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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第4話 魔王の敵は勇者だけなのか

 魔王の敵は勇者である。だが、それ以外に敵がいてもおかしくは無い。むしろ世界の脅威に対し勇者に全てを任せている方がおかしいのだ。

 そのような状況になる理由としては、人間側にとって魔王に利用価値がある場合や、勇者以外では魔王に対抗できない場合、人間と魔王が結託している場合、魔王との戦いで多くの死者を出したくない場合など、多様な可能性が考えられる。決して無意味に魔王と勇者という二者対立関係を成立させているわけでは無いだろう。

 そしてこの世界の場合は……魔王が脅威だと思われてないんじゃね?



 いつもの部屋のいつものタタミ8畳……に新設された魔術装置、コタツ。その上に多くの書類を広げた後、魔王が高々に宣言する。


「第1回! 魔王城超高官会議ぃ~!!」


 拍手する魔王に合わせ、姫様も控えめな拍手をする。俺は無視して寝転がりながら読書を続ける。今日の本は詰将棋だ。


「悪魔さーん、会議だよー」

「お前は何を言っているんだ?」


 ここにいるのは俺含めて3人。どこが高官会議だ。


「それよりこの魔王城で木の工作が得意な奴っているか? ちょっと作って欲しいものがあるんだが」


 将棋盤と駒。


「悪魔さん、結構真面目な話し合いしたいんだけど……」


 俺は溜息をついて起き上がり、コタツの上に両肘を乗せる。


「で、会議って何を話すんだ?」

「今の勇者一行の状況と、これからの方針について話し合いたいんだよね」


 あぁ、マトモだ……


「それじゃあまず勇者の現状ね」


 魔王はこの世界の世界地図を広げ、ある地点を指差す。


「現在、勇者一行はこの辺りで魔物狩りをしているね」


 そんな世界地図の一点を指されてもなんもわからねぇよ。


「ここに住んでいる魔物の中には動きが遅くて金属を貯め込む性質のゴーレムがいてね」


 あー、いるいるそういう魔物。1000ゴールドとか落としてくれる奴ね。


「勇者からは逃げるように命令は徹底してるけど、逃げ足が遅い魔物だと勇者の餌食になるのは避けづらいね。それにここのゴーレムは人間の使う金貨を集める性質があるから、勇者の資金源にもなってるね」

「勇者もそれが目当てなんだろうな」

「だろうね。お金と自分たちの成長……悪魔さんが言う所の経験値ってのを稼ぎたいんだろうね」

「一挙両得って所か……」

「ただ、ここのゴーレムは数が多いわけじゃないから勇者たちもそのうち別の場所で狩りをするようになるね」

「大幅な戦力強化には繋がらない、というわけか」


 あれ? なんか凄い本格的な作戦会議っぽくね?


「うん。だからそれほど気にする必要は無いんだけど、別の問題が明らかになったとボクは思うんだ」

「別の問題?」

「勇者たちがお金集めのために魔物を倒しているかも、ってこと」

「あー……」


 RPGでは基本中の基本だが、魔物を倒してお金を手に入れるというのは実際変な話である。


「大体なんで魔物がお金持ってるんだ?」

「光るものが好きな魔物って多いんだよ」


 え、そんなくだらない理由?


「それと知能の高い魔物は人間のお金を使って取引をしているみたい。魔物同士だけでなく、人間ともね」

「そんな奇特な人間がいるのか」

「前にも言ったでしょ、女神信仰の低い商人がいるって」

「多いのか?」

「わりとね」


 この世界の女神はさほど愛されていないらしい。商売の神様だったら良かったのにね。


「何にしても、魔物の間にお金を集める習慣が生まれているのは確かだね。そのお金が勇者の資金になるのは防ぎたいから、何か対策を講じたいね」

「どうする?」

「どうしよう?」


 考えてないんかーい。


「やっぱりお給料渡して無いのからお金集めちゃうのかな……」


 タダ働きさせてたんかーい。


「とりあえずこれは保留だね。大規模な計画が必要だし」

「だな」

「それで悪魔さん、何か他に確認しておきたいことはある?」

「確認……ねぇ」


 といっても世界地図くらいしか情報源が無い。地図を見る限りこの世界にはいくつかの国があり、都市も多く存在しているようだ。

 そして魔王城は僻地にある。魔王は田舎に住んでるのん。


「何か気になった?」

「この世界は国が多いみたいだが、みんな女神信仰の国なのか?」

「そうだね。信仰の強さは国によって差があるけど、みんな女神様を信奉してるよ」

「どこかの国が攻めてくる可能性は?」

「あー……」


 何か思い当たることがあるのだろうか、魔王は黙り込んで人差し指でコタツの天板をトントンと叩き始める。そして少しの後、口を開いた。


「ごめん姫、お茶を入れてきてくれないかな?」


 お茶が飲みたかっただけかよ!?

