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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
23/153

第12.01話 勇者は終わらないのか

 終わりとは、不意に訪れるものだったりする。

 一方で、終わりだと思ってもなかなか終わらないものだったりする。



 いつもの部屋のいつものタタミの上ではない、宿屋の2階の一室。辺境の宿とはいえ、野宿とは比べ物にならない程には快適だと言える部屋に俺と魔王はいた。


「結構食べられるものだったね、夕食」


 魔王がベッドに寝転がって言った。どうでもいいけどこの部屋ベッド1つしか無いんですけど。一緒に寝ればいいの? 男2人で? この世界だと普通なの? 誰か助けて。


「城の料理には劣るけどな」

「それは料理長や姫、女性陣の努力があるからね。それと良い食材の調達も頑張ってるし、比較するまでも無いよ」

「自信たっぷりだな。確かに城のメシは美味いが」


 馬を休ませるため、また夜の移動は危険だということで、俺と魔王は宿屋に一泊していた。ちなみに馬車の御者役をしていた魔王の部下は野宿。泣いてた。


「さて、明日には勇者の捕えられている街に着くと思うけど、それまでに動きがあるかな」

「具体的には何が起こりうる?」

「一番不安なのはボクらが街に着く前に全部終わっていることだね。間に合うためにも明日は早めに出るよ」

「勇者の問題より俺たちの問題の方が大きいか……」

「そうだね。逆に言えば、ボクらが早めに着けばある程度の問題は強引に解決できるかもしれない」

「俺たちの遅刻以外に起こるとしたら、何がある?」

「審問や処刑が公開されずに行われることだね。まずありえないと思うんだけど、一応考慮しておきたいね」

「他には?」

「あとは勇者が……」

『魔王様っ! 動きがありました!』


 魔王が荷物袋から取り出し、机の上に並べていた数本の金属の棒。その内の1本から慌てた様子の声が聞こえて来た。


「来たかな」


 その連絡を予想していたらしく、魔王はベッドから机の前の椅子へと移動する。


「そこから勇者がどうなっているか見える?」

『夜中ですし、勇者がいる城の中までは見通せませんよ。バカなんですか?』


 すげぇ!! こいつ死を恐れていない、真の勇者だ!!


「それはそうだよね。どんな状況になっているか分かる?」

『城の方が騒がしくて、どうも衛兵が動き回っているようですね。城の外までは騒ぎが広がっていないことから、勇者はまだ城から脱出してないでしょう』


 脱出……?


「そう、報告ありがとう。また何か動きがあったら連絡して」

『分かっています。いちいち言わなくても大丈夫です』


 いいぞもっと無礼にやれ。

 通信が切れ、魔王は静かに深呼吸する。


「予想はしてたけど、思ったより早かったのかな」

「勇者が逃げ出したのか?」

「おそらくね。単独で逃げているのか、それとも仲間の手引きがあったのかは分からないけど」

「それを見越して、部下に見張らせていたわけか」

「さっき連絡してきたのは地上の監視部隊だね。空中にも監視部隊がいるよ」


 航空部隊もいるのか魔王軍。もう勇者放っておいて世界征服しろよ。実は出来るんだろお前ら。


「そろそろ空中部隊からも連絡ないかなー」

『ないですー』


 さっきとは別の金属棒から返事が返ってきた。聞いてたんかよ空中監視部隊。


「聞いてたんだね。でも必要の無い時は魔導石に蓄えた魔力がもったいないからあんまりテレフォン使わないでね」

『緊急事態なのに使わないでどうするですかー』


 確かにその通りである。ってか声が妙に幼いけど、子どもか女の子か? 空を飛べる魔物に騎乗するのなら体重が軽い者が適しているはずだから、おかしくは無いが。


「空から何か見えない?」

『夜だから見えるはずないです―』

「ヘルメット使って何か見えない?」


 ヘルメットで何が見えるんだよ……と思ったが、この世界のヘルメットって魔力を可視化する魔術装置だったな。俺が不用意にこの世界に無い単語を口走ったばっかりにややこしい!


『装着したけどお城の中までは見えないのでよくわかりませーん。街の方はキラキラしててきれいです―』


 この子、女の子かなー。今度紹介……いや、だから異世界で彼女とか作ったら元の世界に帰りづらくなるんだよ、俺。自制しないと一生この世界から帰れない!


『あ、魔王様』

『魔王様!! 勇者らしき魔力が城から飛び出しました!』


 空中部隊からの通信を遮るように、地上の監視部隊が大声を張り上げる。


「地上部隊、街の人に見つかると面倒だから声押さえてね」

『はい、そうですね。スミマセンスミマセン』


 こいつ絶対反省してねぇ!!


「空中部隊、何か見える?」

『大きい魔力が1つみえます―。勇者だとおもいますー。他の人をたおしてますー』

「捕まっちゃいそう?」

『ぜんぜんですー。そろそろ城の外に出ちゃいそうです―』

「そう……地上部隊からは何か見える?」

『空中部隊と同じものしか見えませんね。というかこっちの方が見える範囲狭いんだから聞くまでも無いですよね』

「うん。そうだね」


 魔王も魔王でよくキレないな。そういえばこいつが怒った所は見たことがない。意外に心が広いのか?


『魔王様ー、勇者が城の外に出ましたー。街道を走ってます―』

「うーん、分かったよ。そのまま空中部隊は監視を続けてね」

『りょうかいですー』

『地上部隊、帰還します。おつかれしたー』

「お疲れ様~」


 魔王軍、全員性格に問題アリなんじゃね?


「さて、と」


 魔王が疲れを払うように身体を伸ばし、そのあと机の上で両手を組む。


「勇者はどこに向かうのかな。どこか信頼できる人間のいる場所だと思うんだけど……」

「魔王城じゃね?」


 適当に言ってみる。


「…………それだ」


 それかよ。


「今の勇者、いや今までずっと勇者は、ボクを倒すことしか考えてなかった。こんな目にあうまでそれに執着していたんだから、きっと今も執着している。そうなると、確かにボクの所に向かったと考えるべきだね」


 魔王がうんうんと自分の考えに頷く。


「そこに気付くとは、さすが悪魔さん!」


 適当に言っただけなんだけどね。


「でもそうなると、かなり好都合だね。魔王城なら迎え撃つのも簡単だし、これは勇者から魂を奪える可能性もかなり高いかな……」

「だったら嬉しいけどな」

「まだ確定は出来ないけど、期待はしても良いかもね。今すぐ魔王城に戻るのも手だけど、勇者の向かう方向についてもう少し情報を得てからの方が良いね」

「冷静な判断だな」

「というわけで、ボクは寝るから悪魔さん何かあったら起こして」


 そう言って魔王はベッドに向かい、横になる。


「おい待て」

「寝かせてよ! 眠いから」

「緊急事態なんだからお前は起きてろよっ!! 代わりに寝といてやるから」

「いざという時のために寝ておくのも魔王の仕事なの! 悪魔さんは悪魔なんだから寝なくても大丈夫でしょ!?」

「寝るときは寝るんだよ俺だって! それよりお前はもう少し自分の仕事に責任を持て!」

「そんなこと言ったってこのベッドは渡さないよ~!」

「くそ! この野郎!」

『お二人とも、バカ丸聞こえなんですけど』

『ふたりとも徹夜するでーす』


 監視部隊からツッコミが入りました!




 結局その夜は外で泣きながら野宿してた御者役も交えて酒を飲んだ。

 ベッドはそいつが取りやがった。

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