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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第24話 悪魔と魔王は疑問に答えを出せるのか

 夜遅く、いつもの部屋のいつものタタミの上で本を読みながら、俺は魔王を待っていた。勇者に関する情報について話し合いたいとのことだが、約束の時間になっても魔王は来ていない。遅刻魔、つまり遅刻の魔王だな。何故だろう、時を操る感じでちょっと強そうに思える。


「ごめんごめん、ヒメがなかなか寝てくれなくて」


 そう言いながら、遅刻王が書類を持って部屋に入って来る。仕事とパパの両立は大変っすね。


「話し合いなら日中にやれば良いのに、なんで夜なんだ?」

「今はほら、夏休みでしょ? ヒメに聞かれたくない話もあるからね」

「なるほどな。確かにそれはあるな」


 勇者と戦うことは、人間を殺すことである。そんな話を13歳の少女に聞かせたくないのは、俺も同意見だった。それなら施錠できる会議室とかで話せば良いのにと思ったが、この城にそんなものあるのだろうか。まさかと思うがドアすらないこの部屋が会議室扱いじゃなかろうな……


「それじゃあ、早速始めようか。まずはこの前の戦場で分かった情報についてまとめたいね」


 テーブルの上に地図やら報告書らしき文書やらを置き、魔王がタタミに腰を下ろす。


「確か悪魔さん、勇者の正体がどうのこうの言ってたよね?」

「ああ」

「何か分かったの?」

「計測装置によると、勇者となった人間の魂には余計なもの、つまり分割された勇者の魂が付いていた」

「それって、勇者になっちゃった人は魂が2人分あるってこと?」

「いや、大きさとしては本来の魂の方がずっと大きい。それでも勇者の魂は何かしらの影響を与えているはずだ」

「ええと、魔物の体内に潜んで生きている虫がいるって聞いたことがあるんだけど、そういうの?」

「寄生虫か。まさしくその通りだな。なかなか良い表現するじゃないか」

「わーい、褒められたー」


 両手を上げて喜ぶ魔王。俺をバカにしているようにも見えるけどなっ!


「それで、その寄生虫は宿主である人間の魔力を高めると共に、魔族への敵意を増幅させる。そして恐らくだが、魔族とそうでないものを見分ける能力を宿主に与える」

「どのくらい魔力が強くなるのかな?」

「それは分からないな……宿主となった人間の魔力もあるから、測定は難しい」

「ややこしいね。それで、その寄生虫は取りついてる勇者が死ぬと他の勇者の所に行くんだよね」

「ああ。あの戦場で最後に残った勇者の変化から考えると、それは確実だろうな」

「ということは、このまま勇者を倒していくと最後は1万人分の寄生虫が取りついた勇者と戦うってこと?」

「気持ち悪い表現をするな」

「悪魔さんが寄生虫って表現が良いって言ったんでしょ!?」


 うん。でもそれはそれ、これはこれだ!


「ともかく、このまま勇者を倒すのも危険……いや、放置してもいずれは死んで、最終的には1万人が融合した合体勇者が出現するな」

「防ぐ方法ってあるかな?」

「この世界を作った連中は俺たちと勇者の戦いを見物しているらしいから、防ぐ方法が見つかっても対処されるだろうな」

「そうなると、むしろ早めに勇者を倒して被害の出る範囲を減らした方が良いかな」

「だろうな。敵の思惑に乗っているようで気に喰わないが、被害者が出る前に勇者を倒していくしか無いだろう」


 まったく、これなら最初から1万人分の力を持った勇者を出現させてくれた方が遥かに楽だったな。クリエイターの悪辣さは他者の苦労や苦悩、悲劇を娯楽として求める性質ゆえか。そんなものマンガや小説とかの創作で満足しとけば良いのに、困った連中だ。絶対ぶん殴る。


