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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第17.2話 魔王の強さとは何なのか

 感謝は大事である。自分が生きていること、毎日を楽しく過ごせていること、新しい知識を得ていること、見たことの無いものを目にすること、美味しい食事が食べられること、安心して眠れること、様々なことに感謝すべきなのだ。

 魔王が。俺に。



 いつもの部屋のいつものタタミ8畳の上のいつものコタツでぬくぬくするいつもの3人。自堕落な3人だと我ながら思うが、よく考えるとこの地上世界において最強の3人組なんじゃなかろうか。いや、女神がいるから最強では無い……のか? そもそも女神って地上にいるのか? それとも魔界で大魔王に封印されてたりするのか? その辺りについて詳しく聞くべきなんじゃないか?

 だが、そういうことはしないで何故か将棋をやってる俺と魔王。


「オーテ!」


 魔王が俺の王将に王手をかける。相手を追い詰める攻撃をして楽しげな魔王だが、その隣で姫様が唖然とした表情を見せていた。流石姫様、どうやら気付いてる。


「はい、お前の負け」


 魔王が動かした駒は、俺の駒の射程から魔王の王将を守っていた駒である。その盾たる駒を動かしたせいで、魔王の王将は俺の駒によって取られた。

 つまり、自滅だ。


「あ!」


 今更気づいた魔王が声を上げる。魔王だから王を守ったりする発想が無いんだろうな、コイツ。


「そっか……この駒が守ってくれてたのに全然気が付かなかった……」


 コイツの部下にはなりたくねぇと思わせる発言!


「にしても、この忙しい中なんで将棋やりたいとか言い出したんだ……」


 今回の勝負は魔王の方から挑んできたものだった。最近は大魔王と女神を倒すための兵器や装置の開発で忙しいから、息抜きでもしたかったのだろうか。


「うん……ちょっと思う所があってね」

「思う所?」

「ボクってさ、実戦経験あんまりないでしょ?」

「まぁ、勇者との戦いも卑怯な手を使いまくったしな」

「え?」

「は?」


 俺と魔王はお互いとも「何言ってんのコイツ」と言いたげな顔をしてしまう。いやいや、時間を止めてるも同然の魔法って卑怯の内に入るでしょ!? 入らないの!?


「えっと……とにかく、実戦経験が少ないまま大魔王様や女神様と戦うのは危ないかなって思ったんだ」

「それで、何で将棋なんだ?」

「ボクと本気で戦ってくれるのって悪魔さんだけで、悪魔さんとボクが互角に戦えるのはショーギだけだからだよ」

「…………あっ、そう」


 どうみても互角じゃないとか将棋で実戦経験が学べるのかとかツッコミ所は満載であるが、一応まともな理由はあるようだ。


「みんなが凄い兵器を頑張って開発してるのに、ボク自身が強くなる努力をしないのは申し訳ないしね」

「ふむ……」


 強くなる努力、ね……


「思うんだが」

「なに?」

「お前の強さは努力した所で変わらないぞ」

「……」


 思いもしなかった指摘だったのだろう。魔王は絶句し、動かなくなってしまった。理解不能な情報を受け取って脳が停止したようだ。


「姫様はどう思う? 魔王の強さは本人の努力で上がるもんだと思うか?」


 俺の問いかけに対し、姫様はしばし考える仕草をして、そしてゆっくりと首を振って否定した。


「えっと……ちょっと待って。どういうこと?」


 復活した魔王が疑問の声を発した。まぁ、将棋で駒を下手糞に動かして自滅したバカには分からないだ

ろうな。駒の動かし方が下手なのは俺も同じだが、コイツは根本的な理解が抜けている気がする。


「そうだな……念のため、姫様と俺の考えが同じなのか確認してから説明してやる」

「うん」

「だから少し後ろ向いてろ」

「えー」


 渋々コタツから足を出して背を向ける魔王。素直でよろしい。


「で、姫様」


 俺は将棋盤を脇に退け、異次元収納装置から紙とペンを出した。凄いエネルギーの無駄遣いな気がする!


