第79話 暴風の王はその真価を発揮するのか
いつもの部屋のいつものタタミの上から遠く離れた、海の上。小舟に揺られて、俺たちは勇者がいる孤島へと向かっていた。
「ゆうしゃ~♪ ふふふふ~ん♪ ゆうしゃ~♪ ふふふふ~ん♪」
小舟には俺と魔王、暴風の王と水禍の王の4人が乗っている。暴風の王は楽し気に鼻歌を歌い、水禍の王は静かに水面へ手を向けている。誰も舟を漕いでいないわけだが、どうやら水禍の王が魔法で動かしているようだ。乗り心地も馬車に比べてずっと良い。
「それじゃあ、念のため確認しておくね」
魔王はそう言って、他の3人の顔を見回す。魔族の王3人と悪魔1人が小舟で移動しているというのは奇妙なものだが、大きな艦船だと勇者に捕捉されたときの被害が甚大なため仕方のない所だ。コイツらだけなら小舟が襲われても空を飛んだり海の上を歩いたりして逃げられるだろうし。俺は沈むけど。
「ボクたちの目的は、あくまで偵察だよ。もちろん多少は勇者の魔力を削っておきたいけど、無理だけは絶対にしないでね」
「だけど金屑くん、別に私たちで勇者を倒しちゃっても構わないんでしょ?」
暴風の王が敗北フラグを口にした。
「いくら君でも、難しいと思うよ。勇者を倒すのは後方にいる他の3人と合流してからの方がいいね」
後方にいる3人とは、劫火の王、荒土の王、霊木の王のことである。3人は別の島で勇者を撃退する態勢を整えており、ここにいる3人が威力偵察および誘導を行う手筈となっている。
「勇者には魔法による攻撃がほとんど効かないのですよね?」
「そうだと思うよ。この前戦った人間の勇者も聖竜の勇者も、魔法はほとんど効かなかったし傷もすぐ再生させてたからね」
「それって、どうやって倒せばいいの?」
「魔法を防いだり傷を治したりするのに魔力を使っているから、それを使い切らせちゃえば倒せるかな」
「長期戦になる、ということですね」
「霊木の王みたいに相手の魔力を利用した攻撃が出来れば良いんだけどね。今回の勇者にもそれが通用するかは分からないけど」
「相手の魔力を利用する、ですか……」
水禍の王は何か思い当たることがあるのか、思案する仕草を見せる。他の2人はどうせ力任せだろうから、水禍の王には是非とも搦め手で攻めていただきたい所だ。
「そういえば金屑くん、例の秘密兵器って持ってきてるのかな?」
「一応、船に積んであるよ」
そう言って魔王は、俺たちが先程まで乗っていた大型の帆船を指差した。勇者との戦闘に巻き込まれないよう沖合に停泊しているのだが、どうやら魔王たちだけでなく対勇者の切り札も運んでいたようだ。
「その秘密兵器って、どんなのだ?」
「それは後のお楽しみだよね、金屑くん」
「そうだね。きっと驚くよ」
ニコニコしながら勿体ぶるバカ魔王2人。コイツらのこういう所マジでムカつくかんな!!
「それより悪魔さん、そろそろ悪魔眼鏡を使って欲しいんだけど」
「はいはい」
俺は異次元収納装置からメガネ型計測装置を取り出し、装着する。海の上だし本来のサングラスモードに戻しても良いのだが、どうやら俺にサングラスは似合わないらしいのでグラスは透明のままで行く。
「なになに今の魔法!? 物が取り出せるの!? もう1回やってみせて~!」
「やだよ」
やかましい暴風の王のリクエストを一蹴する。この子の言動で水禍の王が静かに怒りを溜めていないか、ちょっと気になる。まぁ、怒りが爆発する前には島に到着するだろうから考えないようにしよう。
「さて、と」
俺はメガネ型計測装置を通して、目的地である勇者が潜む島を見る。非常に大きな魔力が計測されているが、その場所はどうやら島の奥の方らしい。
「勇者の位置からして、上陸は邪魔されないと思うぞ」
「だとしても急いだ方が良いかもね。あっちもボクたちに気付き始めてるかもしれないし」
「それなら、少し速度を上げますわね。どうか皆様、振り落とされないように」
次の瞬間、小舟が海面を跳んだ。そのまま小舟は水切りの石のように、高速で水面を飛び跳ねて行く。
「これ、舟が壊れちゃわないかな!?」
「そんな失敗を私がするとでも?」
魔王の心配を、水禍の王は自信に満ちた言葉で否定する。この人は素敵な男性との出会いを求めて王座にまで上り詰めた女傑なわけで、つまり物静かな佇まいとは裏腹に向こう見ずな所があるとか冷静に分析してる場合じゃねぇな!! ちゃんと舟にしがみ付いて無いとマジで海に落ちるわっ!! 魔族の王が操縦すると、全ての乗り物は遊園地の絶叫マシーンと化すわけね!!
