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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第22話 魔王はちゃんと計画しているのか

 何故人は締切直前まで仕事を先延ばしにするのか。

 ……するよね!?



 いつもの部屋のいつものタタミの上のいつもの3人。今日は膝枕してない魔王と姫様。そうそう、それでいい。あれたまに居心地悪くなるからね!

 というわけでイチャイチャしてない魔王と姫様は読書に勤しんでいる。あと俺も。俺は小説を読んでいるが、姫様は家庭菜園の本を読んでいる。アンタ基本引きこもりなのにやるのかよ。そして魔王は歴史の本を読んで……


「……」


 魔王が読んでるあの歴史の本、俺の世界の歴史についての本だよな。いいのか? いやダメだったら本自体この世界に持ち込めないから良いのか。

 とは言え、政治や社会について非常に参考となる本には違いないし、統治者が読めば世界を一変させかねない劇物であるとも言える。むしろ王なのになんで今までそういう本読んでなかったんだこの男。バカなの?


「バカといえばさ」

「急に何!?」


 魔王が俺の言葉にものすげぇ驚いていた。さすがバカ。


「もう大魔王と女神を倒す期日まで3か月無いぞ。ゆっくりしてていいのか?」

「え? だって契約内容だと、1年以内に大魔王様と女神様を倒す力を手に入れていればいいってことになってたよ。つまり、爆縮魔力結晶兵器が完成したからもう良いはずだよ?」

「……確かにな」


 ということは。


「じゃ、俺、元の世界に帰っていいよね。おつかれしたー」

「ちょ、まっ、ちょっと待って!!」


 魔王が取り乱して制止する。ははは、バカめ。


「まぁ、爆縮魔力結晶兵器で大魔王や女神が倒せるかどうかはまだ分からないから、それを証明してもらうまでは帰るつもりないけどな」

「つまり、大魔王様と女神様を倒すまではボクらに付き合ってくれるってことだよね?」

「……まぁな」


 ちょっと恥ずかしくなるからやめろ、そういうの。


「でもその代わり、期限である3か月後までに大魔王と女神を倒してもらうぞ」

「大丈夫。元からそのつもりだから」


 そのつもりだったのかい。楽観的にも程があると言いたいところだが、実際倒せる可能性まで到達している。こりゃもう、俺のおかげと言うべきだな!


「で、具体的に倒すための計画とか立っているのか?」

「大まかにはね。詳しい装備の量とかはまだまだ増えるから確定してないけど、戦略はある程度定まっているよ」

「聞かせてくれ。なるべく簡潔にな」


 魔王は読んでいた本を置き、テーブルを挟んで俺と正対する。姫様も同じく本を置き、俺と魔王の話を聞く姿勢を取る。


「まず、大魔王様を倒すよ」


 なんか料理の手順っぽく聞こえるな!


「大魔王を先に倒す理由は?」

「1つは攻撃的だからかな。大魔王様と女神様、お互いがお互いを封印しているわけだから、片方を倒すともう片方の封印は弱くなる。その時に大魔王様はすぐ地上の世界への侵攻を始めるけど、女神様は少し様子を伺うと思う」

「確かにな。急に自分の封印が弱まったら女神は警戒するだろうな」

「うん。大魔王様はそういうの気にせず、好機だと思って一気に攻め込むね。そうなると今までみたいに大魔王城でじっとしてるとは思えないし、人間と魔族との関係もかなり悪化する。倒すのも大変だし、倒した後も大変だよ」