 頷いて立ち上がり、部屋の出入り口へと向かう姫。その姿を目で追う魔王。どうやらお茶を飲みたいのではなく、姫を部屋の外に出したかったようだ。いや、お茶も飲みたかったのかも知れないが。

 姫が廊下へと姿を消した直後、魔王は俺の顔を見据えて言った。


「ボクはあの村以外、人間の住む場所を襲ったことは無い。あの村をボクが滅ぼしたことを知っている者も、ほとんどいない」


 あの村とは、かつて姫が非人道的な幽閉をされていた村。その話題を姫に聞かせたくなかったようだ。


「町や村を全く襲って無いのか?」

「無いよ。各地の魔物にも人間を襲うことは控えるよう命令しているしね」

「魔王らしくないな」

「どうせ勇者を倒して女神様が大魔王様に負ければ、あとは大魔王様があっという間に世界を征服しちゃうからね。ボクが無茶して人間を襲えば、返り討ちに遭って負けるかもしれない」

「負けるのかよ」

「たとえば町を滅ぼせば、その町がある国の軍隊がボクたちを倒しに来る可能性はかなり高いね。その軍隊に勇者一行が協力した場合、ボクが勝てる見込みは少ないし、ボクが負ければ魔王城も占領されるだろうね。魔界への入口が人間たちの手に落ちれば、かなり厄介なことになる」

「藪を突いて蛇が出たら困るって感じか」

「だからボクはあの村を滅ぼしてからのこの20年近く、人間の住処を襲うことは避けてきたんだ」


 なるほど。合理的な考えではある…………ん?


「ちょっと待った」

「どうしたの?」

「村を滅ぼしてから20年近くって言ったな」

「うん」

「姫様って今いくつなんだ」

「……」


 なんだその絶句した表情は。


「え、永遠の16歳じゃないかなぁ……」

「……老化、いや成長を止めたのか?」

「だ、だって悪魔さん、姫とずっと一緒にいるには魔族と同じように年を重ねる必要があったし、姫もそれを望んでたし……」


 やったのねコイツ。人間をほぼ不老にする魔術か何かを姫にやったのね。


「まぁ、それは分かるが……もう少し成長してからでも良かったんじゃないか?」

「いや、それは無いでしょ~」

「無いのか」

「うん。常識的に考えてあのくらいが正解……」

「ってお前の趣味じゃねぇかっ!!」


 思わずコタツの天板を平手で叩いてしまう俺。


「趣味でやったんじゃないよ! あのくらいの年齢が一番可愛くて肌も綺麗で良いなとは思っているけどそれとこれとはちょっとしか関係ないよ!!」

「いやお前は絶対自分の好みの年齢で成長を止めたかったんだよ! 常識的に考えれば精神的に十分成熟する18歳から20歳くらいが正解のはずだ!」

「それは悪魔さんの世界の常識でしょ!? ボクらの常識では16歳は大人だしちょっと子どもっぽい所も残って死角無しの完璧な年齢なんだよ!」

「だからそれが趣味丸出しなんだろうが!!」


 女の子の最適年齢について激論を交わす俺と魔王。そして姫様が3人分のお茶を持って部屋に入ってくる。


「だいた――い分かった。大丈夫だ」

「なにが――ううん、それなら良かったよ」


 姫様が帰ってきたことに気付いた魔王も態度を一変させる。あぁ、俺らはなんて格好の悪い男たちなんだろうか。


「とにかく、どの国もボクらを警戒はしているかもしれないけど、わざわざ魔王城に攻め込むほど危険視はしてないってことだね。戦いになれば人間たちも大きな被害を受けるし、現状では魔王城を攻める理由がどの国にも無い」

「勇者に協力的な国もか?」

「そういう国は女神様に選ばれた勇者のことを信じているから、むしろ攻めて来ないね。勇者が魔王であるボクを倒す使命を受けている以上、勇者に全て任せることが女神様の御意志、ってことになるから」

「自分たち自身が戦うことは女神に背くことになる、ってわけか」

「そう。だから女神様を信仰している各国にとっては勇者を信じつつ国の守りを固めるのが最良の選択になるね」


 何を考えているか分からない平和主義の魔王に対して、どの国も守りの姿勢で構えている。いずれは勇者が魔王を倒すのだから、防衛に専念して国民の命を保護することは間違いではない。

 ただし、それはこの魔王の思惑通りでもあるのだ。


「敵は勇者だけ、か」

「そうだね。だから勇者が強くならないよう、そして資金を貯めないよう、これからも策を講じないといけない」

「お前の方はどうなんだ? 強い魔法を覚えたりしてないのか」

「あっ、そうそう忘れる所だったよ!」


 魔王は立ち上がり、両腕をクロスさせたポーズを取る。馬鹿の構えである。


「新しい魔法を覚えたんだよ。その名もティルウェイ!!」


 コタツに入っている姫様が期待した目で魔王を見上げた。楽しみなんですか姫様。アンタもやっぱり俺らと同じバカなんですか?


「効果は?」

「凄い攻撃魔法! なんか空気中の元素? とか何かを核? で合成して……とにかく凄い爆発が起こせるのさ!」


 分かった。お前がよく分かってないのがよーく分かった。


「他の攻撃魔法より強いのか?」

「強すぎて魔王城の中じゃ使えない!」


 駄目じゃねぇか。


「あと爆発の中心から離れるほど威力が弱くなるから上手く当てないと駄目なんだよね」


 使いづらい魔法のようだ。その分威力は期待できるのだろうか。


「試しに使ってみたら森が大変なことになったから威力は保証済みだよ!」


 ちょっと待て。何があった。


「まぁ……期待してるわ」

「任せて! 次に勇者が来たときに使ってみるから!」


 とりあえず勇者が来る前に遺書でも書いとくか……

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