「きゃはは! 楽しいね、金屑くん!」
魔法で宙に浮けるためか、暴風の王は純粋に楽しんでいるようである。やっぱこの子、昔の魔王にちょっと似てるわ! 早く結婚するなりして落ち着いてください! 相手が見つかるとは思えないけどさぁ!
「着きますわよ」
小舟は飛び跳ねる速度を落としながら、ゆっくりと砂浜に突っ込んだ。舟が壊れなかったのは正直奇跡だと思うよ、俺は。
「悪魔さん、勇者はいる?」
「えっと……」
俺は舟から降りながら、島内を計測装置で視る。
強大な魔力反応が、近づいてきている。
「いたぞ。だけどコイツは……」
「どうかしたの?」
「聖獣じゃなくて、人間らしいぞ……」
放出される魔力から読み取れるシルエットは、紛れもなく人型であった。何故、こんな孤島に人間の勇者がいるのだろうか?
「もしかして海で遭難した人かなぁ。最近、この辺りで船が沈んだことってあったっけ?」
魔王が水禍の王を見ながら言った。
「金屑の王、もしかしてお忘れですの?」
「なにが?」
水禍の王は呆れた様子で溜息を吐いた。何か俺たちも知っているような大きな海難事故があったらしいが、そんなもの……
「あ」
「悪魔さん、わかったの?」
「前に勇者の軍勢が乗った船が、嵐に巻き込まれただろ」
「ああ、あったね。ってことは、その生き残りがこの島に漂着したってこと?」
「そう考えるべきだろうな。こんな島に元々住んでいたとは思えないし」
「よく分かんないけど、私が倒しちゃえばいいってことだよね!」
俺たちの考察を無視して、暴風の王が勢い込んでいる。頭が筋肉なのかな? 見た目は小柄な少女なのに、中身はマリアと同じゴリラなのかな?
「っと、そろそろ姿が見えてくるはずだ」
俺がそう言ったすぐ後に、草むらから男が姿を見せた。
上半身裸の、小麦色をした肌。下半身には一応ズボンらしきものを穿いているが、ひどく汚れている。どちらかと言えば細身の体型であるが、非常に筋肉質な身体をしている。鎧の勇者、竜の勇者と来たからコイツは……裸の勇者?
「えぇっ!?」
「わっ、すんごい!」
突然、魔王と暴風の王が驚きの声を上げた。我に返った俺が見たのは、砂浜を恐ろしい速さで走る勇者の姿であった。
って、早く回避、回避せんとマズいわっ!!
