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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第7話 魔王は追いはぎになれるのか

 物品とは、人間の基本である。

 大抵の人間は服をまとっているし、大抵の人間は建築物に住んでいる。何か目的を果たす場合もそれに合わせた道具を用い、生物として元来持つ物理的な能力を越える力を人間は道具によって発揮している。

 逆に言えば、物を持たない人間など弱弱しい存在だと言える。一部の世界では魔法だのなんだのがあるせいで当てはまらないものの、道具によって力を得ている点は一致している。それがたとえ女神の加護を受けた勇者であろうと、武具によって得ている強さがあるわけだ。

 それを奪えるとしたら――



「魔王さ」

「姫は自室に避難! 悪魔さんは打ち合わせ通りに!!」

「魔王様! 最後まで言わせてくださいよっ!! 勇者が来ました!」


 いつもの部屋にやってきた報告係のいつもの報告。そろそろ可哀相になってきた。


「わかってるってば~」


 気怠そうにコタツから出る魔王。こんな奴に何度も倒されてる勇者が一番可哀相な気もしてきたぞ!


「いちいち部屋に来なくてもテレフォンで知らせてくれればいいのに」

「それやりましたけど反応無かったから来たんですよっ!!」

「あれ? そうなの」


 魔王はコタツの中に手を入れ、棒状の金属こと音声を送受信できる魔術装置テレフォンを取り出した。そこからは微かに音が聞こえる。


「あー、気付かなかったみたい。ごめんごめん」


 コイツは絶対に勇者をなめている。


「とにかく、準備しなくちゃね! 姫も悪魔さんもはやくはやく」


 部屋を出て行く報告係と姫様。それに続いて魔王。俺も立ち上がる。


「それと悪魔さん」


 顔だけこちらを振り向き、魔王が言う。


「例の件、試してみてね」




 数分後、俺は魔王の部下たちと共に大広間を囲む廊下にいた。普段よく見る男性魔族や巨人族だけでなく、料理長を中心とした女性の魔族の姿も見える。

 もしかして、今までで最大の作戦じゃねぇかこれ? ただしやることは強盗だが。

 作戦の内容はここにいる全員が先日、魔王から聞かされている。当日まで秘密じゃなかったのかよ、と内心思いながら俺もちゃんと聞いてやった。

 その内容は、まず魔王が予め大広間を魔法で完全な暗闇にし――正確に言えば部屋を暗くする魔法を何十回もかけるという地味な下準備をし――魔力で相手の位置が見える兜であるヘルメットと敵を麻痺させる道具であるビリビリで迎え撃つ。

 魔王は超高速化の魔法を使って時が止まったような速度での麻痺攻撃と拉致を行い、勇者の仲間を1人ずつ廊下へと運ぶ。そして廊下で俺と魔王の部下が装備や道具を奪い、手枷足枷猿ぐつわと完全拘束する。これらを暗闇の中の勇者が事態を把握する前に行う、という計画である。

 麻痺させるより殺した方が早いんじゃないのかと思うが、魔王いわく「時間止めてる時は少しでも労力を減らしたいんだよ~」とのことだった。人殺しも楽ではないらしい。

 そしてもう1つ、俺には他の連中とは違う役目が与えられているわけだが……


「まず1人!」


 変なヘルメットをかぶった魔王が突然目の前に現れ、担いでいた女魔法使いを床に下ろす。身体は動かないようだが意識はあるらしく、両の目が怯えの色を帯びている。


「装備や道具やお金を取ったら拘束して、なるべく地下に運んでね!」


 部下たちが一斉に返答し、魔王が姿を消す。2人目が運ばれる前に作業を終わらせられるだろうか?


「どうしよう……これ服脱がしていいのかな?」

「間違って胸とか触ってもいいよね……?」

「やばい……緊張してきた……」


 女魔法使いを囲んで魔族の男たちがざわざわしている。ダメだこいつら。


「ほらほらどいたどいた! 女の世話は女の役目!」


 料理長を筆頭とした女性たちが男たちを追い払って女魔法使いを囲む。俺も追い払われたが、その時の女性魔族の目がマジ怖かったです。他の男はともかく俺はやらしいこと考えてません勘弁してください。

 女性陣の威圧で見ることは出来なかったが、女魔法使いの持ち物は手際良く奪い取られている様子だった。服を脱がされる音も聞こえる。エロい。いや待て決してやらしいことを考えているわけではなく……


「終わったよ!」


 男性陣が一斉に女魔法使いを見る! 俺も見た! 決してやらしいことを考えていない!

