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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
51/153

第24.401話 女神に切り札はあるのか

 水晶板に映る、爆心地。そこに立つ女神と、彼女に歩み寄る魔王。

 女神の姿は、まさに神々しかった。輝く様な白い布に包まれた、白磁のような肌色。細いながらも、血管や骨を感じさせない均整のとれた肉体。そして銀髪を結った、穏やかな顔。

 とても美しい……30歳くらいの……いや、40……冷静に見ると50歳か?

 えっと、とにかく美しいおばさ……淑女が、そこにはいた。


『何者の仕業かと思えば……貴方の仕業でしたか、魔王』

『そうです、女神様』


 女神と魔王の会話が、近くに置いてある金属棒、魔術装置テレフォンから聞こえてくる。この珍妙な棒との付き合いもそろそろ終わりかと思うと、わずかだが寂しさを感じ……ない! 不便なだけだったし!


『先日より大魔王の魔力が弱まっていると感じていましたが……それも、貴方の仕業なのですか?』

『そうです。私が大魔王様を倒しました』

『自らの祖を倒すとは……貴方は救い難い程に、魔に染まりし存在なのですね』

『そうは思わないのですが……』

『ですが、私を倒すことは出来ないでしょう。たとえ先ほどの爆発を用いようとも』

『いえ、もし貴女が私の考えに賛同してくれるなら、もうあのような無礼なことは』

『貴方のような邪なる者の言葉になど、耳を貸す価値もありません』

『話を聞いてすらくれないと?』

『その通りです』


 なんか分かってきた。この女神、話聞かないタイプのおば……女性だ。


『そうですか……ならば予定通り、倒すしか無いでしょうかね』

『それは不可能です。魔なる者が正しき者に勝つことなど、あり得ないのです』

『ですが、勇者を倒したのも私ですよ?』

『その罪深さ……理解しているのですか?』

『倒さないと私が殺されていたのですよ?』

『正しき世界のためには、必要な犠牲です』


 ああ、駄目だこのおばさん。会話が通じねぇ。


『と言われても……いや、もう話合うだけ無駄でしょうか』

『貴方が私を倒すというのであれば、世界の平穏を保つために、私が貴方を滅ぼします』

『そうですか。でもその前に、確認しておきたいことがあります』

『何を確かめたいと?』

『女神様、貴女の魔力は多少ながら消耗している。私はその原因が勇者にあると考えています』

『その根拠は何でしょうか?』

『私は勇者の魔力をほぼ全て奪ったのですが……どうもその量は、勇者が我ら魔族や魔物から吸収した魔力よりも多い気がしたのです』


 え、そうなの!?


『勇者の魔力を奪うとは……恥を知りなさい!』


 女神が急に怒り出した。やっぱこの人との会話無理だろ!? もうさっさと倒していいんじゃないか?


『そこから推測するに、勇者は魔物たちから奪った魔力だけで強くなったわけでは無い。他からも魔力を得ているに違いない』


 あ、ついに魔王も女神の反応を無視しだした。会話のドッジボールってやつだろこれ。


『なら、どこから。答えはひとつ。貴女です、女神様』

『私が勇者に魔力を与えていたと?』

『はい。だから貴女の魔力は大魔王様よりも弱いのでは?』

『……悪しき魔王よ。確かに貴方の推測は、その一部が正しいと認めましょう』

『やはり勇者に魔力を与えていたのですね』

『私が行ったのは、「静謐の枷」の解除です』

『せいひつのかせ?』


 変な単語が出て来た。静謐ってのは……平穏とか静穏とかそういう意味らしい。今、翻訳機で調べた。


『私より作られし命あるものは皆、静謐の枷により必要以上の魔力を発揮することを戒められています。自らの努力でその幾つかを外すことは可能でしょうが、それでも私の力が無ければ多くは外せないでしょう』

『勇者とその仲間は、貴女の加護によってその枷が外されたというわけですか』

『魔なるもの達を倒した数に応じ、私は勇者とその同志の静謐の枷を少しずつ、外していきました。力に溺れ、道を誤らぬように。その精神に見合った力を彼らに許したのです』

『なるほど……我々魔族のように力を誇り、それ故に弱きものを虐げるような存在にはなって欲しくないと。だから信仰心に応じて少しずつ枷を外し、少しずつ力を強くしていった。そういうことですね』

『人は力によって道を間違えます。あの気高き心を持った勇者ですら、貴方の謀略によって心を乱し、力に惑わされてしまった。たとえ高潔な精神を持っていようと、強き力を持ってしまえば過ちを引き起こすだけです』

『そう考えているのですか……』


 女神の言葉を聞いて、俺は思った。

 違う。絶対に違う。

 力があろうとなかろうと、人は間違えるのだ。間違える度に、力を欲し、また間違える。力があるから間違えるのではなく、間違えるから力を望むのだ。

 と言っても、あの女神は聞きはしないだろうが。


『やはり貴女とは考えが合わないようです、女神様』

『所詮貴方は魔王です。私の考えなど理解出来ないでしょう』

『そうですね。やはり、貴女は倒します』

『滅ぶのは貴方です』

『……その自信、どこから来るのでしょうか?』


 うん、俺も気になる。


『私は……勇者の魂が失われたものと、そう思っていました』


 ……ん?


『ですが今、私は確かに、彼の魂を感じます。近く、しかし遠く……』


 ちょっと待った……まさかっ……!!

 俺は異次元収納装置を起動し……

 ――警告が発せられていた。時空間に歪みの発生。外部からの介入の可能性大。


「おい、誰でもいいっ!! 魔王の所に武器……ムラサーマと魔導石10個送れ!!」

「何かあったんですか、悪魔さん!?」


 俺の大声に魔王の部下が応答した。


「いいから早く、急げ!!」


 俺は異次元収納装置への何者かの介入を遮断しようとする。あまり経験の無い、異次元収納装置の安定化。駄目だ、防げない!!


『……ここですか』


 女神の声がした直後、俺の左上の空中から奇妙な音と光が漏れだす。大きなシャボン玉が揺らぐかのように、その発生源付近の空気が歪んでいく。異次元収納装置の警告は、危険を伝える警報へと変わっていた。

 異次元収納装置から、物体がこの世界に現れようとしていた。


「まさか……そんなことが出来るはず無いだろ!?」


 俺が見上げた空間の歪みから現れたのは、金色に輝く大型の筒。魂を捕える捕獲器。この世界で使ったのは、一度だけ。

 その筒の先端からゆっくりと、透き通った球体が出て行こうとしている。

 それは魂。魔王の宿敵であった者、俺が召喚された理由だった者、そして――


『おかえりなさい、勇者』


 不死身すぎた者の、魂。 


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