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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第21話 3人はそんな装備で大丈夫なのか

 劫火の王が撃滅とやらを指示してから何分経ったのだろうか。戦況としてはこちら側が優勢なようだが、俺と魔王にとって肝心なのは勇者が倒せているかどうかである。可能ならば普通の人間を撤退させて勇者だけを残したいところだが、流石にそうも行かないだろう。


「いやー、さっぱりしたー」


 血みどろ魔王ことバカが、返り血をさっぱりと洗い流して戻ってきた。着替えを持ってきておいて良かったな。


「それで、勇者は見つかった?」

「それらしい報告は無い。他の人間どもと一緒に倒してしまっているのかも知れぬがな」

「勇者といってもまだ力は弱いみたいだし、このまま何事もなく君たちの勝利で終わるかもね」

「それはそれでつまらん。我が力を振るう相手がいなければ、腕が鈍ってしまうからな」

「なんならボクが相手になろうか?」

「貴様は卑劣な手段ばかり使うから駄目だ」


 ですよね。


「まったく、酷い目に遭いましたわ!」


 暴走メイドことアホが、汚れも焦げも無いメイド服を着て戻ってきた。着替えを持ってきておいて良かったな!


「馬の手入れは終わったか、あー……マリア」

「貴女の口からその名前を言われると、何かドキドキしますわね……」


 マリアが頬に手を当て照れる仕草をする。劫火の王はそれを冷ややかな目で見た。


「馬の手入れは……」

「ちゃんとやっておきましたわよ! 訓練所時代、どれだけやらされたことか覚えていますわよね!」

「それはお前が調子に乗って設備を壊したりしたからだ」

「貴女が手伝ってくれた時は嬉しくて、あの時は本当に友情を感じましたわ……」

「へぇ~、優しんだね、劫火の王」

「……金屑の王、この女の口に剣をぶち込んでも良いか?」

「ちょ、ちょっと何言ってるんですの!? 分かりました、昔のことはあまり喋りませんから!」

「昔のことだけでなく、今のことも喋らなくて良い。黙っていろ」

「それはお断りしますわ!」


 劫火の王が振り払った斬撃を、マリアがしゃがんで回避する。いやちょっと待て、地味に反射速度凄かったんですけど今の!


「ふん、動きは鈍っていないようだな」

「殺す気の無い刃など、かわせて当然ですわ! これでも魔王のお妃様に仕えているのですから、ある程度戦えるのが当り前ですわ」


 なるほど。だがメアリの方は戦闘力皆無に見えるんだけど、お姉様扱いされてる側としてそれは見過ごしといて良いのか?


「一応、まだ生きてる価値はあるというわけか」

「戦えなくなったら、私ではありませんわ!」

「……やはり、お前は我が領地に生まれた者だよ」


 劫火の王が微かに笑んだ。それを見たマリアは、満足げな笑みで返す。


「ご歓談中の所、申し訳ありません」


 劫火の王の配下が、テレフォンを持ってやってきた。


「楽しんでなどいない。何か動きがあったか」

「敵の中に、多少手強い集団がいるようです。それがどうも、勇者の名を出しているようで」

「来たか。貸せ」


 劫火の王がテレフォンを取り、通話相手とやりとりを始める。


「地点は……分かった、私と金屑の王が向かう。我々に人間どもを引き付ける形で、全軍後退を行う。残りは我が獲物だ、決して無理に殺そうとするな。他の者にも確と伝えろ」


 テレフォンを配下に戻し、劫火の王が愉悦の笑みを浮かべる。


「ついに見つけたぞ、金屑の王よ。勇者の一団だ」

「勇者が集まって傭兵団とかを作っている可能性は考えてたけど、本当にいるんだね」

「お互いに勇者であるという共通の認識があるのであれば、他の人間どもと組むよりよほど正しい選択だ。ちょっとした繋がりが戦場では絆と生り得る」

「つまり私と貴女はずっと友達ですわね!!」

「何にしても、これは貴様にとっても好都合だろう、金屑の王。勇者では無い人間どもを逃しながら勇者だけを倒すことが出来るかも知れん」

「そうだな。出来る限り勇者じゃない人は逃がしてあげたいね」


 あ、マリアを無視して話を進めてる。


「では、私は装備を整える。貴様も準備を整えろ」

「うん、わかった」

「私も当然一緒に行きますわよ!」

「……死ぬかも知れないのだぞ」

「死ぬとお思いですか?」

「……好きにしろ」


 そう言い残し、劫火の王は天幕の中へ入る。


「さてと、まずは武器を用意しないとね。それじゃあマリア、武器が入ったカバン持ってきて」

「仕方ないですわね。持ってきますわ」


 マリアが荷物の置いてある天幕へと向かう。一方、魔王は周囲を見回して何かを確認している。


「悪魔さん、勇者カウンターの数字はいくつになってる?」

「ちょっと待て」


 魔王は周囲の目がこちらに向いていないことを確認したのだろう。俺は異次元収納装置から勇者カウンターを取り出し、数字を見る。


「9899、か」

「やっと100人倒したってわけだね。それと、この戦場にはやっぱり勇者がたくさんいる」

「そうだな。だから直接戦場に行って、勇者がどんな存在なのかを確認しないといけないだろうな」


 本心ではもう超面倒くさいし行きたくないんだけどね! 本当に嫌なんだよ死体が転がっている場所に行くなんてっ!


