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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
28/153

第13.2話 魔王は熱湯を回避することが出来るのか

 熱いとはどういうことだろうか。また、冷たいとはどういうことだろうか。どうすればそれらを感じられるのか。

 そりゃ肌で感じてもらうしか無いよな!



 いつもの部屋のいつものタタミの上で相変わらずごろごろと本を読んでいる俺。異世界での生活において本を読む以外の娯楽は少なく、それはこの世界でも同じなわけで。だから早く帰りたいわけで。


「ん?」


 ふと、あることに気付いてしまった。1年以内に大魔王と女神を倒す方法を魔王が見つけられなければ、俺は元の世界に帰る。しかし神とも呼べるその2人を倒す方法など、1年で見つかるようなものではない。

 つまり俺は期限いっぱい、残り1年程度はこの世界にいなければならない。早く帰ることなど夢のまた夢である。


「……半年って言えばよかったぁぁ」


 手で顔を覆って後悔する俺。どうせ見つからないんだから期限が短くても良かったのだ。わりと長いぞ1年。今更どうしようも無いけど!


「悪魔さ~ん、新しい魔法を覚えたよ~」


 ポットを持った姫を伴って部屋に入ってくる魔王。お前は楽しそうで良いよなっ! 帰りたい!


「今回覚えた魔法、その名もフーバッハ!」

「フーバッハ?」

「フーバッハ」


 声に出して読みたい魔法名だな。


「フーバッハ」

「フーバッハ」

「ふーばっはっは」

「ふうばっは」


 頷き合う俺と魔王。姫様はそんな俺たちを不思議そうな目で見てる。大丈夫、やってる俺たちも意味が分かっていない。


「それで、どんな魔法なんだ?」

「凄い熱いのや凄い冷たいのから身を守れるよ!」


 曖昧すぎる。


「そういうわけで、熱湯で試してみるよ」


 魔王がそう言うと、姫様がタタミの上のテーブルにポットとカップを置く。どうやらポットに熱湯が入っているらしい。


「これをお前にかければいいのか?」

「うん。あ、ちょっと待って」


 そう言って、魔王は手の平を見せるように両手を前に突き出す。


「フーバッハ!」


 魔王の周囲に一瞬、ガラスのような光沢が見えた。どうやら透明なバリアのようなものが張られたらしい。


「これで大丈夫! さあ悪魔さん、熱湯をかけてみてよ!」

「ああ」


 ポットからカップにお湯を注ぎ、タタミの外に立つ魔王の近くまで歩み寄る。そして魔王の顔の目の前までカップを持って行き――


「ちょっと待って」


 魔王が止めてきやがる。


「どうした」

「近すぎだよ」

「え?」


 カップを傾けると、魔王がバックステップで俺から離れる。


「逃がすかっ!」


 カップの熱湯を魔王目掛けてぶっ掛ける! しかし、魔王の周囲にある見えない曲面に沿って、熱湯は弾かれていった。


「やった! 魔法成功だよ!」

「クソっ!!」


 悔しい。熱湯をかけられなくて凄く悔しい。というか何だよ熱いのや冷たいのから身を守る魔法って! 熱湯の入ったカップを目の前まで持って行けたんだから、半端に熱いものとかは防げねぇんじゃねぇのかその魔法!


「……試そう」

「なにを?」

「姫様、すまないけど凄い冷たい水を持ってきてくれ」


 姫様は頷き、部屋の外へと出て行く。


「……ねぇ悪魔さん」

「なんだ?」

「確かに冷たいものも防げるけど、凍えるくらい冷たいものじゃないとダメだと思うんだよね……」

「だから?」

「……別にいいけどさ」


 俺はお前に熱湯や冷水をかけたいだけなんだよ! 念のためカップに追加のお湯入れとくぜ!


「ところで、その魔法は大魔王や女神に通用するのか?」


 カップにお湯を注ぎながら俺は聞いた。


「ボクも見たことは無いんだけど、大魔王様は火炎の渦や猛吹雪を起こすことが出来るらしいんだ。しかも魔法じゃなくて、息で」

「息で!?」


 ドラゴンとか怪獣とかそういう類だろそれ。いや、大魔王だったらむしろそれくらい出来ないと駄目なのかも知れないが。


「それを防ぐために使えるかな、って」

「どうだろうな……熱湯かけたくらいじゃわからん」

「なるべく魔力を使わずに大魔王様の攻撃を防ぎたいんだよね。火炎とか吹雪は避けるのが難しいから、こういう魔法で防ぐのがいいと思うんだ」

「でも大魔王の攻撃手段は他にもたくさんあるだろ? たとえば攻撃魔法とかはどうする?」

「それはちゃんと対策を研究中だよ。色んな防御手段を使えるようにしないと、万全とは言えないしね」


 確かにその通りである。相手の攻撃にあった防御を臨機応変に使うことで、受けるダメージも消費する魔力も抑えることが出来るだろう。小賢しくも思えるが、1つの手段に頼るよりもずっと有効的である。

 と、姫様がポットとカップを持って部屋に戻って来た。カップまで追加で用意してくるとは気が利く娘である。


「ありがとう姫様。それじゃあ冷水で試すか」


 新しいポットから新しいカップに水を注ぐ。カップ越しに伝わる冷たさ、間違いなく冷水だ。


「だから悪魔さん……せめて氷くらいの冷たさじゃないと弾かないと思うんだよ」

「え?」


 テーブルから振り向き様に、カップの冷水を魔王に向けて勢い良くかける!

 突然、魔王が消えた! いや、超高速化の魔法を使って避けやがったんだっ!

 周囲を見渡すと、俺の背後、タタミからかなり離れた位置に魔王が立っていた。距離はあるが、奴は背中を向けている!


「覚悟っ!」


 俺はお湯の入ったカップを取り、走りながらその中身を魔王へと浴びせかける。既に熱湯とは言えない温度、それでもお前の魔法は弾くかな!? いや、超高速化を使ったから魔法の効果は切れてるか! マヌケめっ!

 そして、振り向いた魔王の顔にお湯がかかる!


「あちち! あちち!」 


 お湯の熱さに慌てふためく魔王! 同じく慌てる姫様が、冷水の入ったポットの中身を魔王の顔にぶっ掛ける!

 びしょ濡れになった魔王。ああ、ざまあみろ。


「ありがとう姫……あと悪魔さん、ちょっとひどすぎない?」

「俺の攻撃もかわせないのに大魔王の攻撃をかわせると思っているのか?」

「……今回はボクの鍛錬が足りなかったってことでいいよ」




 その後、魔王は着替えに行き、俺は姫様に正座させられ、無言で怒られました。

 喋らないのがむしろ凄い怖かったです。


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