「あとさ、寄生虫の勇者が」

「その呼び方やめよう。勇者の断片にしよう」


 寄生虫の勇者ってなんだよ。魔王を倒すために選ばれたサナダムシの勇者とかか? それが十匹いてサナダ十勇者! アホか。


「わかったよ。えっと、勇者の断片なんだけど、本体の人間が死んだ後に移る相手って、何か決まりがあるのかな?」

「移動先か……法則性があるとするなら、一番近くにいる勇者とかか? でも魂にとって距離はそんなに重要じゃ無い気もするな……」

「それなら、本体の人間にとって一番親しい勇者とかかな。戦場であった勇者は仲間同士だったみたいだし」

「その可能性もあるが、そうなると友人のいない勇者はどうなるんだろうな」

「適当な相手に移動するんじゃない?」

「何だかぼんやりした法則性だな。法則が無いという可能性は戦場での一件からかなり低いと考えられるし、何らかの法則はあると思うんだが……」

「今のところは分からないってことだね。そうなると、安全だと思ってた地域に突然強い勇者が現れることも考えないとだね」

「そうなるな。本当にもう、謎が多いってのはキツイな……」


 こうやって俺たちが困難に直面しつつ、それを乗り越える姿を見たいんだろうなあのクソ人工知能融合人間ども。もうマジで絶対ぶん殴る。


「あと、城下町の孤児院にいる子どもたちだけど」

「……勇者らしき子は、いたか?」

「標準魔導石に魔力を注入する魔術装置を使って魔力の強さを測っているけど、今のところ目立った子はいないかな」

「そうか、それは良かった」


 とはいえ、マナをはじめとした人間の子どもたちの中に勇者がいないと断言できたわけでは無い。今後も注意して、勇者の兆候が見えた場合は何かしらの対策を取らなければならない。殺さずに済む、対策を。


「勇者の件、孤児院に関係する人たちには説明しているのか?」

「孤児院の院長や子どもたちの世話をしてくれている子守の人たちには説明したよ。子どもたちの中に勇者がいた場合は危険な目に遭うかもしれないって伝えたけど、『私たちがあの子たちを見捨ててしまったら、誰があの子たちを助けてあげるんですか!』って、みんな死も覚悟で子どもたちの世話を続けることにしたみたい。凄いよね」


 ガチで凄いわ!! 魔族なのに聖人かよ。


「孤児院の近くに兵士の人を常駐させているし、何か変化があったときはすぐにテレフォンで連絡するように言っているから大丈夫だと思うけどね。いざとなったらボクが超高速化でどうにかするよ」

「体制は整っているわけか。子どもたちを疑うのはあまり良い気分じゃないが、流行り病に対応するのと同じ認識で行くしかないだろう」

「それって、ボクがお医者さんってこと? お医者さんってちょっとなってみたかったんだよね」


 お前、ケガとか身体の異常を一瞬で治せる魔法使えるよね!? 医者とかそういうレベルじゃねーぞ!


「それでまぁ、城下町のことは良いとして他の地域はどうなっている?」

「勇者による被害がひどい場所は無いかな。都市の方ではどんどん勇者が団結しているって話で、そっちの動向が一番気になるかな」

「勇者の軍団が出来たとしたら……やっぱりこの城が狙われるか」

「攻めてくる可能性は高いよね。対策は考えているから、楽しみにしといてね」


 なんだその『次回、勇者侵攻。お楽しみに!』みたいなの。全然楽しみじゃねぇ。


「都市部での動き以外に気になることは無いか?」

「えーと、勇者と関係あるか分からないけど、なんか地上の動物が凶暴になってるみたい」

「動物が?」

「もしかしたら勇者が調教している動物かもしれないし、よく分からないんだけど」

「ふむ……」


 勇者である可能性があるのは、女神から生み出された人間だけのはず……いや、クリエイターは人間だけって言ってたっけ? 女神の眷属とか言ってた気がするな……あとで記録を確認しておくか。


「他の魔王から調査の要請は来ているか」

「水禍の王から要請が来ているよ。なんか今滞在している島にある森がざわついているから、調査してほしいんだって」

「あまり関係無さそうだが、調査を断るわけにも行かないんだよな」

「そうだね。後回しにしても良いんだけど」

「いや、行こう。何もしないよりかは、怪しい場所をどんどん探った方が良い」

「うん、わかったよ。準備に時間がかかるから、何日かしてからだけどね」


 とりあえず、次の目的地は決まったわけだ。徒労に終わるかもしれないが、情報を得られる可能性を見逃してしまえばそれだけ不利になる。どうせやること無いし、南の島で夏休みらしいこともしたいなーとか思っているわけでは無い。


「あ、あの、お二人とも、お疲れ様です」


 夜も更けた時間のはずなのに、突然メアリが2人分のお茶を持って部屋に入って来た。魔王城はブラック企業なのか?