「そう考えると大魔王から倒すのが正解だな」

「それともう1つ。ついでに他の魔王たちも倒しちゃおうかな、って」


 ついでに、って……


「倒す理由は?」

「邪魔だから」


 至極当然といった顔で魔王は答えた。非道なようだが、魔王とは本来そういう存在なはずだ。目の前のバカがそういうことをあまりしなかっただけで。


「大魔王様を倒した後で他の魔王に色々と妨害されるのは困るし、他の魔王はボクと違って人間を軽視してる。今後のことを考えるといない方が良い」

「久しぶりに悪者らしいな」

「そうかな。でも、必要なことだよ。話し合いで大人しくなるとは思えないし、力で屈服させるしかない」

「他の魔王の配下については?」

「統率が失われるから、どうとでもなると思う。念のため、魔界にあるボクの領地に戦力は待機させておくつもりだけど」

「今まで危ない魔法やら魔術装置やらたくさん作ったからな……戦争になっても負けることは無いか」

「油断は禁物だけどね」


 この魔王、敵を倒すときは本当に冷徹だな。腐っても魔王。ふざけても魔王。ムカついても魔王なわけだ。


「それで、大魔王と他の魔王を倒す方法は?」

「ボクが他の魔王を大魔王城に集める。そして、爆縮魔力結晶兵器で消滅させる」

「豪快だな。他の魔王は集まってくれるのか?」

「重大な報告があると言えば集まると思う。一応、同じ地位なわけだから」

「爆縮魔力結晶兵器で倒せなかったら?」

「大魔王様は倒せないと思うね。他の魔王は、むしろ倒せなかったら尊敬しちゃうかも」


 あ、考えてねぇなコイツ。


「ボクでも防御するのが難しいし、事前に情報を得るような姑息な手段に長けた魔王はボク以外いないはずだから、多分大丈夫だよ」

「お前らなら逃げ出してるのね」

「うん」


 姫様が失笑した。どうも、この魔王とは敵対するだけ損な気がしてきた。ご愁傷様、他の魔王のみなさん。


「それで、だ。お前は大魔王が爆縮魔力結晶兵器に耐えられると見ているわけだな」

「うん」

「だったらその後、どう攻撃する」

「ボクが接近戦を挑むよ。ただし、悪魔さんや部下のみんなから支援を受けながらね」

「支援の内容は?」

「魔力が充填された高純度魔導石の補給が基本だね。携帯しやすいよう適度な大きさの指輪として加工した物を、容器に入れてタイホーで飛ばしてもらう予定だよ」


 タイホ―とは大砲のことである。魔導石を逐次発射して輸送することにより、魔力の枯渇を防ぎ長時間全力で戦える体制を整えるということか。たしか自動追尾魔術装置で狙った地点に砲弾を着弾させることが出来るはずだから、戦闘時においても輸送は難しいことでは無いだろう。魔王の頭に着弾する可能性はありそうだが。それで負けたらマヌケ!


「他には?」

「武器は必要だよね。これもタイホーで飛ばしてもらうことを考えてるけど、戦いの序盤では必要無いかな」

「何故だ?」

「まずは大魔王様の魔力を削らないと、ボクの攻撃なんか通用しないからね。途中までは防御に徹して魔力を使ってもらう。充分に魔力が減って防御力が落ちてきたら、攻勢に出る。そんな感じかな」


 言われてみれば爆縮魔力結晶兵器に耐えられる大魔王に魔王の魔法や物理攻撃が通用するはずもない。魔力をどれだけ使わせるか、それが鍵なのだろう。


「だいたい分かった。防御のための魔法は……結構覚えてたな」

「まぁね。万全とは言えないかもだけど」

「それで、女神との戦いも同じ感じか?」

「そうなるね。女神様は大魔王様よりも防御が硬いと思うから、爆縮魔力結晶兵器は女神様に使う量の方が多くなるかも」

「そうか……配分は難しそうだな」

「とはいえ節約して死んじゃったら意味ないから、必要なら大魔王様相手でもどんどん使うよ。足りなさそうだったら、女神様を倒すのを少し遅らせてもいいし」

「臨機応変だな」

「何にしてもあと2か月、可能な限り魔導石や爆縮魔力結晶兵器を量産しながら計画を整えないとね」


 あれ? お前、爆縮魔力結晶兵器の量産を自重したんじゃなかったっけ? いや、大魔王と女神を倒す分は作るって言ってたっけ。結局大量生産になりそうだな、この世界の破壊者め!


「しかしまぁ、遠くまで来た感じだな……」

「悪魔さんのおかげだよ」

「……」


 俺は魔王の顔を見る。にこやかな顔だ。姫様の顔も見る。微笑んでいる。


「大魔王と女神を倒すってのに、笑顔かよ」

「うん。悪魔さんと過ごした楽しい時間の続きが、その先にあるからね」


 その言葉に姫も頷いた。神々無き世界。可能性に満ちた世界。だが、そこにも辛いことや多くの問題があるはずだ。それでも、笑うというのか。


「あんまり期待しない方がいいぞ」

「大丈夫。ボクらは、楽しい世界を作っていける」


 なるほど、笑うことが出来るのは世界に期待しているからでは無く、自分たちを信じているから。そう言いたいのか。


「自信過剰な気もするな」

「だから、悪魔さんのおかげだって」

「俺の……?」


 俺が与えた多くの知識。それが魔王や姫様に未来を信じさせているのか。

 俺がこの世界に持ってきたもの。それは結局、何だったのだろうか。


「まぁ、楽しくなればいいな」


 俺は深く考えることを止めた。


「そうだね」


 こんなくだらない時間も、あと3か月で終わる。あと、少しで。

 いや、やめよう。

 この世界における俺の存在。それを考える程に、俺はこの世界の一部になる。

 必要無い。帰るのだから。去るのだから。

 

 ここは、俺の居場所では、無いのだから。



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