ところが勇者は俺たちの目の前で突如、空中へと舞い上がった。そして一気に、十数メートル程の高さまで上昇する。
「意外と簡単に出来ちゃった。やっぱり、私ってすごいね~」
暴風の王が、勇者に向けた右手人差し指をクルクルと回しながら言った。
「本当に凄いよ。でも、いくら君の魔法が強くてもあの勇者には効かないはずなんだけど、一体どうなってるの?」
「あの勇者に魔法を使ってるんじゃなくて、あの勇者の周りにある空気に魔法を使ってるからね~。よっぽど重い人じゃなきゃ、空に飛ばすのなんてかんたんかんたん」
暴風の王は勇者を島の奥へと戻しながら、左の人差し指も回し始める。
「ぐるんぐるんの、ぐ~♪」
奇妙な呪文……呪文か? まぁ、よく分からない言葉を彼女が発すると、地面から勇者に向かって風が渦を巻き始めた。それはすぐに竜巻のような勢いとなって、勇者に襲い掛かる。
「まんまる小石にギザギザ小石、石をいっぱい入れましょう♪ ついでに岩も入れちゃって、かき混ぜかき混ぜぐ~るぐる♪」
楽しそうに歌いながら、暴風の王が竜巻を操る。彼女の魔法は初めて見るが、想像以上に凶悪なシロモノであった。刃物代わりになる石と一緒に竜巻へと放り込んでしまえば、相手が数百体の聖獣でも簡単に全滅出来るだろう。暴風の王が1人で聖獣のほとんどを倒せたのも、この魔法を見れば納得が行く。
だが、相手は数千個の断片を引き継いでいる勇者だ。この程度で死ぬはずは無い。
「最後はどーん! と落としましょう♪」
暴風の王がそう口にすると、竜巻が一瞬で霧散した。石や植物の枝らしきものがパラパラと落ちていき、勇者も数十メートルの高さから落下していく。
んで、頭から思いっきり地面に叩き付けられた。
…………これ、死んだわ。
「どうかな、金屑くん?」
「普通なら死んでるけど……どうだろう」
魔王が勇者の生死を確かめるために近寄ろうとした瞬間、勇者は跳ね起き、地面の土や砂を巻き上げながら再び俺たちの方へ駆けてきた。
「うわっ!? やっぱり生きてたよっ!!」
「しつこいな~、もう~」
勇者の身体がまたしても宙に浮く。どれほど筋力があろうとも、空中で抑え付けられてしまっては身動きを取ることは出来ない。攻撃魔法も使ってこないし、暴風の王の前ではこの勇者は無力だと言える。
あくまでも今のところは、だが。
「助かるよ、暴風の王」
「だけどさ、この人どうやって倒せばいいのかな~。何回も地面に落とせば倒せるかな?」
物騒なことを言い出す暴風ちゃん。この子は他の王みたいに打算が無い分、制御が効かない危険性が相当に高いんじゃなかろうか。危険があぶない。
「金屑の王、少しお聞きしても良いですか?」
「なにかな?」
「霊木の王はどのようにして、勇者の魔力を利用したのですか?」
「霊木の王はね、勇者の中に植物を寄生させて、体内から魔力を奪ったんだ」
「つまり体の内側からの攻撃であれば通用する、ということですわね」
「やってみないと分からないけどね」
「でしたら、少し試してみたい方法があるのです。貴方と暴風の王で時間稼ぎをお願い出来ますか?」
「うん。任せて」
魔王の返事を聞いた後、水禍の王は海の方を向いた。そして何やらブツブツと呪文を口にし、それと共に海面が奇妙な渦を描き始める。詳細は分からないが、大掛かりな魔法であることは間違いない。果たして、あの勇者にどれ程の効果があるだろうか。
「とはいえ、暴風の王がいれば時間稼ぎは簡単だよね」
「もちろん! だって、空中に抑えとけば良いだけだし~」
楽観派魔王の2人は呑気に上空の勇者を見上げながら、水禍の王から離れる。お前らさ、相手が魔法を使ってこないと決めつけてない? それとも魔法を使ってきても自分たちならどうにか出来るって自信がありまくりなの? ありまくりなんだろうな。
俺はメガネ型計測装置で勇者の全身を念入りに確かめる。もしも魔法を使うのであれば、魔力の放出という形で兆候が現れるはずだ。
「ん? なんか変だなぁ」
暴風の王がなにやら違和感を覚えたようだ。メガネ型計測装置も、勇者の手足から魔力が放出されているのを検知していた。
「ねぇ悪魔さん。勇者の手足から白っぽいのが出てるけど、あれってなんだろう?」
魔王が勇者を指差して言った。空中に浮かぶ勇者の手足からは白い気体というか、霊気のようなものが現れ始めていた。そして計測装置によると、そこに含まれる魔力は並の攻撃魔法よりもずっと、大きなものだった
「俺の計測装置によると、あれは魔力の塊みたいなものらしい」
「ってことは、あれで攻撃してくるのかな?」
「あ、これダメかも」
暴風の王が不穏な言葉を口にした直後、勇者が空中の拘束から逃れて地面へと落下、そして目にも止まらぬ速度で加速接近、暴風の王へと殴り掛かってきた。
間に合わない、と思った瞬間、同調加速が発動し、世界が静止した。
「危ない所だった」
すんでの所で、魔王が超高速化を使用したようだ。だけどあと1秒でも遅かったら、少女の頭部が砕け散っていたかもしれない。ホント、お前ら油断しているんじゃねぇぞ!! バカの一番悪いところは、死にやすいってところだかんな!!
