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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第10話 勇者の努力は報われるのか

 努力は報われるものとは限らない。だが、何故報われないことがあるのだろうか。

 考えられるものとしては単に努力が足りないか、それとも努力の方向が間違っているか。目標に向かって正しい方法で努力し続ければ報われることも多いと思われるが、方向か量のどちらかが適切でなければ目標には辿り着かない。一種の力学的な観念がそこには存在するのかも知れない。

 しかしそう考えると、努力においては量よりも方向を重要視すべきなのだろう。方向さえ正しければ量を増やせばいいが、間違った方向を正しく変える場合にはそれまでの努力が無駄になることもある。そのため最初に正しい努力の方向を向いていれば、努力はとても報われやすくなるのだろう。あるいは、その正しい方向を探す試行錯誤こそ最も努力すべき課題であるのかも知れない。

 なんにしても、魔王を倒すため真っ直ぐに進む勇者と、よく分からないモノを色々と試す魔王は努力の姿勢が全く違うと言えるわけで……



 いつもの部屋のいつものタタミの上。暖かくなってきたのでコタツはしまい、テーブルだけが置かれている。そして俺の向かい側では、バカが姫様に膝枕をしてもらっていた。


「膝枕の季節だよね~」


 寝ぼけたことを言う金髪クソ野郎。そんな季節はねぇよ。


「姫様!!」


 突然やって来た魔王の部下が部屋の入口で大声を出した。


「どうしたの?」


 魔王が姫様の膝の上に頭を乗せたまま、視線を部下に向ける。こんな魔王によく部下は付いてきてくれるな……いや、もしかしてコイツ以外の魔王はコイツ以上に問題があるのか? ひどい世界だ。


「姫様、今すぐお部屋に避難してください! それと悪魔さんはモニターの前でお待ちください!」

「あ」


 慌てた様子で起き上がる魔王。


「そして魔王様! 勇者たちが来たのでお願いします!」

「くそぅ! やられたっ!!」


 魔王はそう言って両拳を畳に付けて突っ伏す。いつも勇者襲撃の報告に来ては報告を全部言わせて貰えなかった部下の、ささやかな反撃であった。


「やった……ついに魔王様を出し抜きましたよ!」


 勝利の拳を掲げる魔王の部下。勇者より先に魔王を倒しやがった。コイツが真の勇者でいいんでね?


「あ~、もうやる気なくなっちゃったよ~」


 魔王が頭を掻きながら立ち上がり、面倒臭そうな様子で部屋の外に出る。

 大丈夫かよおい……

 姫様と魔王の部下も部屋から去り、残された俺。仕方ないのでモニターの電源を入れる。思えば、勇者の襲撃も久しぶりだ。今回はどんな戦いが繰り広げられるのか……いや、そもそも戦いになるのか……

 モニターの画面に、魔王の姿が映される。あからさまにやる気が無い。その手には相手を麻痺させる魔術装置の……なんだっけあの武器の名前。スタンガンじゃないし……まぁ、どうでもいいや。

 そして、勇者たち一行が現れる。数か月前に装備を奪ったものの、護衛の仕事などで得た資金で新調したようだ。果たして、その装備でどこまで戦えるだろうか。

 そして次の瞬間、勇者たち全員が床に倒れていた。


「はぁっ!!!?」


 勇者一行の姿が透けて行き、それを確認した魔王は大広間から退出する。どうやら魔王は超高速化の魔法と麻痺させる武器を使って一瞬で勝負を決めたらしい。マジメに戦うやる気も無いから。


「……」


 俺はモニターの電源を切って、タタミで仰向けになる。

 勇者たちはこの数か月間、魔王との戦いに向け苦労してきたはずだ。だがそれは、数秒で終わった。勇者たちの立場からしてみれば、あまりに報われない。

 それでも勇者たちは魔王と戦うことをやめないのだろうか。女神に選ばれた者の使命として、決して屈さないのだろうか。不死身であるが故に、勝てる見込みの薄い戦いに何度も挑むのだろうか。

 人間としてあまりに辛い使命感の行きつく先は、果たして不変の意志なのか。それとも、彼らはその運命に壊れてしまうのだろうか。

 この先の戦いにおいて勇者たちの敵は魔王では無く、己自身となるのかも知れない。自分たちに与えられた使命と女神の加護を信じ抜くのか、それとも報われない現実と魔王との力量差を受け入れるのか。どちらを選んでも、幸福になれないのは悲しい所ではある。

 それにしても、この世界の女神は一体何を考えてこんな状態の勇者一行を放置しているのか。まだ勝ち目があると思っているのか、それとも他に手が無いのか。

 

 その真意を知る日は――まぁ、こねぇな。

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