「俺が思うに、魔王の強さってのはこういうことなんじゃないか」


 俺は紙に自分の考えを記し、ペンを姫様の方に置く。すると姫様は俺の書いたものに追加の書き込みを行った。


「あー、そっちの方が正しいか……そうかもな」

「まだ~?」

「まとまったぞ。説明してやる」


 身体の向きを変え、再びコタツに足を入れる魔王。


「これを見ろ」


 俺は姫様と一緒に書いた図を魔王に見せる。漢字で書かれた『魔王』という文字を中心にしてその周囲を『姫様』『部下』『俺』という文字が取り囲み、それら全ての要素が互いに双方向の矢印で結ばれている。


「なにこれ?」

「いいか、たとえばお前が覚える魔法は俺が持ってきた本に書いてあったものだよな」


 俺は『俺』という文字を指しながら言った。


「うん」

「それを解読するのは、お前の部下だ」


 次に俺は『部下』という文字を指す。


「そうだね」

「それで最後にお前がそれを修得する」


 俺は『魔王』という文字を指した。これ『バカ』って書いた方が良かったかな。


「その通りだね」

「つまり、お前は俺やお前の部下の力によって魔法を覚えているわけだ」

「うん」

「ということは、お前が強くなるのには何が大事だ?」

「……悪魔さんやみんな?」

「そういうことだ」


 魔王の強さとは俺や姫様、魔王の部下の協力によって成立したものであり、魔王個人の力では決して無い。魔王が強くなるためには、己の努力よりも周囲からの助力が重要だと言うわけだ。


「それで、俺たちは互いに協力することで日々力を増しているわけだが、自分のために頑張るより他人の手助けをした方がいい結果になると思うんだよ、俺は」

「うん」

「だから、お前がやることは自分を鍛えることでは無い」

「それじゃあ何をすればいいのかな?」

「姫様や俺や部下に感謝を示すのが一番だな」


 俺の言葉に、姫様も頷いた。


「感謝……たとえば、どうすれば示せるのかな?」

「そうだな……そういえば、そろそろ新年だな」


 この世界でも年の変わり目は冬に訪れる。奇遇……というべきでは無いのだろうな。


「というわけでアレだ、新年会は日頃の感謝をこめて豪華にやろう」

「え」

「それで良いよな、姫様」


 満面の笑みで姫様が頷いた。


「どうせ交易で儲けてるんだろ? その金をパーッと使っちまえばいいじゃん。いいじゃん?」

「ちょっと待って、一応お金には使い道が……」


 たじろぐ魔王。なんか姫様がこっち側に付くと途端に弱気になってる気がする。所詮オスだな!


「細かいことは気にするな。投資ってのはそういうもんだ」

「でも……」

「でもじゃない。いいから早速準備……そうだな、交易本部に連絡すればすぐ準備できるか。早く連絡しろ」

「えー……」


 躊躇する魔王に対し、姫様が上体をコタツの上に倒す。


「姫……?」


 姫様の攻撃! 姫様は上目づかいで懇願するように魔王の目を見つめた!


「くっ……かわいい……!」


 クリティカルヒット! あざとい!


「わかったよ……ちょっと待ってね」


 そう言って魔王はコタツから出て、電話……じゃなくてアレだアレ、えっと……テレフォン! 魔術を使った通信機、テレフォン! 金属の棒状のやつ! それを取りに行った。


「んじゃ連絡するね……」


 コタツに戻り、どこか気が乗らない様子で魔王はテレフォンのスイッチを入れた。どうでもいいけどスイッチなんて付いてたっけその魔術装置。何か改良されている気がする。


「えーと、交易本部、聞こえる?」

『こちら交易本部! どうしました魔王様!』

「えっとね、うんとね」

「もどかしい。貸せ」


 魔王からテレフォンを奪い取る俺。


「もしもし。俺だ」

『ああ、悪魔さん』

「今度の新年会、盛大にやりたいから準備しといてくれ。お金はいくら使っても良い」

「ちょっと待っ……」

『本当ですかっ!? 最近みんな忙しそうで、息抜きが欲しかったんすよっ!! 早速食材や酒、大量に仕入れときます!』

「あと交易本部以外の連中にも連絡頼めるか? 全員で協力して楽しく豪華にやろうぜ」

『分かりました! 任せてくださいっ!』

「お願いするわ」


 そう言って俺はテレフォンのスイッチを切った。うん、やっぱこんなスイッチ前は無かったわ。新型だコレ。


「悪魔さん……さすがに予算を決めなかったのはちょっと……」

「気にするな! みんなが楽しくやれれば、仕事の効率も上がる! そうだろ姫様!」


 姫様が嬉しそうに何度も頷いた。ああ、パーティーしたかったのねこの子。楽しそうで何よりだ。


「う~ん……姫がそう言うんなら……」


 諦めた様子の魔王。あと姫様は何も言ってはいないからな。


「楽しみだな新年会。ははは」


 わざとらしく笑う俺。同じく笑顔な姫様。困った様子の顔に笑みを張り付けている魔王。

 ひさびさに、一矢報いた感じではあるな!


 今日の勝因。

 姫様が味方についたから。

 

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