「あれ、メアリ。なんで起きているの?」

「あの、王妃様がまだお仕事中でして、それで……」


 メアリが説明していると、その後ろから王妃が現れた。夜更かしは美容の大敵ですぜ、王妃様。


「まだ起きてたんだ。もしかして、マンガの仕事?」


 王妃が頷いた。そういえば、この人マンガ家なんだっけ。夜遅くまでご苦労様です。


『印刷工房に原稿を送る期日が近いので、少し頑張っています』


 俺たちが座るテーブルに近づいて、手帳に書いた文字を見せる王妃。そして、その横でずっこけながら2つのコップをどうにかこぼさずにテーブルに置いたメアリ。この子はどうして転ぶかなー、脳の信号と身体の筋肉が噛み合ってないのかね。それとも体のバランスが悪いのか、おっぱいのせいで。ありうる。


「あんまり無理しちゃダメだよ。体を壊しちゃったら大変だからね」

『気を付けます。今日もそろそろ寝ますから』


 夫婦の何気ないやり取り。それをじーっと眺めていたら、ふとメアリの視線に気付いた。


「どうした、メアリ」

「えっと、前からお聞きしたかったんですけど」

「何だ?」

「あの~、お二人はもしかしてホモなんですか?」

「……………………は?」

「なに、ホモって?」


 言葉の意味が分からないらしいホモ違う魔王が、首を傾げる。


『ホモとはホモセクシュアルの略称で、同性愛を指す悪魔さんの世界の言葉です。同じ性別の相手に性的な感情を抱く人のことをそのように呼ぶそうですが、厳密な定義は難しいです』


 王妃が魔王に解説する。流石マンガ家だけあって詳しい。でもその男に余計な知識を与えないでください嫌な予感しかしませんから。


「ってことは、悪魔さんってボクに性的な興味があるの?」

「殺すぞ」

『悪魔さんは同性に対する性的な欲求があるように見えませんから、残念ながらホモとは呼べないと思います』


 ありがたいことに王妃が否定してくれた。でも「残念ながら」って何だよオイ。


「そっか。ボクは悪魔さんがそういう人でも気にしないけど」

「気持ち悪いから気にしてくれ。いや、そもそも俺は異性にしか性的な興味は無いから仮定の話にするのもマジでやめて」

『ですが性的な関心では無い、たとえば友情の延長で深い親愛などを抱いている、という意味では広義のホモセクシュアルである可能性は否定できません』


 何言ってんの王妃!?


「ってことは、悪魔さんはボクに凄い友情を感じているってこと?」

「殺すぞ」

『本当に、仲良しですよね』


 王妃が愉快そうに微笑む。くそ、この人はこの前マリアに向かって俺をからかうなと伝えておきながら、自分はからかってやがる……でも否定すると余計仲良さそうに見えるんだろうなと想像すると、どうしようもない!


「えっと、あの~、つまりお二人は仲の良いホモなんですか?」

「そうなの?」


 魔王が俺に尋ねる。


「違う」


「そうなの?」


 魔王が王妃に尋ねる。


『そうかも知れませんね』

「違う」

「そうなの?」

『そうかも知れませんね』

「そうなの?」

「違……ん? あれ今どっちだ」

「あの、つまりお二人の関係って何なんですか?」

「何だろう……家族かな?」

『家族ですね。義理の息子ですから』

「まだそっちの娘と結婚してねぇし、結婚するつもりも今はねぇよ!」

「じゃあボクたちの関係って何なのかな?」

「知らん!」


 もう頭がこんがらがって、イライラしてきた。ここの城の連中は寄ってたかって人で遊びやがって! 鬼! 悪魔! 魔王!


「でも、どんな関係でも悪魔さんは悪魔さんだし、ボクはボクだよね」

『そうですね。言葉で表せなくても良いのかも知れません』


 適当なこと言って上手く収めようとしやがって……


「では、あの、お二人はホモじゃないということですか?」

「うん」

『そういうことにしておきましょう』

「ホモでないのは確かだ」

「分かりました、ホモより強い絆で結ばれているってことですね。素敵です……」


 メアリがうっとりとした笑顔を見せた。

 ああダメだ。この子、腐ってやがる。



 

 翌日、メイドに何か吹き込まれたらしいヒメが「悪魔殿は父上と私、どっちと結婚したいのじゃ!?」と問い詰めて来たので反射的に「お前に決まってるだろうが!」と答え、ヒメを赤面させてしまった。もう、ホント女は面倒くさくて疲れるわ…………

 ……だからって、ホモじゃないから。ないからな。


 

  勇者カウンター、残り9836人。 

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