止まった世界の中、魔王はのんびりと小舟まで移動し、舟の中に置いてあった剣を拾い上げる。剣を鞘から抜いた魔王は勇者の背後に回り、その刃で勇者の首元を薙ぎ払った。
カキン、と高い音が響き、魔王の持っていた剣が折れた。
「……え?」
刀身の半分ほどが遠くに飛んでいき、砂浜を滑って海に浸かる。魔王は残り半分の刃を持って目をぱちくりさせ、首を傾げた。
「この人、本当に人間なのかなぁ……」
――魂に肉体が左右される。
前に学校長こと爺様と話した時のことを、俺は不意に思い出した。思い返してみれば、鎧の勇者にしても竜の勇者にしても、高い魔力によって肉体が強化されていたのではないか。そしてこの勇者に至っては装甲も鱗も無しに剣を弾く、そんな異質かつ強靭な肉体へと変貌しているのではないか。
言うなれば、鋼の勇者。その鋼の肉体は魂の剣であり、魂の盾。大量の勇者の断片が、男の肉体を都合の良いように変化させた末路。それはもはや、人間と呼ぶべきものでは無いのだろう。
「よいしょっと」
折れた刃を投げ捨てた魔王は、鋼の勇者を持ち上げて運び始める。遠くの地面に勇者を横たえた後は、その周囲に魔法陣を描き、深呼吸する。
「よし」
魔王が超高速化を解除する。鋼の勇者は起き上がって魔王に攻撃しようとするが、その前に再び超高速化が発動した。魔王は恐らく、魔法陣を発動させるために超高速化を一時的に解除したのだろう。アイツが使う魔法陣といえば、もちろんアレである。
悠々とした足取りで、魔王が俺や暴風の王のいる所まで戻ってくる。そして、世界が元通りの速度で動き出した。
「ありがとう金屑くん! 助けてくれたんだね!」
「うん。あの勇者、ものすごく速いからね」
余裕の感じられる様子で会話をする、2人のバカ魔王。一方の勇者は魔王が仕掛けたドロヌーの魔法陣によって、落とし穴と化した地面に沈んでいった。
「やっぱり、ドロヌーは効くみたいだね。これでちょっと時間が稼げるかな?」
鋼の勇者がドロヌーの落とし穴から跳び上がって、地面に着地する。
「嘘でしょ!?」
着地後、即座に高速接近してきた鋼の勇者に対し、魔王はまたしても超高速化を使う。今度は島の奥の方まで勇者を運び、駆け足で暴風の王の前まで戻って来た。
「ねぇ暴風の王、ちょっとこれで攻撃してみてくれないかな!?」
魔王は超高速化を解除してすぐに、懐から小さな金属の塊を取り出して暴風の王に見せた。
「なにこれ?」
暴風の王がその塊を手に取る。先端が丸みを帯びた、小さな円柱状の金属。まさか、それって……
「これはね、悪魔さんの世界でガンダンって呼ばれてる金属の塊なんだ」
「弾丸だよっ!!」
「どっちでもいいけど、とにかくよく飛ぶ塊で、当たった時の威力も凄いはずなんだ。それをあの勇者に向けて発射してくれないかな?」
「これを石みたいに撃てばいいんだね」
暴風の王は弾丸……ガンダン? とにかく呼称などどっちでもいいそれを、空中に浮かべる。そして草むらから飛び出してきた鋼の勇者に向け、まさに銃弾のような速度で発射させた。
……周囲の空気を操って、強力な空気銃のようなものを作ったのだろうか。何にしてもこの子、空気を操るだけで色んなこと出来過ぎじゃない? これもう風の魔法というより、重力制御に足を踏み入れてる気がするよ?
