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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
46/153

第24.003話 大魔王との戦いは加速するのか

 魔王が近づいて来るのを確かめた大魔王は広げた両腕を降ろし、それと同時に旋風も止む。かつて大魔王城があった場所は半球状のクレーターとなった後、大規模な隆起を経て、今は荒れ果てた地表を見せている。両者はそんな破壊の過程の上で、再び対峙する。


『やはり……姑息な手では貴様を倒せぬか……』

『はい。姑息とは私のような者が得意とするものであって、貴方のような強大な者には似つかわしくない』

『貴様の言う通りだろう。だが、確かめることは出来た……』

『何をです?』

『貴様の使う魔法……それはこの世界のものでは無いな』


 大魔王の攻撃を無効化した魔法の数々。それは確かに、俺が持ってきた魔法書などから魔王が習得したものである。魔族の始祖である大魔王から見れば、それらの魔法は異質なものだったのだろう。


『その通りです。貴方や女神の使う魔法とは、全く異なるものでしょう』

『やはり貴様は、悪魔を召喚したのか……』

『召喚しました。勇者を倒す力を手に入れるためでしたが、考えていた以上に有用であったため欲が出てしまいました』


 有用って、俺が有用ってことか。上から目線かよオイ。いいけどさ。


『悪魔に唆されている自覚はあるのか……?』

『いや、むしろ唆しているのは私の方かも知れません』


 うん。俺、めっちゃお前に付き合わされてるからね!


『悪魔の目的は魂の収奪だ……貴様はそれに利用されているに過ぎぬ』

『そのはずなんですが……どうやら、その認識は少々間違っている気がするんです』

『どういう意味だ……』

『確かに悪魔は魂を手にすることを目的としています。しかし彼らがその力を惜しまなければ、この世界全ての魂を容易く奪うことが可能だと、私は考えています』

『我や……女神の魂も容易く奪うと?』

『はい。悪魔は私に対しどのような知識でも与えるわけではありません。恐らく、悪魔に匹敵する知識や力を私が持たぬよう秘匿しているのでしょう。しかし、それでも私は貴方と互角に戦える可能性を得ることが出来ました。だとしたら悪魔自体はそれよりも強力であると考えるべきでしょう』

