表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
30/153

第14話 魔王は大発明を自慢するのか

 どんなものにも欠点はあるが、それを補う方法もそれなりにある。しかしその補う方法とやらにも欠点はあり、それを補う方法をさらに求めるとかいう不毛な繰り返しを続ければ、結局長所の無いものが出来上がる。長所のために短所を許容する諦めも時には重要なのだ。

 でもたまに妙な組み合わせで完璧なものが出来ちゃったりするんだよね……



 いつもの部屋のいつものタタミの上でいつも通り寝転がって本を読む俺。

 ……暇だな。


「悪魔さん、やったよ! ついに完成したよっ!」


 バカが変な石を掲げながら部屋に入って来た。暇だからといってバカを呼んだ覚えは無いぞバカ。変なことする前に帰ってくれバカ。


「どうしたバカ」


 起き上がりながら、俺は思わず声に出して言ってしまった。


「バカじゃないよ! ひどいよ悪魔さん!!」


 バカという呼び名に反応する魔王バカ。なんだか「バカ」という言葉がゲシュタルト崩壊してきて「バカ」が何なのか分からなくなってきた。バカってなんだ?


「……バカってなんなんだろな」

「何言ってるの悪魔さん? バカなの?」


 そうか、俺のことか!


「それで、今度はどんな危険な魔術装置を作ったんだ?」

「今回は魔術装置じゃないよ。なんと、新型の魔導石を完成させたんだよ!」


 ふーん。


「この高純度魔導石は通常の魔導石から石とか他の金属とかの不純物を取り除く最新の精製技術によって作られた、画期的な魔導石なんだよ!」


 ふーん。


「今までの魔導石よりも10倍くらい魔力を溜められるから、大きさが10分の1で済む! 小さくて便利!」


 ふーん。


「……なんか無反応だね、悪魔さん」


 タタミに上がり、テーブルの前に座る魔王。自慢の発明品に俺が興味無さげなのが不満なのか、多少不機嫌そうだ。


「いや……10倍になっても意味が無いと思って」

「あるよ! 色んな魔術装置の大きさや魔力貯蔵量が劇的に変化するよ!」

「そうじゃなくて、大魔王や女神を倒すのに役立たないと思ってな」

「ちゃんと役に立つよ! これをたくさん持っていれば、その分使える魔力の量も増えるんだよ!」

「そこなんだよな……」


 俺は溜め息をつく。その姿に、魔王は首を傾げた。


「何かダメな所でもあるの?」

「たとえば、お前が勇者の魔力を全部吸い取った時に使った魔導石はどのくらいの量だった?」

「特型の魔導石が7つくらいだっけ?」

「その新型だったら、どのくらいの大きさで済む?」

「特型よりちょっと小さめくらいの大きさかな」


 特型の魔導石は一般的な身長の男が両腕で抱えないと持ち運べない大きさだった。それよりは少し小さいということは……


「大きすぎるな」

「そんなことないよ! 勇者の全魔力が背中に背負える程度の魔導石に収まるんだよ!」

「大魔王や女神の魔力はその数倍……お前の背中は何個だ?」

「1つに決まってるよ」

「それじゃあどうやって大魔王の魔力に対抗できるだけの魔導石を持って戦うんだ?」

「……」


 止まった。唖然とした顔で止まったぞこの魔王。


「ぜ、全身に少しずつ装備して……」

「重くて動きづらくね? それにそれでも足りないだろ」

「えっと……もしかして、これあんまり使えない……?」

「かもな」


 10倍の容量を持つ魔導石というのは確かに凄いのだろう。しかしその革新ですら太刀打ち出来ない程に、神々の魔力は膨大である。このような既存の技術の延長では無い、全く新しい大発見だけが、神に勝つ糸口なのだろう。


「ねぇ悪魔さん」

「なんだ?」

「何かいい方法無いかな?」


 魔王が新型の魔導石を俺に見せながら言った。俺は右手を出し、その魔導石を受け取る。


「そうだな……」


 ねぇよ。


「おりゃ」


 思いつかなかったので魔王に向かって魔導石を投げつけた。額に石がぶつかった魔王は「あいた」と声を出した。


「そうだ、この石をいっぱい用意してお前に投げつけるってのはどうだ?」

「バカなの悪魔さん……」

「仕方ないだろ、いい運用方法なんて思いつか……」


 ん? ちょっと待てよ?


「どうしたの悪魔さん?」

「意外といけるんじゃないか?」

「何が?」

「お前に石を投げつけるの」

「……やっぱりバカなの?」

「気付かないのか?」

「え? 魔導石を投げつけて……」


 魔王は「あっ!」と気付きの声を上げた。


「一度に持てないのだったら、遠くから何回かに分けて投げ渡して貰えばいい」

「そうだよね。その通りだよ悪魔さん!」


 魔王も理解したようだ。一度に持てる魔導石の量に限りはあっても、それを使い終わった後に新しい魔導石を補給すればその限界を易々と無視出来る。事前に魔力を溜めた魔導石を大量に用意していれば、それこそ大魔王や女神の魔力に匹敵する可能性がある。


「凄いね悪魔さん……冗談からそういうの思いつくなんて」

「お互い、単純な方法に気付かなかったバカだってことだろ」

「そうかもね」

「だが、問題はどうやって遠くから魔導石を投げるかだ。それに恐らく、戦闘中に魔導石の交換もしないといけない」

「それはこれからの課題だね。何かいい方法を考えるよ」

 

 神を倒す糸口。それは補給という、戦略的な概念であった。

 きっと、神と魔王の戦いは決闘ではない。戦争なのだ。戦う魔王の背後に多くの支援が必要となる。そのための戦略こそが、勝利の鍵となるのだ。


 光明が、見えた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