だが、そんな暴風の王の射撃も鋼の勇者には通じなかった。弾丸は確かに鋼の勇者の胸部に命中したが、勇者はそれを気にも留めず、暴風の王に飛び掛かろうとする。
「あー! もうやだ!!」
暴風の王が鋼の勇者を空高く上昇させる。だが信じられないことに、鋼の勇者は両手足から放出した白い霊気によって空中で姿勢を変え、俺たち目掛けて落下してきた。
「あれれ!? 私の魔法でも止まらないんだけどっ!!」
慌てふためく暴風の王。衝突は不可避かと覚悟した瞬間、同調加速が発動した。魔王はジャンプして鋼の勇者の腕を掴み、空中から引きずり下ろす。そして先程仕掛けたドロヌーの落とし穴に勇者を頭から突っ込ませ、俺と暴風の王の近くに戻ってから超高速化を解除した。
「ねぇ金屑くん!! やっぱりあの勇者、秘密兵器を使わないと倒せそうにないよ!!」
「秘密兵器使っても倒せないと思うんだけど……」
「でもでも、時間稼ぎにはなるでしょ! 私が取って来るまで、1人で頑張ってね!」
「あ、ちょっと待って!!」
暴風の王が沖に向かって飛び立ち、鋼の勇者がドロヌーから跳び出す。勇者の高速接近攻撃が当たる前に、魔王はいつも通りの超高速化を使ってドロヌーの中に勇者を沈める。
その後、魔王は超高速化とドロヌー落としを繰り返しながら、時々「ビィィィィム!」だの「エレクトウェーブ!!」だの「Don't move!」だの様々な魔法を鋼の勇者に放った。だが、どれも効果は無く、魔王の魔力だけが無駄に消耗しているようだった。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっと、キツイかも……悪魔さん、手伝ってくれない?」
「命だけなら助けてやっても良いんだが」
我ながら悪役っぽいセリフを言ってしまったな!
「そろそろ暴風の王、戻って来てくれないかな……」
鋼の勇者が眼前に迫っていたので、魔王は超高速化でドロヌーの落とし穴まで勇者を運び、投げ入れる。こういう地獄ありそうだな。永遠に巨石を沼に投げ込む地獄。
「ああもう、勇者がぜんぜん止まってくれなくてつらいんだけど! ちょっとは休んで欲しいんだけど!!」
勇者が不休すぎてつらいって感じか。
「暴風の王、早く戻って来てよっ!!」
そんな魔王の叫びが通じたのか、沖合に停泊していた船に異変が起きた。何やら黒っぽい巨大な物体が、船体に穴を開けて空へと飛び出したのである。
「あっ! やっと来た!」
そう言って魔王は超高速化を使い、鋼の勇者を魔法陣に落とす。いよいよ地獄ともおさらばか。
「それで、秘密兵器ってなんなんだ?」
超高速化が解除されたと同時に、俺は魔王に尋ねる。
「見れば分かるよ」
船から飛び出した物体は、真っ直ぐこちらに向かってきている。飛行能力があるということは、暴風の王が使っている円盤に似ているものだろうか。そうなると戦闘機か? 魔導車の延長線上で作れそうだし。
近づくにつれ、物体の詳細が明らかになっていく。まるで足のようなものがあり、まるで腕のようなものがあり、それらがまるで胴と腰のようなものに繋がっていて、その上にまるで頭のようなものがある。
「まさか……まさかオイ!?」
黒ずんだ物体が島に着地する。
それは、金属板が寄せ集まって作られた人型。
骨組みだけと形容すべきボディに、金属の管が巻き付いた異形。
胴体と頭の間にはコクピットのようなものが存在し、そこに暴風の王が不敵な笑みで座っている。
「まさかっ!?」
「そうだよ、悪魔さん」
作ったのかぁ――!!
「対勇者用人型決戦兵器、その名も!」
その名も!
「マオウガ―!!」
「いっけぇー! 私の鉄人号!!」
……どっちだよ!?
勇者カウンター、残り2人。




