暇になりましたが、今は魔界や地上の各所から来る連絡を魔王様や王妃様に伝える伝令の仕事で忙しいです!」

「大変そうだな……」

「はい、魔王様も王妃様もなかなか最後まで連絡内容を言わせてくれませんので!」


 仕事内容というより上司の態度に問題があるのね。


「ところで悪魔さん、この見たいけど見ていてはいけない気がする状況は何ですか?」

「的確な表現だな。王妃がメイドとヒメに水着を着せて遊んでたんだ」

「ちょっと王妃様、印刷工房から早く原稿を送ってくださいと催促が来ているんですよ! こんなことしている場合じゃ無いですよ!」


 え、締め切りから逃げてたの白雪シンデレラ先生。

 そして王妃はシンデレラらしく、伝令さんから逃げようとする。


「あっ、逃げないでくださいよ!」


 伝令さんが追いかけるが、王妃はタタミの周囲をぐるりと回って部屋の入口から脱出した。それに続いて、伝令さんも部屋の外に出る。

 残ったのは俺と水着姿の3人。


「さて悪魔殿、誰が一番なのじゃ?」


 ヒメが笑顔で答えを求める。他の2人はなんかもう、憔悴してる。


「……ヒメが一番で」

「正直に言って欲しいのじゃ」

「可愛さはヒメが一番だ」

「ふむ、では水着が一番似合っていると思ったのは?」

「……なんと、マリアだ」

「なんとってどういう意味ですか!?」

「それでは、メアリは何が一番なのじゃ?」

「…………女性らしさ」


 エロさという言葉をオブラートに包みます。


「なるほど、確かに私たち3人はそれぞれ違った魅力があるからのう」


 うんうんと頷くヒメ。どうやら分かってくれたようだ。お兄ちゃんうれしい。


「でもしっかりと一番を決めないと私は納得出来ないのじゃ。だからもう一度、2人の水着姿をちゃんと見て欲しいのじゃ」


 そう言ってヒメは座り込むメイド2人の元に駆け寄り、立たせようとする。


「嫌ですわ! こんな恥ずかしい姿、もう見せたくありません!」

「わ、私もあんな目で見られるのは嫌です……」

「マリアは水着が良く似合っているし、メアリが悪魔殿に見られるのは魅力的だからじゃ。だからもっと見てもらうのじゃ!」

「…………」


 俺はそっと立ち上がり、靴を履く。


「どこに行くのじゃ、悪魔殿?」

「便所」

「うむ、早く帰って来るのじゃぞ」

「ああ」




 そのまま逃げました。



 勇者カウンター、残り9829人。 

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