「それで悪魔さん。悪魔さんって、魔力を見ることが出来る道具とか持っているよね?」

「……まぁ、無くはない」

「それで、戦場の魔力がどんな風になっているか調べてくれないかな? 知識の提供だから、一応問題無いでしょ?」

「問題は無いが……確かお前、魔力が出ている場所を見ることが出来る魔術装置持ってたよな。なんだっけ、スコープだかそういう感じの名前のやつ」

「えっと……あっ、ヘルメットだね」


 なんで頭を守るもので魔力を見ているんだよ。命名者のセンスを疑いたくなる。


「たしか、悪魔さんが名前を付けてくれた魔術装置だよね」


 俺のセンスを疑わざるを得ない。


「……で、そのヘルメットは持ってきていないのか?」

「うん。かさばるし」

「かさばるって理由で調査のための道具を持ってきてないのか、お前は」

「だって、悪魔さんがもっと高性能な道具持っていると思ったし、それに劫火の王にヘルメットは見せたくないんだよね」

「どうしてだ? 格好悪いからか?」

「もしさ、夜でも相手の位置が見える魔術装置を劫火の王が使ったら、どうなると思う?」

「そうだな……たとえば、戦場で夜襲が仕掛けやすくなるな。夜の闇に紛れて、暗殺とかにも使えるかもしれない」

「ヘルメットは魔力が出てる場所が光って見えるから、夜の戦闘だとかなり優位に立てる魔術装置なんだよね。そういうのを持っていることはあんまり教えたくないし、劫火の王が同じものを作っちゃうと万が一戦争になったときに夜が危なくなっちゃう」

「武器として使えるものは他国に提供したくないということか。それなら、どうしてテレフォンは提供したんだ?」

「武器としての使い道より、日常生活での使い道の方が多い魔術装置だからね。人を殺すことに使うよりも、人を生かすことに使う機会の方が多いと思ったんだ」

「なるほどな。確かにあれはそういう装置だ」

「そんなわけで、今日は悪魔さんにヘルメットの代わりをして欲しいんだ」


 ヘルメットの代わりをする生物なんて聞いたこと無い。


「仕方ないな……」


 俺は異次元収納装置に勇者カウンターを戻しつつ、魔力を見ることの出来る道具を取り出す。見た目はサングラスだが、魔力の計測等を行い視覚情報として出力する機能がある。


「お、悪魔眼鏡だね」


 鬼畜眼鏡みたいな呼び方やめてくれないかな。

 俺はサングラス型の計測装置をかけ、搭載された人工知能に指示を送る。魔力を詳細に計測するように設定し、ついでに眼鏡のレンズを透明にする。日差しが強い場所でも無いので、可視光線への対策は必要無いだろう。


「すごい! 眼鏡の色が変わったよ! もう1回やって、もう1回!」

「うるさいバカ」


 計測装置が魔王の魔力をぼんやりとした光として可視化する。光の強弱ではなく色で以って強さを示す仕組みで、魔王の色は青っぽく見える。これは相当強い魔力が発せられているわけだが、数値データを確認してみると以前こっそり調べた時とそれほど変化はない。どうやら魔王の成長期はとっくに終わっているようだ。オッサンだな!!


「持ってきましたわ!」


 マリアが荷物の入ったカバンを持って戻って来た。彼女の色は、濃い緑。強さとしては青色より1段か2段劣る。とはいえ、十分に強い魔力を出していると言える。


「なんですか悪魔様、その知性を全く感じさせない眼鏡姿は。似合っていませんわ」

「自覚してるわ!! 仕方なくなんだよ!」

「まっ、どうでもいいことですわね。では魔王様、お好きな武器をお選びください」

「うーん、さっきはつい殺しちゃったから、もっと安全な武器が良いよね」


 そう言って魔王がカバンの中から選んだのは、先が二股に分かれた妙な道具と、先端は同じ形状だが柄の部分がずっと長い道具の2つだった。


「やっぱり、近距離用のビリビリと遠距離用のビリビリが良いかな」

「ビリビリ……確か相手を麻痺させる武器だな」

「うん。遠距離用のビリビリは遠くの相手にも効くんだけど、近距離用より魔力を使うし近くの相手には当てにくいから上手く使い分けないとね」


 見た目は多少奇妙だが、相手の動きを封じる魔法の杖という点では非常にファンタジー世界っぽいアイテムである。近距離用はただのスタンガンだけどな!


