第16.1話 魔王は占いにハマっちゃうのか
答えはどこにあるか。
未来だ!
いつもの部屋のいつものタタミの上……のコタツでぬくる3人。冬は確かに近いけどもうコタツかよ。入ってる俺も俺だけどさ。入ってたら何か夏の気分になってきたぜ!
「ねぇ悪魔さん」
「断る」
先日から魔王は俺に対し、固体化した魔力の塊である鉱石――魔力結晶という名前で呼ぶことにした結晶――を魔力に変換するための計算作業をしつこく頼み込んできている。爆発によって魔力結晶にエネルギーを集中させれば結晶は崩壊し、膨大な魔力が空間に放出されると考えられるが、それを実現する爆縮装置の開発については難解な計算が必要となる。この世界においてその計算が出来るのは俺……の持ってる電子計算機くらいなものだろう。
「いや、ちょっと考えを改めたんだよ、ボクは」
「はぁ」
知識を与える分には構わないが、電子計算機の利用はその域に止まらない。兵器を貸すことと根本的には同じとも言える。魔王の頼みはどうあっても聞けないので諦めてくださいコタツあちぃな。
「悪魔さんが計算をするのはダメ。だったら、ボクに計算の方法を教えてよ」
「……」
それなら知識を与えることになるだろう。だが、その計算方法とやらを俺は知らないし電子計算機がどういう計算をしてるか詳しく調べるの超面倒!
「どうかな?」
「やだ」
わくわくした目で俺を見る魔王に向けて拒否の一撃を無慈悲に喰らわす……いや、どう表現しても俺がワガママ言ってるだけだ! 格好悪い!
「えー」
「教えても良いんだが……難しすぎて分からないと思うぞ」
俺が。
「そうかなー」
「無理に俺の世界の方法に頼るより、自分たちなりの方法でやった方が楽だと思うぞ」
俺が。
「うん……それもそうだね。だけど参考までに、悪魔さんの世界ではどんな風にやっているかは聞きたいね」
「どんな風に……とは?」
俺は聞き返す。難しい数学的手法とか聞かれそうになったら話題をそらすからな!
「たとえば魔術装置みたいなのがちゃんと動くかどうか、どうやって調べているのかな」
「そうだな……設計段階からもちろん計算はしてるし、実際に動かして試す場合も多いが、大抵はシミュレーションを使うな」
「シュミレーション?」
魔王がお決まりの言い間違いをしながら首を傾げた。お前もしかして今までのも含めてわざと言い間違いしてるんじゃねぇか?
「シミュレーションだ。簡単に言えば……」
簡単に言えば……なんだ?
「簡単に言えば……」
簡単に言えねぇ。
「簡単に言えば?」
言葉を促してきやがる魔王。どうやっても難しいんだよ俺の世界の概念をこんなファンタジー世界で説明するのって!
「物体や現象がどう変化するのかを計算して……それを視覚的に見せる……みたいな」
「うん。わからない」
だろうな。
「間違っているかもだけど、未来を予知するみたいな感じかな」
「……なるほど」
魔王の言葉に思わず感心してしまった。言われてみればシミュレーションには時間的な変化を計算する、つまり未来を予測するものも多い。未来予知というのも的外れな指摘では無いだろう。
「そうだな、確かに未来を予知するのにも似ている」
「だったら、未来を予知することで悪魔さんの世界のシュミレーションと同じことが出来るんじゃないの?」
「……は?」
未来予知できるの? どうでもいいけどシミュレーションだっての馬鹿野郎。
「えっとね、ボクの部下の1人に占い魔法が凄い得意なのがいるんだよ」
占いかよ。
「人の未来についてはあんまり的中しないんだけど、魔術装置の故障個所とか魔法が成功するかどうかとかについては的中してるんだよね。本人は女の子の人気者になりたいから覚えたみたいだけど、その役には立ってないね」
「ふむ……」
どうやら占い魔法と言っても複雑な未来を予知するようなものではなく、周囲の情報を元に結果を推定する魔法のようだ。論理思考力を一時的に高める知力強化魔法なのかも知れない。
「その魔法を上手く使えば、魔力結晶を魔力に変えるための爆縮魔術装置が作れるかな?」
「装置が成功するか失敗するかを魔法で調べ、失敗するようなら改良する……それを繰り返せば、最終的には完成するかもな」
「希望が見えて来たね」
「だが時間はかかるだろうな。それに魔力結晶を魔力に変えたところで、兵器として利用できるものかどうかは分からない」
「それでも現状では一番可能性はあるよね。やって損は無いよ」
「かもな……」
そう言って、俺は身体をコタツに潜らせた。伸ばした足が別の誰かの身体に当たる。ああ、これは姫様だな。さっきからずっとコタツで寝てるし。とはいえ物騒な話にはあまり参加させたくないので、寝ているのはありがたいとも言えた。
「よーし、まずは占い魔法の精度を高める所から始めないとね~」
魔王が意気込んでいる……んだけど相変わらず軽いなコイツは。
だが。
魔力結晶が兵器となり、その威力が俺の知っている似たような兵器と同様であったならば。それは世界を滅ぼすのに十分な兵器をこの魔王が独占するということである。
自身が破壊の神となりうる可能性に、この男はどこまで意識が向いているのだろうか。
……まぁ、いいか。
俺は寝転がり、うたた寝を始めることにした。
……あついな。




