第24.2話 魔王はぐーたらしているのか?
休息とは何のためにあるのか。心身の疲れを癒すためにあるのだろうか。それとも普段行えないことをするためにあるのだろうか。もしくは下手に動かないようにするためにあるのだろうか。
時と場合によって事情は異なるだろうが、それでも一言で表すのならば、次に起こる物事をより良く進めるためにあるのだろう。人は走り続ければ疲弊するし、周囲を確認しなければ道に迷う。物事と物事の間に区切りを付け、取り組む姿勢を整えることも必要なのだ。
必要なのだと……思いたい……!
いつもの部屋のいつものタタミの上のいつもの3人。俺は小説を静かに読んでいるが、テーブルを挟んだ向こう側のバカは姫様に膝枕をしてもらって……と言うよりうつ伏せになって太腿に顔を埋めている。死ねばいいのに!
「……なぁ、魔王様」
「モゴモゴ?」
太腿に返事をする変態魔王。ホント、死ねばいいのに! 大魔王もいなくなったし後はお前がいなくなればファンタジー世界的にはハッピーエンドなんだよ!
「大魔王を倒したから、次は女神を倒さないといけないはずだが……お前、何してんの?」
「モゴゴー、モゴモゴ」
「姫様、そいつぶん殴って」
俺の言葉に頷いた姫様が、握りしめた両手で魔王の頭をぽかぽか叩いた。すげぇ軽めに。ははは、かわいいな姫様。そしてふざけんな。
「起きろ、魔王。状況の説明が欲しい」
というのは嘘で単純にバカップルの姿にムカついてるだけです!
「仕方ないなぁ……」
起きた、魔王が起きた! でも態度がムカつく!
「それで、悪魔さんは何が気になるの?」
テーブルの前に座り、魔王は少々不機嫌そうに言った。
「女神と戦わなくていいのか? もう大魔王を倒してから1週間くらい経ってるぞ」
「それなんだけど、まだ慌てるような時間じゃないんだよね」
俺、早く元の世界に帰りたいんだけど。女の子の太腿に顔を埋めるような奴が近くにいない世界にな!
「慌てる必要が無い、つまり女神の脅威はそこまでじゃ無いってことか」
「それもあるね。大魔王様から託された魔力で女神様の封印はある程度維持できてるし、あと1週間くらいは余裕があるかな」
「他にも理由があるのか?」
「色々あるね。まず、他の魔王が支配してた陣営の動きが気になるから」
「ああ、確かに自分たちの王が殺されたら黙っちゃいないだろうな」
「そうなんだけど、まだみんな混乱してる状況かな。それとボクたちって、大魔王様も倒したでしょ? だから、ボクたちに戦を挑むかどうか意見がかなり分かれてるみたいなんだ」
「なるほど……まとめ役を失った上、恐ろしく強大なバカと戦うかどうかの決断も迫られている。嫌な状況だな」
「とりあえず魔界の問題については、爺様とか他の魔王の陣営と交流が深い人たちとかが平和的な解決策を模索しているよ。無用な戦いは避けたいしね」
「平和的ねぇ……」
信用されないだろ……
「お互い戦争なんてしてる暇は無いし、仮に戦ったらボクたちが勝つことくらい他の魔王陣営の人たちも予想しているはず。だから戦いは当分避けられるんじゃないかな」
「それでも仕掛けてくる連中はいるんじゃないか?」
「そういうのがいたら容赦なくやっつけちゃうのが正解だね。必要があればボクがささっと倒しちゃうよ~」
瞬間移動して爆発魔法を連発出来るからな、お前は。充分な魔導石があれば数万人を1人で倒せそうで、想像してみるとかなり怖いな。バカだけど。いや、バカだから余計怖いのか。
「だけど攻撃を仕掛けてこない限り、話し合いで解決したいかな。せめて女神様を倒すまでは魔族同士で争いを起こさないよう頑張るよ」
頑張るのは爺様とかだけどな。お前は太腿に向かって頑張ってるだけで、うん、これダメな王様だわ。
「で、女神を倒した後はやりたい放題か?」
「大魔王様との戦いの時にも言ったけど、ボクはやっぱり今の領地を守るのが精一杯だよ。それぞれの領地で新しい統治者が現れるよう、協力はするつもりだけどね」
「それ結局、お前の権力が強くならないか?」
「そうかもね。そこは上手く立ち回って、問題が起こらない様にしないとね」
「難しいぞ、多分」
「仕方ないよ。そういう政治とかについての知識も、悪魔さんの持ってきた本からもっと勉強すべきだったかもね」
「まぁ、その辺は俺がいなくなった後の話だからどうでもいいとして……」
「悪魔さん、それはちょっとひどくない?」
知るかっ!
「魔族との関係以外に、のんびりしている理由があるのか?」
「あるよ。女神様との戦いに必要な魔導石がちょっと不足している」
「魔導石か……大魔王との戦いで使ったのを再利用すればいいんじゃないか?」
「爆縮魔力結晶兵器の爆発でほとんど無くなったんだよね……」
「……確かにそうだな」
大魔王との戦いの最中、魔王は魔導石から魔力を補充し、魔力が空になった魔導石は地面に放り捨てていた。そのほとんどが2度目の爆縮魔力結晶兵器による攻撃で消失してしまったわけだ。大魔王にダメージを与えられるほどの威力なんだから当然だな!
「そうなると、女神との戦いで使える魔導石は少なくなりそうか?」
「あと1週間で色んな所から掻き集めれば、大魔王様を倒すのに使った量と同じくらいは確保出来るけど……万全とは言い難いよね」
「爆縮魔力結晶兵器は?」
「残り5つ。大魔王様は5つで倒せたけど、やっぱり不安は残るね。もっと作っておけば良かったかも」
お前、前はあんまり作らない方が良いとか言ってたじゃん! 信念とか無いのかこのバカは。
「とにかく、封印が弱くなって女神様の力が強くなると危険だから、あと1週間以内に女神様へ戦いを挑まないといけない。他の魔王陣営との争いを避けて物資や魔力の浪費を防ぎながら、魔導石の確保を行っていく。その間、ボクはしっかりと休んでおく。それが最良かな」
「……お前が休むって、つまりどういうことだ?」
「こういうことだよ~」
そう言って魔王は寝転がり、姫様の膝に頭を乗せた。奥義、膝枕だ!
「なるほど」
俺はテーブルをひっくり返した。




