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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第23.5話 悪魔はアレなのか

 いつもの部屋のいつものタタミの上でだらだらと読書をする俺。しかし、どうも劫火の王の所に遊びもとい調査に行ったことによる疲れが取れない。移動にかかった日数を計上しても1週間に満たない調査だったはずなのに、どうしてか1か月以上行っていたような気さえする。これは年のせいだろうか。いやまだ若いし俺。というか今の俺は疑似人体だから超健康だし。そうなると精神的なものだろうか。


「癒されてぇなぁ……」


 思わず呟いてしまう。まぁ、誰も聞いてないしたまには独り言くらい良いよね!

 俺は改めて読書に集中する。劫火の王の所で得た勇者の情報を整理したい気持ちもあるが、各地で目撃されている勇者の情報を収集してからの方が良いと魔王が言うので、現在保留中である。アイツもアイツで疲れているのかも知れないし、今日はゆっくり休もう。出来れば明日も休みたいなぁ……

 などと働かぬ勉強せぬ訓練せぬの構えを取っていたら、部屋の入口にメイド服が見えた。

 げぇ! マリア!


「……」

「……」

 

 一体何をするつもりなのかと身構えていたら、彼女はお茶を乗せたお盆を持って静かにこちらに近寄り、テーブルの上にコップを置いた。何故か、無言で。


「……」

「……」


 なんだこの沈黙。そもそも、普段は傲岸不遜と呼んでも良いくらいの態度であるマリアがどうして俺にお茶のサービスを? もしやこのお茶、毒か!? 毒なのか!? 


「……毒?」


 俺がお茶を指さして確認してみると、マリアはふるふると首を振った。喋らないとホント、それなりに美人なのにな……


「……飲めと?」


 マリアがゆっくり頷いた。意味が分からない。これを飲むと何か起こるのか。怖い。だが、この妙な空気も相当嫌だ。

 俺は意を決してコップを持ち、冷たいお茶を口に含む。すると、マリアがタタミの上に身を乗り出し、少し上目遣いに俺を見た。うん、胸が強調されてとてもいいと思います。

 そして、マリアの口が開く。


「ご主人様」

「……」


 ほんの少し口角を上げて微笑むマリア。こ、怖い!! メイドが「ご主人様」と口にする姿が、ここまで不気味に思えるものなのか!? ってか俺はお前のご主人様じゃ無いしなんなのこれ!? 怖いって!!


「……反応がイマイチですわね」

「怖えよ」


 お茶を飲み込み、正直な感想を言う。


「な、なんてこと仰いますの!? 綺麗な女性に『ご主人様』と呼ばれて怖いなんて、どういう心理をしていらっしゃるんですか!」

「怖いと綺麗は同居するし、そもそもお前は綺麗じゃ無いんだよ!」

「むぅ~!」


 乗り出した上体を起こし、不機嫌そうに立ち上がるマリア。何なんだ一体。

 などと分からぬ全然分からぬの構えを俺が取っていたら、部屋の入口に別のメイド服が見えた。

 げぇ! メアリ!

 彼女はお茶を乗せたお盆を持って静かにこちらに近寄り、テーブルの上にコップを置いた。お前もか。そんで2杯目か。

 メアリは何をするつもりなのかと注視するが、緊張した様子で立っているだけで何もしない。じゃあ遠慮無く胸を中心に見ますけど!?


「悪魔様、さっさとお茶を飲んでくださります?」


 タタミから離れて壁の近くに立っていたマリアが、俺を急かしてくる。何の罰ゲームだよ、これは。

 仕方ないので、俺は冷たいお茶を口に含む。すると、メアリがタタミに身を乗りだそうとして思いっきり転んだ。そして、倒れた上半身を起こしながら言った。


「ご、ご主人様……」

「…………」


 うん、これはこれでありだ。胸の動きが目の保養になったし点数は高いぞ。


「何か私の時と表情が大分違いません?」


 うるせぇ残念メイドてめぇは黙ってろ!


「では、そろそろ本命の登場ですわ」


 本命? マリア、メアリと来たら……あの子か!

 などとヒメだろヒメなんだろヒメなんでしょの構えを俺が取っていたら、部屋の入口にヒメが見えた。

 なごむ。

 彼女はお茶を乗せたお盆を持って静かにこちらに近寄り、テーブルの上にコップを置いた。あのー、3杯目は流石にきついんですけど……

 躊躇していると、ヒメが無垢な目でこちらを見つめてくる。くっ、飲まざるを得ないか……っ!