『ならば何故……奴らは自らの手で魂を奪おうとしない?』

『我々の知らない、別の目的か思想があると考えられます。私がそれに加担してしまっていることは認めざるを得ないでしょう』

『悪魔に利用され……それでも貴様は我と女神を倒すと?』

『利用されていようがいまいが、悪魔の前では我々など虫けらのようなものです。ならば、己の望むままに生きることが正しいと、私はそう思っています』

『貴様は……この世界が泡沫の如きものと言うのか?』

『はい。それでも私は、この世界がより良い方向に変わることを望みます』

『くだらん……貴様の言葉は、全ての価値を否定する言葉だ』

『我々の世界にも価値はあります。悪魔たちの持つ価値と比べれば、酷くか細いものかも知れませんが』

『それ程までに悪魔の価値を信じると言うのであれば……その力で我を滅ぼして見せよ』

『そのつもりです』


 大魔王の周囲に無数の光球が出現し、魔王はささやくような小さな声で指示を飛ばす。


『みんな、攻撃が激しくなる予感がするよ……陣地の防御もちゃんとやってね』

「待ってました!」


 そう言って2人の男が陣地の前面に向かって飛び出して行く。そいつらは瓜二つの顔をした……というか、どう見ても双子であった。


「我ら双子は魔力同調の技を身に付けている!」

「我らが同調して魔法を放てば、その威力は通常の数倍に至る!」


 双子が予め練習したであろうポーズを取りながら何か言ってる。


「故に!」

「我らがいる限り!」

「この場所の防御は鉄壁なりぃ!!」


 最後の一言を2人同時に発し、得意げな顔をする双子。ああ、こいつらは多分ダメな方だな。陣地防御、失敗確定。


「あの~、悪魔さん……」


 俺の横で水晶板を見ていた魔王の部下が、少し戸惑った様子で俺に話しかけて来た。


「どうした?」

「さっき魔王様が言ってたこと……悪魔さんなら大魔王様や女神を簡単に倒せるって、本当なんですか……?」

「……魔王の出まかせか、買い被りだ。俺にそんなことが出来るように見えるか?」

「で、ですよね……」


 魔王の部下がぎこちなく笑う。普段の言動の甲斐あってか、納得してくれたようだ。よかったよかった。

 実際の所、俺には大魔王どころか目の前にいる魔王の部下すら倒せないわけで。

 そんな許可は、下りてないのだから。

 それはともかく魔王と大魔王は……なんか凄いことになってる!?

 大魔王が次々と放つ、火球、光球、暗黒球。さらに地面から土と岩の混じった柱が魔王を突き上げるように生えて行き、龍か大蛇の形をした土石の塊が柱の間をすり抜け魔王に襲い掛かっている。筆舌し難い状況であるが、魔王はそれらの攻撃を適切に対処していた。

 火球は防御魔法、光球は反射魔法、暗黒球は打消魔法で対抗し、柱と土石の攻撃は超高速化や浮遊魔法で避けつつ、場合によっては爆発魔法で破壊している。大魔王との距離がある程度離れているため格闘攻撃が行われないのと、大魔王が攻撃以外の魔法を使っていないのが救いである。姑息な手段はもう使わないようなことを言っていたため、大魔王が攻撃魔法以外を放つことは無いかも知れない。


『魔導石10準備、即発射!』


 激しい攻撃の中、魔王が補給を要請する。


「早いな……」


 大魔王の魔力残量と、魔王の魔導石残量。どちらが先に尽きるかの勝負だが、大魔王に魔力を惜しんでいる様子は見られない。予想以上に魔力が多いのか、それとも短期決戦を望んでいるのか。あるいは魔王の余裕を奪うことで魔導石の補給を妨害する考えなのか。補給の妨害を狙っているのであれば、魔王では無く陣地への攻撃もそろそろ行われるはずだ。


「発射!」


 魔導石を積んだ弾丸が発射される。魔王がどんなに回避行動で移動しようとも、自動追尾魔術装置によって弾丸は魔王の付近に着弾する。この激烈な状況において、魔導石を回収するための魔力消費や回収失敗の危険を低減させる自動追尾は非常に有効な機能だと言えた。俺に鉄球を当てようとした頃からは想像できねぇ効果だな!

 弾丸は土の柱を貫いて地面に着弾する。魔王は崩れる柱から逃れながら弾丸を回収し、中の魔導石を取り出す。その直後、2発の火球が魔王に襲い掛かり、魔王は防御魔法でそれを防ぐ。そして、空中に向けて打消魔法を放った。

 魔王の上空。3発の火球が遠方へ向けて飛行していた。魔王の打消魔法がその内の2つを消し去るが、残る1つはそのまま飛び去って行く。狙いはもちろん、こっちの陣地だろう。


『ごめんみんな!! そっちで防御頼んだよ!』

「ついに出番ですな!」


 双子が構えを取る。陣地から直接見る火球は大きさ、速さ共に破壊力を感じさせるものであり、直撃したら陣地が崩壊する予感がした。


「はあぁぁぁぁ……」


 青い気体を全身から発する双子。それを火球に向けた両手の先に集中させて行く。


「はっ!」


 同時に掛け声を発し、青い気体を火球へと放った双子。魔王と同じ打消魔法ならば、効果はある……か?

 青い気体に包まれた火球は見事に、それらの気体を弾き散らす! 俺がわずかに抱いちまった期待も弾き散らす!


「「すまぬ、失敗だ!」」


 声を合わせて謝る双子。わかってたけど、なんかもうどうでもいいよ。他の連中も期待してなかったのか、いつの間にか魔王と同じ防御魔法で身を守ってるっぽいし! というかこの調子だと他の連中の防御魔法も効き目無いんじゃないか? やばくね?

