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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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エピローグ

「暑いな……」


 砂浜の上、強い日差し。海はあっちの世界で見たのよりも輝いている。


「帽子のせいか……?」


 俺は被っていた黒い帽子の上に手を乗せた。うん、熱くなっている。脱ぎたい。だが、せっかくだから被っていた方が良いだろう。

 俺は帽子を脱ぐ代わりにスーツの上着を脱ぎ、ネクタイと一緒に異次元収納装置へとしまった。なんか7週間前くらいに同じことをやった気がするが、この世界ではかなり昔のことになってるので誰も覚えていないだろう。っていうか、誰も見てないし。


「……」


 いや、遥か彼方に誰かいる。よく見えないが、多分こっちに向かっている。俺がこの世界に戻ることは魔王に通知されているはずだから、恐らくアイツの関係者……いや、本人だろうな。アイツのことだから、部下に任せず自分で来る。そういう奴だ。


「何年ぶりになるんだろうな……」


 7週間の100倍で700週。1年を50週とすると約14年。別れる時は数百年後になるとか言っておきながら10年ちょっとで帰って来るなんて俺すげぇ格好悪くね!?


「まったく、人生わからんな……」


 俺は帽子の上から頭を掻いた。




 1か月の休暇を終えた俺に与えられた最初の仕事。

 それは、交流候補異世界への派遣。

 交流候補異世界とは物質的な渡航や交易など、知識の提供以上の干渉を行っても問題が無い程に社会や技術、文化が発達するだろうと期待された異世界のことである。そのような異世界が交流可能異世界へと発展すれば木材や真水を輸入することが可能となり、それらの生成コストの削減へと繋がる。また観光地として異世界に住む人類が渡航し、余暇を過ごすことも考えられる。

 一方で異世界の社会や技術のレベルは人類よりも低いため、交易と称して搾取することも容易である。それを防ぐためにも交流候補異世界の主要な権力者には悪魔を派遣し、その異世界が人類との交流に値する世界となるよう助言を行うと共に、交易等による影響や危険性についても説明を行うこととなっている。それでも植民地的な関係となるリスクは存在するため、派遣される悪魔は正しい倫理観と良識を兼ね備えた優秀な人材である場合がほとんどである。

 だが、例外はいくつかある。たとえば、ある悪魔と交流候補異世界の主要権力者が過去に信頼関係を築いていたと判断された場合。その悪魔は交流候補異世界の不利益となる行動を取る可能性が低いため、派遣した場合に公平な関係が構築されやすいとされている。

 で、俺と魔王の関係がそう判断されたらしい。

 …………なんかやだ。




「……ん?」


 遠くから俺に近づいてくる、あの人影。砂浜を走るその姿は、どうも男性らしくない。身長も低く、どうやら麦わら帽子らしきものを被って……服は白のワンピースだろうか。


「姫様……?」


 7週間前、もしくは14年前に別れた時の姫様の服装。それと同じ格好をしているということは、姫様だろうか。魔王の力で成長止められてるし、見た目が変わってないことは充分にあり得る。だが、姫様が1人で来るとは考えづらいし……というか、姫様は砂浜を走るタイプでは無い。


「誰だ……?」


 俺の知らない奴だろうか。女性の知り合いなど、この世界ではほとんどいない。魔王が俺の迎えによこすような奴なのだから、相当な重要人物だろうが……

 いや、そもそも今走っているのが魔王の関係者とは限らない。アイツのことだから俺がいつどこに現れるか忘れてるかも知れねーし! きっと浜辺で遊んでた近所の――


「子ども……?」


 子どもだ。麦わら帽子を被って白いワンピースを着た、色白で長い金髪の少女。その金髪は、なんか誰かを思い起こさせた。


「……まさか」


 14年。その歳月の間にこの世界、いや魔王と姫様の周囲で起こりそうな出来事。


「まさかな……」


 走って来た少女が、速度を緩める。息を整え、僅かに警戒の色を見せながら、俺の方に少しずつ近づいて来る。

 そして、俺の目の前で足を止めた。


「……なんとなく想像つくけど、一応――」

「その帽子……」


 金髪の少女は、俺の帽子を見上げた。年は12歳か13歳か……紛れも無く美少女と呼ぶべき容姿であったが、顔つきにどこか、バカのバカっぽさが遺伝してる気がする。全体的に色素が薄いのは母親の遺伝……いや、突然変異が遺伝するのか? わからねぇ。


「母上が作ったものじゃな」


 確定。少女の正体、確定。


「父上の言った通りじゃ。つまり、おぬしが悪魔殿じゃな」


 金髪の少女がにこりと笑う。素敵な笑顔ですがその喋り方はなんなんすか。あざといキャラ付けですか。教育方針間違えてませんか姫様とバカ。


「……念のため聞いておくが、魔王の娘で良いんだよな?」

「その通りじゃ。私が、父上の娘じゃ」


 なんか適当な喋り方だな。これ、この年頃の青少年がよくやる痛い言動の一種なんじゃね?


「まぁ、それはそれとして……そうか、あの2人の娘か」

「そして悪魔殿の許嫁じゃ」

「はいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!?????????」







 


 

 


 第1部、完

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