第13.5話 魔王は色々知りたいのか
同性愛は悪いことなどでは無い。
でも俺を巻き込まないで!
いつもの部屋のいつものタタミの上のいつもの3人。魔王は姫様に膝枕をして貰いながら本を読んでいる。良いご身分だなオイ。王様かよ。王様だった。
「あ、そうだ悪魔さん」
膝枕中の魔王が唐突に話しかけてきた。無視したい。膝枕してる男からの呼び掛けなんて無視したい。
「翻訳機ってもっといっぱい借りられないかな」
「なんだ急に?」
翻訳機は俺が持ってきた数々の本を読むためには必須の装置である。既に魔王には指輪型翻訳機を12個、他の形状の翻訳機を数個貸している。ただしコンニャク型は返却された。マジで誰だよコンニャク型翻訳機なんて作った奴は。せめて食べられるようにしろよ。
「足りないのか、翻訳機」
「うん。大魔王様と女神様を倒すための知識をもっと効率良く集めたいんだよね。それには悪魔さんが持ってきた本を読むための人員を増やすことが一番だと思うんだ」
「ふむ……」
確かにその通りだと思う。俺の持ってきた本の中には他の世界の魔法書も含まれ、そこから魔王は数々の魔法を修得している。もしかしたら大魔王や女神を倒せる魔法が書いてある魔法書も存在するかも知れない。また魔法だけでなく、俺の世界の兵器を参考にすれば破壊力の高い魔術装置を発明出来るかも知れない。
だが……
「何か別に理由があるだろ」
「うん」
やっぱりかよ。
「なんでお前は本当の理由を話そうとしないんだ?」
「いや……なんて言うか、悪魔さんに隠し事を気付いて貰うのが楽しく思えてきたんだよ……」
は?
「やっぱり隠し事とか嘘に気付くのってさ、相手のことをちゃんと見てたり、言ってることをちゃんと聞いてたり……あとは親しい関係だったりとか、とにかくボクの相手をしっかりしてくれてる証拠だと思うんだよね」
オイオイオイなんかやべぇぞ、コイツ!!
「悪魔さんがボクの隠し事に気付いてくれるってことは、悪魔さんがボクのことをちゃんと考えてくれてるってことで、多分それが楽しいのかな……」
「いやいやいや待て待て待て。それ気のせい。気のせいだからっ!」
「気のせいなの?」
「楽しいのは謎かけと同じアレだろ!? 自分の出した問題を相手が考えてるのが楽しいアレ! 相手が間違えても楽しいけど相手が正解してもそれなりに楽しいだろっ!? それだよそれっ!」
必死に説得する俺! 姫様に膝枕された状態でこれなんだから、もし姫様がいなかったらコイツ絶対あっちの方向に走って俺が大ピンチだったよ!! ありがとう姫様、もうこの男を野放しにしないで下さい!
「そうなのかなぁ」
「そうだよ!」
納得行かない顔の魔王。もうコイツ本当に気持ち悪いよ……
「それで、結局なんで翻訳機を増やしたいんだ?」
俺は話を元に戻そうとする。頼む、戻ってくれ。
「え? 色んな知識が欲しいからだよ」
戻った。やったー!
「大魔王と女神を倒すことに関係の無い知識もか」
「もちろん。悪魔さんの持ってきた本は魔法や魔術、料理、建築、音楽、農業、商業、ショーギ、物語、ニンジャ、他にも色んな分野の本があって、図鑑の類もたくさんある。出来れば全部読みたいけど、あと1年じゃ流石に無理なんだよね」
「そうなのか」
……ニンジャ?
「それでも可能な限り多くの知識を手に入れたいから、それぞれの分野について専門の読み手を置いて、その人たちに知識を集中させる方針で行こうと思うんだ」
専門家を養成するということか。各人が中途半端な知識を得るよりかは確かにそっちの方が正解だろう。
「魔法や魔術はボクや研究室の何人か、料理は姫や料理長、他の分野についても読み手の適役には心当たりがあるよ」
「まぁ、翻訳機を追加で貸すのは別にいいが……大魔王と女神を倒す方法を探すのに集中した方が良くは無いか?」
「そっちの人数はもう十分だと思う。それに2人を倒した後のことも考えると、色々な事態に対処出来るよう幅広い知識を持ってた方が良いと思うんだよね」
「もう倒した後のことを考えているのか」
「当然でしょ? あの2人を倒せば全部終わりってわけじゃないんだから」
目標を達成した後も、物事は続く。魔王の当面の困難は大魔王と女神だが、その後に訪れる困難についてはまだ予測がつかない。だからこそ、全ての知識に未知数の価値があるわけだ。
「わかった、指輪型翻訳機をあと24個貸してやろう」
指輪型翻訳機は1箱12個セットなので、2箱分である。
「本当!?」
魔王は姫様の膝から起き上がって、喜びの声を上げた。姫様も心なしか笑顔である。
「これでボクの読書時間が減らせて姫とイチャイチャ出来る時間が増えるよ~!」
「……」
コイツの相手疲れるわ。