 陣地崩壊かと思ったその時、火球が突然消失した。双子以外の何者かが、打消魔法を使ったようだ。


「まったく、若い者には任せておけませぬな」


 聞き覚えのある声。間違い無い。初代魔王から現在の3代目まで魔王一族に仕える側近、通称爺様だ。見た目は70歳近くの年寄りだったが、魔力は強力なままのようだ。


「アンタも来てたんだな、爺様」


 俺は声の聞こえた方向を見た。


「はい。大魔王様と戦うという名誉ある機会、逃すわけには行かぬでしょう」


 声の主は、黒髪長髪で筋肉質な格好良いオッサンだった。


「……誰?」

「私ですが」

「……爺様?」

「はい、爺です」


 ……いや待て。


「爺様、アンタ、見た目もジジイだったよな?」

「この1か月間、肉体強化の秘薬を飲み続け、全身を若返らせたのです」


 ええぇぇぇ……


「初代魔王様と魔王の座を奪い合った頃程ではありませぬが、それなりの魔力を取り戻せました」

「……うん」


 いやいや、まてまて。よくわからない。ってか今、魔王の座を奪い合ったとか言った? この人、もしかして魔王級の存在なの? 言われてみれば初代と2代目の魔王が死んでるのに生きてるし。なんだこの人。大事な戦闘中に人をこんなに驚かせて何したいの?


「どうかしましたか、悪魔様?」


 どうかしてるのはアンタだよっ!?


「いや……大丈夫だ、問題無い」


 とりあえず今は考えないことにする。陣地の防御が盤石になったと思えば、かなりの安心感だし。とにかくあれだ、落ち着こう。

 魔王と大魔王の方は、相変わらずの拮抗状態が続く。攻防の立場が確立した消耗戦は魔王の思惑通りの展開ではあるが、多少のミスが許される大魔王に対しこちら側は一度のミスが致命傷となりかねない。あの魔王であっても、その重圧によって精神的な余裕は損なわれているはずだ。


 それでも魔王は、耐え続けた。


 自らに襲い掛かる大魔王の攻撃を対処し、陣地への攻撃もいくつか防ぎ、魔王が防げなかった分は爺様が防ぐ。魔導石を積んだ弾丸を何度も発射し、その度に魔王は綱渡りのような回収を行う。

 何度、危ないと思ったのだろう。何度、安心したのだろう。

 いつ、危ないと思わなくなったのだろう。いつ、不安を感じなくなったのだろう。


 戦いは1時間を越えた。使用した魔導石は200個近い。このまま、永遠に攻防が続くかと錯覚しそうにすらなる。


『爆縮魔力結晶兵器』


 魔王の声が聞こえた。


『2発、準備』

「……やるのか」


 魔王の部下たちがざわめきながらも、大型の大砲2門に弾丸を装填する。こちら側の最終兵器。これが効かなければ敗北は必至とも言えた。


『発射』

「発射っ!!」


 2門同時に、大型の砲口から弾丸が発射された。あの弾丸に搭載されているのは魔導石では無い。

 搭載されているのは、爆縮魔力結晶兵器。

 自動追尾魔術装置により魔王の持つ誘導側の装置へと飛来し、破壊の限りを尽くす。

 それは技術の結実にして、この世界に存在し得ぬはずの兵器。だが、この世界に生まれし彼らはそれを成した。故に、彼らはもはやこの世界の理を超えている。

 世界を作った大魔王に、世界を超えた魔王が、穿つ、証明。

 大魔王に接近した魔王の上に、2つの弾丸が到達する。魔王は誘導装置を投げ捨て、超高速化でその場を去る。そして、俺の横に立って、作動装置のスイッチを入れる。

 可能性が、破壊となって、焦がし尽くす。

 在るべき世界の、象徴を。


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