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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
53/153

第24.402話 最強の存在は完成するのか

「くそっ! 何か手は無いかっ!?」


 女神によって異次元収納装置からこの世界へと出現した魂の捕獲器。そこから解放されようとしている勇者の魂。俺は異次元収納装置の操作を続けたが、変化は無い、女神からの干渉を遮断することが出来ない!


「こうなったら……」


 俺は自分の頭上、捕獲器が出現している空間の歪みを見上げる。あちら側が駄目なら、こちら側だ。捕獲器を手で抑え、異次元収納装置に押し戻す……


「って、空間の歪みに手を入れたら危ねぇだろ!? というかそんなので止められるわけねぇし!!」

「さっきから何してんですか悪魔さん。頭の上に変なのまで出して」


 慌てふためく俺の奇行を見て、魔王の部下の1人が尋ねてきた。事情が分かってないとはいえ暢気そうな顔してるのが腹立つ!!


「女神が勇者の魂を奪い返そうとしてんだよ!! ヤバいんだよっ!!」

「え!? もしかして頭の上のそれって……」

「勇者の魂だよ!! 女神の奴、次元を越えて取り戻しにきやがった!」

「次元を越えてって、意味分からないんですけど!? 何が起こってるんですかっ!?」

「俺だって知りたいよ! とにかく今は、ええと、一刻も早く魔王に武器でも魔導石でも送ってやれ!! 勇者の魂は俺がどうにか……」


 そんな俺の発言を無視するかのように、ついに勇者の魂が捕獲器から完全に離れ、女神のいる方角へと飛んで行く。そしてその後を追うように、爆発音と共に大砲から砲弾が発射される。


「間に合うか……?」


 砲弾には武器と魔導石が積載されているはずである。しかし、それらが女神と勇者にどれだけ有効……


「……何か変だ」

「何がですか、悪魔さん?」

「勇者を甦らせた所で魔王にすぐ倒される。時間稼ぎにはなるだろうが、魔王を倒す手段にはならない」

「そうなんですか?」


 魔王の部下が首を傾げる。コイツ、勇者が魔王のせいで散々な目に遭ってるの見てないのかよ。


「だが女神は勇者を使って魔王を倒そうとしているように思える……どうやってだ?」

「あのー、悪魔さん。勇者って大魔王様を倒せるくらいまで強くなるかも知れないんですよね?」

「そうらしいが……今の所、そこまで強くなるとは思えない」


 残存する女神の魔力全てを投入したとしても、勇者では大魔王に到底敵わない。

 計算が合わない。

 女神の目算が誤っている?

 馬鹿な。


「何かあるんですかね……強力な武器とか」


 武器?


「まさか……」

「思い当たることがあるんですか?」

「言われてみれば勇者には大抵、そういうもんがあるな……」


 俺は魔王と女神を映す水晶板に視線を向ける。女神の前に飛来する勇者の魂。『おわっ!』という声を出しつつも砲弾をかわし、その中にある剣と魔導石を取り出す魔王。


『こんな憐れな姿になって……今すぐ肉体を戻しましょう』


 勇者の魂の周囲に光の粒子が集まる。それらは次第に人の体を象り、直立する男性の輪郭がハッキリと現れてくる。


『その魂……勇者の魂ですか』


 魔導鉄の剣であるムラサーマを構え、魔王が言った。


『貴方によって別の世界に封じられていたようですが、私と勇者の繋がりを断つことなど出来ません』

『別の世界……貴女は、別の世界に干渉を行えるのですか?』


 少し驚いた様子で、魔王は女神に問いかけた。


『私の呼び掛けに勇者が応えただけのことです。魂の絆は、決して失われはしないのです』


 女神の話から察するに、勇者の魂がこの世界に戻って来れた理由は女神の魂との関連性にあると考えられる。魂の機能については未知の部分も多く、2つの魂が次元を越えて関連を保つということも在り得ない話では無かった。


『ということは、貴女自身の力でなく魂の持つ力によって勇者は戻って来た。そういうことですね』

『否定はしません。神聖なる魂は、私自身の意思すら超越するものです』

『分かりました。なら、貴女に聞くべきことはもう有りません』


 そう口にした次の瞬間、魔王は女神の眼前に迫っていた。剣を振るい、戻りつつある勇者の肉体ごと女神を横薙ぎに斬り裂いた。

 超高速化による接近からの一撃。だが、剣が通り抜けたはずの2つの身体には傷一つ付いていなかった。


『無駄です。私がいる限り、勇者の肉体は滅びません。そして貴方が見ている私の姿は、ただの幻影に過ぎません』

『幻影……』


 剣を構え直しながら、魔王が呟く。


『私の全ては、これに』


 女神の幻影の周囲で土や石が浮き上がり始め、それらに混じって地面の下から白銀の物体が数個、地上へと現れる。


『勇者に力を与える武具。それが今の私です』


 白銀に輝く、剣、盾、兜、鎧。勇者には付き物である、いわゆる伝説の装備。それらが勇者の各部位に装着され、同時に勇者の身体を構成していた光の粒子が肉の固まりへと変化する。