 冷たいお茶を口に含むと、ヒメがタタミの上に元気良く身を乗り出した。

 そんで、上目遣いでヒメが言った。


「お兄ちゃん♪」


 俺は盛大にお茶を吹き出す。申し訳無いことに、ヒメの顔もお茶で濡れてしまった。


「もう……びしょびしょだよ、お兄ちゃん……」

「グェッホゲホ!!」


 滅茶苦茶むせる俺。何この、何なのコレ!? 何!? 何なのぉ!?


「悪魔様、動揺しすぎですわ」

「いやだって……いや……」


 やばい、すごいこんらんしている。


「ってかなんだ、何したいんだお前らは!?」

「えっとね、悪魔お兄ちゃんが癒されたいって言ってから、癒してあげたくって……」


 起き上がったヒメが、マリアから手渡されたタオルで顔を拭きながら言った。


「なるほど」


 盗聴器はどこだ?


「それにしても……王女様の時だけここまで反応が違うとなると、やはり悪魔様はロリコン……」

「ロリコンって何じゃ?」

「ロリコンというのは悪魔様の世界の言葉で」

「やめろマリア。いたいけな少女にそんな言葉を教えてはいけない」

「ですが、事実だと思いますわ」

「う~ん……いや、違うと思う。多分、不意を突かれただけだ」

「そうは見えませんでしたけど……」


 腑に落ちないという様子でマリアが俺を見る。納得してくれ。

 

「お兄ちゃん♪」


 突然、マリアが俺をお兄ちゃん呼ばわりした。でも外見年齢が20才超えてそうな女性からそう呼ばれても、あんま響かないわ。


「なんか私の時だけ反応が薄すぎません?」

「気のせいだ」


 気のせいでは無い。普段の言動のせいだ。


「お、お兄ちゃん」


 続いてメアリが俺をお兄ちゃん呼ばわりした。10代に見えるのでかなり妹っぽい。これは良いんじゃないかな。恥ずかしそうにしているのもポイント高いぞ。

 で、そうなると次はヒメか。でも、ヒメからお兄ちゃんと呼ばれるのには慣れたから大丈夫だ。慣れてしまっている時点で大問題な気もするが。

 ヒメは俺をしばし見つめた後、ニコリと笑顔を見せ、言った。


「ご主人様♪」

「グォォォォ!!」


 思わず顔を背けタタミに突っ伏す俺。ちょ、ちょっと待て、今のは油断しただけ、油断しただけだから!!


「やはり悪魔様、ロリコン……」

「だからロリコンって何なのじゃ?」

「ロリコンというのは」

「やめやめろ!!」


 俺は立ち上がってマリアを静止する。


「こんなんじゃ全然癒されないわっ!」

「悪魔殿、迷惑じゃったか……?」

「いや、ヒメについては全然迷惑じゃ無いと言うか、その……」


 ヒメが落ち込みそうになったので慌てて否定する。それを訝しげに見ながらヒソヒソと話をしているメイド2名。


「ええい、こんな俺を玩具にする奴らと一緒にいられるか! 俺は自分の部屋に戻るぞ!!」


 タタミの前に脱いである靴を履き、俺は部屋から逃れようとする!


「させませんわ!」


 マリアが部屋の入口を塞ごうと動く! ならばこっちは疑似人体の戦闘用出力でダッシュする! 床は割れるかも知れないが速度は半端無いからな!

 そしてマリアが入口の前に立つよりも早く、俺は部屋を脱出した。「う、嘘ですわっ! ロリコンのくせにあんな速度でっ!!」という声が後ろから聞こえたが、振り返らずに走る! すぐに石の壁! 自己保全フィールド展開! 壁を突き破って外に出た! 下にお堀と水! 落下! 水中だ! どうしよう!!


 

 

 その後、自力で堀から脱出して自分の部屋に戻った俺でしたが、事態に気付いた王妃に呼び出しを喰らって正座させられました。『いい大人なんですから、興奮してお城を壊さないで下さい』という正論は謙虚に受け止めます。

 あと一緒に正座させられたマリアに向けられた『悪魔さんは女性にあまり免疫が無い人なのでからかい過ぎないようにしてください』というメモにはちょっと落ち込みました。

 それと魔王が俺の開けた壁の穴見て「すっごーい! 完全に悪魔さんの形してる!」とはしゃいでるのがムカつきました。

 ヒメが寝る前に謝りに来ましたが、お前のせいじゃないと言って頭を撫でました。「よし、今日は一緒に寝るのじゃ!」という申し出は丁重にお断りしました。

 メアリは翌日「あっ、ご兄様」と俺を呼びました。意味が分かりませんでした。

 …………疲れた。



 勇者カウンター、残り9842人。

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