「悪魔さんも……あ、そういえば使えなかったね、ごめんごめん、はっはっは」

「え!? 悪魔様、もしかして魔法が使えないのですか!? つまり、不能者でしたのっ!?」

「不能者とか言うなっ!! 何か違う意味に聞こえる!!」

「悪魔さんの力は魔法とは違うけど、ボクたちの使う魔法よりずっと凄いからね。不能者でも大丈夫だよ」

「不能者パンチでも喰らうか?」

「ごめん、やめて」


 俺が拳を構えると、魔王が手で静止した。不能者パンチは科学力。


「それなら、悪魔様はどんな武器をお使いになるので?」

「いらないだろ。別に」


 人を叩いたり斬ったりしたくないし。


「盾とかどうかな?」

「お前を盾にするから大丈夫だ」

「えー、ひどいよー」

「まぁ、上手く攻撃は回避するから武器も防具もいらん」


 実際のところ疑似人体を制御する人工知能の助けがあるので、全方位から攻撃でもされない限り身体に攻撃は当たらないだろう。当たったとしても、ダメージは無いだろうし大丈夫だ。多分。実はちょっと不安だ。


「それでは、私も武器や防具は使いませんわ」

「大丈夫なの?」

「メイドですから!」


 マリアが不思議な構えをして堂々と言った。なんだろう、凄い説得力だ!!


「私の強みは体の身軽さですから、あまり重いものを持つべきでは無いと思いますしね!」


 バカのくせに合理的な理由を付け加えやがって!!


「それもそうだね。それじゃあマリア、残りは元の場所に戻しておいて」

「分かりましたわ」


 カバンを持って、マリアが再び天幕へと向かう。


「準備は出来たか?」


 装備を整えた劫火の王が天幕から出て来た。胸部に金属製の胸当てを付け、脚部や腕部などそれ以外の部分には革製の防具を装備している。軽装備に見えるが、動きやすさを考えるとこれくらいで良いのかも知れない。

 武器は天幕に入る前から持っていたのと同じ剣。どうやら愛用の剣らしい。使い慣れた武器が一番ということだろう。

 身体から発せられている魔力の光は、青。やはり魔王と同等の力を持っているわけか。


「なかなか良い革を使っているね」

「分かるのか?」

「一応、錬金術で色んな魔物の皮を使うことがあるからね。その革なら火に強いし、矢も十分防げるね。でもちょっと重いかも知れないよ?」

「問題無い。貴様よりは筋力がある」

「だったら大丈夫だね」

「それより貴様らはそんな装備で大丈夫なのか」

「大丈夫だよ、問題無い」

「いや……多少は防具を身に付けるべきでは無いか?」


 劫火の王が怪訝な目で魔王の全身を(あらた)める。普段着ているのと同じ、上等な布の服。どこに行っても見た目は裕福な青年Aの魔王である。


「ボクは傷を負ったら回復魔法を使えば良いだけだし、悪魔さんはそもそも傷つかないと思う」

「そうだな」

 

 疑似人体は傷つかない。


「……貴様らと話していると、使う魔法が違うだけでここまで考え方が異なるものかと感心させられる」

「えっへん」

「ならば、心配は無用だな。死んだとしても、貴様ら自身の落ち度だ」

「そういうことだね。お互い、気を付けよう」

「お待たせしましたわ!」


 カバンを置いてきたマリアが、ダッシュで向かってきた。そして劫火の王に飛びつこうとして、身をかわされてしまう。魔王は重いかも知れないと言っていたが、マリアを回避したその動きは機敏と言って差し支えなかった。


「もう、じれったいですわね!」


 全身を捻って、ネコ科の動物のように見事な着地を決めるマリア。メイド服なのに無茶苦茶な動きである。


「貴様、防具は?」

「必要ありませんわ! なんたって、メイドですから!」


 またしても変な決めポーズのマリア。いかん、徐々に奇妙な雰囲気がしてきた。


「死ぬぞ」

「死にません、メイドですから!」


 メイドってそういうものだっけ?


「……」

「何かあったらボクが回復魔法で治すから、心配しなくて良いよ。君は目の前の勇者を倒すことだけに集中すれば良い」

「その通りですわ! 私を弱い者扱いしてもらっては困りますわ!」

「……分かった。ならば、己の身は己で守れ」


 そう言って、劫火の王は一歩を踏み出す。


「行くぞ」

「うん」

「ええ!」

「はいはい」


 2人の王と1人の悪魔と1人のメイドの、蹂躙が始まる。



 勇者カウンター、残り9897人。 

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