 かつて幾度も復活した宿敵は、女神を纏い、またしても蘇った。


 以前と変わらない顔。だが勇者は1年もの間、肉体を失っていた。肉体の喪失は感覚の喪失であり、そのような状態で長期間を過ごした勇者の精神は崩壊している可能性すらある。

 それでも、勇者は戦うのか。


『行きましょう、勇者』


 女神の声に続き、勇者がゆっくりと右足を踏み出す。次の瞬間、勇者の喉元が切り裂かれた。

 超高速化を用いれば、防具の隙間に剣を入れることなど容易い。魔王ならば、女神そのものである武具を無視して勇者の肉体を破壊することが出来る。

 だが――


『そのような攻撃が効くとでも?』


 勇者の喉から噴き出した血はすぐに光の粒子へと変わり、切られた傷も消える。女神に包まれている今の勇者は、1年前に倒した勇者よりも遥かに、不死身の存在のようだ。

 勇者は駆け出し、右手の剣を振り上げて魔王へと斬りかかる。鎧を装着しているとは思えない高速。振り下ろされた剣をかろうじて避けた魔王に、追撃の一太刀。それも避ける魔王。さらに追撃。超高速化による回避に加えて、勇者の右肘関節を切断。瞬時に始まる回復。


『カンスペ!』


 魔王は切断した勇者の腕に対し、打消魔法を使用した。だが、魔法を打ち消す青き気体は勇者に触れる直前で弾け散り、消え失せた。


『これも駄目だとすると、勇者への攻撃は無意味、といった所でしょうか』


 魔王が余裕を感じさせる笑みを浮かべながら言った。

 作り笑いの、無理をした笑みだ。


『ならば、貴女を破壊するだけです、女神様!』


 魔王は振りかぶったムラサーマを、勇者へと勢いよく振り下ろした。勇者は盾を用い、その攻撃を難なく防ぐ。そして魔王へと剣を突き入れようとするが、魔王は超高速化によって回避し、距離を取る。


『ティルウェイ!』


 魔王の放った爆発魔法により、水晶板の映像が閃光に包まれる。剣での攻撃が通用しないならば、魔法による攻撃しかないが……

 映像が正常に戻った時、そこには元気に魔王へと襲い掛かる勇者の姿が!


「駄目じゃねぇか!!」


 思わずツッコミを入れる俺。勇者への攻撃も、武具となった女神への攻撃も無効。残る手段は――


『爆縮魔力結晶兵器2発、発射準備』


 テレフォンから聞こえる指令。残っている爆縮魔力結晶兵器の残数は2発であるから、まさに最終手段である。それを使うというのは、多少冷静さに欠けていないか……?

 魔王の部下たちにも困惑の色が見て取れた。だが、勇者の剣を受け止めた魔王のムラサーマが小枝のように折れたのを確認した後は、素早く発射準備に取り掛かった。明らかな窮地が水晶板には映っているのだ。部下として助けるのは当然である。

 それにしても、勇者と女神相手だと役に立たなすぎだな村正のパチモン! 神を分割できる回転のこぎりとか開発した方が良かったんじゃねぇか?


「まぁ、それはともかく……どうなるかな」


 勇者が装備している武具の強さは女神の魔力だけでなく、武具の素材や構造による面も大きいだろう。女神が自身の新たな身体……と言うべきなのかは分からないが、とにかく魂の器として作り出した物体である以上、この世界のどんな物質をも超える強度を持っている可能性もある。爆縮魔力結晶兵器の威力は絶大であるが、果たして破壊することは出来るのか。


「発射っ!!」


 魔王の部下の発した大声と共に、爆縮魔力結晶兵器を搭載した弾丸が発射される。魔王は勇者の攻撃を超高速化で避けながら、着弾までの時間を稼ぐ。超高速化を使用するのに必要な魔力は多いはずだが、こんなに使用して大丈夫なのか?


「多分……大丈夫じゃねぇな」


 魔王は超高速化を用いた攻撃を既に行っていない。勇者の回復に使われる女神の魔力はさほど多くないと判断したのだろう。しかし、それならばどうやって女神の魔力を減らす? 爆縮魔力結晶兵器で十分だと、考えているのか?


 魔王と勇者、そして女神の戦う地表に、破壊の弾丸が落下して行く。


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