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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第13話 悪魔はおかわりするのか

 正解と言えることを生きる中でどれだけ実行出来ているかは分からないが、間違っていないと言える程度のことならば毎日のように実行していると思う。ベストな答えは出せなくともベターな答えなら出せる、という感じだろうか。

 最適の答えではなくとも、間違っていなければわりと満足行く結果にはなると思う。また最適の答えとは見つけるのに時間や労力が必要となり、それらを考慮すると妥協した答えの方が後々になって正しいと言える場合もある。その時点での最良が未来でも最良とは限らないのだ。

 そんなわけで、今日も適当にやってます。間違ってはいないけど頑張ってもいない、そんなテキトーな感じで。



 いつもの部屋のいつものタタミの上で、いつも通りごろごろしてる俺。姫様と魔王はいない。大魔王と女神を倒すことが決まり、その方法を探索する作業で忙しいのだろうか。


「悪魔さん、スパゲチってのを作ったよー!」

「何をしているんだお前はっ!?」


 盆を持って部屋に入って来た魔王に思わず大声で突っ込んでしまう。魔王の後ろには姫様もいる。どうやら姫様の新作料理らしい。


「それで……スパゲッティ?」

「うん。スパゲチ」


 魔王がタタミの上のテーブルに盆を置く。その上に乗っている3つの皿には、トマトソースらしいものがかけられた象牙色の麺が盛られていた。

 ああ、パスタだ。本当にパスタだ。しかもフォークまで盆に乗ってる。完璧だ。


「どう、悪魔さん?」

「すげぇ……」

「すごいって、姫」


 姫様が嬉しげに微笑んだ。心の中で「やった」とでも言ってそうな感じである。


「食べて……いいんだよな?」

「みんなで食べよう。その方がいい」

「だな」


 俺は起き上がってテーブルに向かい、魔王と姫様もテーブルの前に座る。タタミの上に置かれたテーブルに向かってパスタを食べようとする光景。もうこの世界のファンタジーは崩壊しきっている。


「それじゃあ食べようか」

「ああ」


 俺は手を合わせ、続いてフォークを取る。食事の前に手を合わせてしまう習慣は異世界でも抜けないものである。こんなタタミの上では仕方も無いか。


「どれどれ」


 パスタにソースを絡め、フォークで巻き取って口に運ぶ。咀嚼する。


「うん……」


 あぁ……味も普通のパスタだ……1年以上食べていなかったパスタだ……


「そうやってソースと絡めて食べるんだ……ってなんで涙ぐんでるの悪魔さん?」

「いや……懐かしい味だなって」


 パンだのクッキーだのうどんっぽい麺だの穀物系の食べ物はこの世界でも数多く食べたが、この独特の歯応えはパスタにしか無い。いや、この歯応えを出せる麺をパスタと呼ぶべきなのだろうか。何にしても懐かしい、懐かしい味だ!


「よく作れたな、パスタ……いや、スパゲチなんて」

「姫も前から作ろうと思っていたらしいんだけど、本に書いてある麺と同じものがなかなか出来なかったみたい。でも最近仕入れた珍しい小麦で試してみたら出来ちゃったみたい」

「作り方だけじゃなくて正しい材料あってこその料理ってわけか……」

「そういうこと。何事もそうでしょ?」

「そうかもな。何にしても、姫様ありがとうな」


 俺の言葉に、姫様は笑顔を浮かべ軽く頭を下げた。




 スパゲチを食べ終え、俺は空になった皿を見つめる。


「美味かった……出来ればもう少し食べたかったな」


 魔王と姫も既に食べ終えていた。量は全員同じくらいのはずだったが……姫様って意外に大食いなのか?


「姫、追加でもう少し作れる?」


 姫様は魔王の言葉に小さく2度、頷いた。


「おかわりがあるってことかっ!?」


 前のめりで発せられた俺の声に少々驚いた様子だったが、姫様は頷いて肯定した。


「やった!」


 すげぇ嬉しい。


「それじゃあごめん姫、悪魔さんのために作ってあげて」

「お願いします」


 頭を下げる俺。食欲に勝てない俺。

 姫様は困った人を優しく許すような目をして立ち上がり、盆の上に俺の皿を乗せて部屋を出て行く。手間をかけさせてすまない、姫様。


「よっぽどおいしかったんだね、悪魔さん」

「ああ。懐かしい味だった」

「意外と悪魔さんの世界とこの世界の食べ物って似ているのかな?」

「……かもな」


 その点については謎も多いし、深くは語れない。


「そういえばそろそろ1か月だが、大魔王と女神を倒す手がかりは何か見つかったか?」

「うーん……戦略はある程度考えているんだけどね」

「どういうのだ?」

「大魔王様も女神様も、魔力はとてつもない。その魔力をどうにかしないと勝てないんだけど、それには2つの戦略がある」

「2つ?」

「まず単純に大魔王様や女神様を超える魔力をぶつける方法。悪魔さんが不可能に近いって言った通り、これはかなり難しい。だけど大魔王様も女神様も常に最大限の魔力を出しているわけじゃないよね?」

「ああ、それはその通りだな」

「だからあの2人の魔力が弱い時……正確には防御に使う魔力が弱い時にそれを超える魔力をぶつけるのが正しいと思う」

「具体的にはどんな時だ?」

「まず油断している時だろうね。奇襲でいきなり、ってのは流石に防御が間に合わないと思う。それと防御以外の強い魔法を使っている時かな。ボクも超高速化している時は他の魔法が使えないし、あの2人も強い魔法を使っている時は防御が疎かになると思うよ」

「確かにな」


 大魔王も女神も魔王を遥かに超える魔力を持ってはいるが、瞬間的に出せる最大魔力には限界がある。よって防御への魔力使用が乏しい状態は十分に考えられ、その効果的な一瞬を捉えることが出来れば勝機はあるかもしれない。


「それで、もう1つの戦略は?」

「溜めてる魔力が無くなるまで耐える」

「……」


 無理じゃね、それ?


「ボクも超高速化を使ったあとは少し休憩しないと魔力が回復しない時がある。大魔王様や女神様も、魔力を使いすぎればそういう隙が出来ると思うんだ」

「どうやってそんなに魔力を使わせるつもりだ」

「耐える!」

「……耐えきれずにやられるだろ」

「そうならないために、強力な防御魔法を探す必要があるね」

「ふむ……」


 あるのか、そんなの?


「最初の戦略を取るにしても隙を伺う間は耐えないといけないし、防御魔法の研究はこれから必須だよね。上手く攻撃魔法を使わせることが出来れば防御が疎かになるし、溜めてる魔力も減らせることが出来る」

「でもお前の魔力の方が先に無くなるだろ?」

「そうならないための方法も考えるよ」


 これから考えるんかい……


「何にしても、まだ倒せるかどうかは見通しが立ってないわけだな」

「そうだね。これからだよ」


 果たして、こんな調子でこのバカに神を倒せるのか。1年後に乞うご期待だなこりゃ。

 しばらくして、姫様が俺のスパゲチと3人分のお茶を乗せた盆を持って部屋に入って来た。


「よっしゃぁーー!」


 喜びのあまり叫ぶ俺。頭悪そう!


 とりあえず今はおかわりを食う。食うのだ。

 全てはそれからだ。その前に食べる。食べる。

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