 そこには簡素な布の服を着せられ両手足と口を拘束された女魔法使いが、虚ろな目で横たわっていた。

 ……そりゃ、裸はないよね。


「これはこれで……」


 男の1人が、ぽつりと言った。そんなんだから女性陣から警戒されるんだよね。

 と、そんなことを考えている場合では無い。


「ちょっと退いてくれ」


 俺は魔王の部下たちを押し退け、女魔法使いの隣に立つ。そして、異次元収納装置から手に収まる程度の大きさを持つボールを取り出した。

 魂を捕えるための捕獲器。このボール型は特に簡易的なタイプであり、標的にした対象に当てることで魂をボール内に閉じ込めることが出来る。投げて使うことも可能だが、「ゲットだ!」とか言いながら外すと結構マヌケである。

 俺はボールを操作し、女魔法使いを標的に設定する。そして女魔法使いの額にボールを当てるが、一瞬だけ静電気のような光が走り、ボールは弾かれてしまった。

 やはり無駄か。

 魔王から試すように言われた魂の捕獲。勇者の仲間は勇者本人よりも女神からの加護が弱く、魂を奪える可能性は否定できなかった。しかし実際に試した結果、人間の魂であれば十分捕えられるボール型捕獲器は無効化されてしまったわけだ。

 俺は容量が大きい分、捕獲までに時間のかかる瓶型の捕獲器を取り出す。片手で持てる大きさとはいえ、大抵の魂は捕獲できる容量を持っている。これで捕まえられないとしたら、魂の大きさでは無く別の要因によって捕獲が出来ないことが考えられる。


「はい2人目! 疲れる!」


 魔王が女僧侶を床に下ろす。即座に、女性陣が取り囲んだ。


「ちょっと休憩。悪魔さんの方はどう?」

「駄目だな。別のも試してみるが、恐らく無駄だろう」

「諦めちゃダメだよ~」


 そりゃそうだ。俺は捕獲器を操作し、再び女魔法使いの魂を捕えようとした。

 だが、やはり駄目だった。静電気のような光がまたしても女魔法使いの体表面を走り、魂の捕獲を妨害した。


「駄目だな」

「やっぱり女神様の加護ってやつかな。死んだ時は勇者と一緒に蘇るわけだし、魂を引き離せないのも仕方ないか」

「残念だな」


 それは俺自身の心境でもあった。契約の遂行に有用であり、契約者である魔王の同意があるのならば、悪魔である俺は他の魂を捕獲することが許されている。勇者を倒すことに役立つ上、それなりの魂まで手に入るというオイシイ話だったが、そんなに人生甘く無いものである。


「それじゃあ魂を奪うのは置いといて、さっさと地下に運んじゃおう。勇者から離れれば、もしかしたらだけど教会とかに飛ばされないかも知れないし」


 その可能性もかなり低いが、やってみる価値はあるだろう。女僧侶も女性陣によって拘束が完了し、男性陣が輸送を……女性陣によって邪魔された。


「運ぶくらい良いだろ!?」

「良いわけないでしょ!!」


 敵同士とはいえ同性を思いやる魔王配下女性陣一同。心優しくも思えるが身ぐるみ剥がしている時点で全く優しくない。たとえ同性といえど、服を脱がされる恐怖は存在するわけで。それを考えると殺すのではなく意識の残る麻痺状態にするという魔王の手段は、精神的な面ではなかなかのダメージが期待できそうでもある。

 そんなことを考えているうちに3人目、男性剣士が運ばれていた。魔王の部下である男たちが、渋々といった様子でその鎧を剥ぎ取る。ちょっと見たくない光景である。


「あとは勇者だけど……どうしようか」


 椅子に座って小休止をしながら、魔王が呟く。いつ椅子持ってきたんだよお前は。


「勇者の仲間が全員地下に運ばれてからで良いんじゃないか?」

「勇者もそろそろ何かやりだすよ。もしかしたら魔法で城を壊し始めるかも知れない」


 せめて俺が廊下から避難するまで待ってくれないかな、勇者。


「魔王様! 勇者の仲間たちが持っていた物品は、全て回収終了しました!」


 魔王の部下が快活に報告した。男の服を脱がしたのに元気って、コイツまさか……


「よし、何にしても目的は充分に達成出来たわけだし、勇者もシビれさせてみよう!」


 魔王が再び姿を消し、廊下では男たちが肩を落とす。お前らがモテないのはどう考えてもお前らが悪い。

 そして――


「いやー、勇者シビれさせたら消えちゃったよ~」

「魔王様! 勇者の仲間が全員消えました!」

「んじゃ今日はこれまでだね。みんな、お疲れ!」


 湧き上がる歓声と拍手、やり切った表情の女性陣とちょっとヤケクソ気味の男性陣。みんなで協力して物事に当たるというのは、どの世界でも素晴らしいことなのだろう。


 いや、やっぱり人を全裸にさせるのは素晴らしくねぇよ!!

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