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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第6.8話 魔王の装備は不審なのか

 物事には積み重ねによって成功するものもある。

 全力を出しても達成できない類のものはもちろんであるが、力任せでは失敗するような慎重さを要するものも、積み重ねが必要だと言える。上手く行くよう工夫に工夫を重ね、歯車が噛み合うように数々の要素を連動させることで、成功の流れが完成される。それは破壊では無く創造であり、時に芸術の域にも達する。成功までの過程が、一種の産物とも言えるのだ。

 そんなわけで不死身の勇者を倒す過程においては、なんか役に立つのか立たないのか分からないある意味芸術的な産物がどんどん創造されていくのだった……



 いつもの部屋のいつものタタミ8畳のいつものコタツのいつもの3人。俺と魔王は将棋を指し、姫様はコタツが気持ちいいのか寝てしまっている。ここのどこが剣と魔法のファンタジー世界にある魔王城だ。


「ねぇ悪魔さん」

「なんだ?」

「ボク、ここから逆転できる?」

「俺が間違えればな」

「わかった、頑張るよ」


 何を?


『……ま……』

「ん?」

「どうしたの悪魔さん?」

「なんか声が聞こえたんだが……」

「声?」

『まお……ま……』

「また聞こえたぞ? しかもお前の方から」

「確かに聞こえたね。ということは」


 魔王はコタツの中に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを探る。そして金属製の短い棒を取り出し、それに向かって話し出した。


「魔王様だよ~」

『魔王様、例の物が完成しました!』


 金属の棒から声が聞こえた。どうやらこの棒が音声の元らしい。

 というかこれって……


「本当? すぐ行くよ~」

『お待ちしております』


 棒から音が聞こえなくなり、魔王は棒をタタミの上に置いた。


「……なんだそれ」

「え? テレフォンだよ」

「電話なのはわかる」

「デンワ?」


 ああ、この世界のテレフォンってそういえば電話とは別物だった。誰だよそんなややこしいネーミングをしたのは。

 ……俺だ。


「テレフォンだとしても……小さくなりすぎじゃないか?」

「改良したら小っちゃくなっちゃった」


 たった数か月で音を送る装置が携帯電話にまで進歩したのかよ。ファンタジー世界ってこんな風に魔法や魔術で大抵のことがすぐ出来ちゃうから納得いかねぇんだよ!!


「魔導石をかなり小さく出来たからね。良い原石が採れてるのもあるけど、加工技術の向上もなかなかだからね」

「魔導石ってなんだっけ?」


 前に教えてもらったかもしれないが、だとしても忘れた。


「魔力を貯蔵したり、取り出して魔術装置とかに送れる石のことだよ」

「電池かよ」

「デンチ?」

「いや、気にするな」


 とにかく、魔導石はいわば電池のようなものらしい。それが小型化すれば魔術装置も小型化できるというのは納得出来る。そういう地道な進歩でお願いします。


「魔導石が小さく出来たから、小さい魔術装置もどんどん作れるようになったんだよ~」

「それで、また何か新しい魔術装置が完成したのか」

「うん。悪魔さん察しが良いね」


 話の流れでわかるわ。


「というわけで、ちょっと取ってくるね」

「おう」

「ショーギの決着はその後で」


 そう言って魔王は立ち上がった。


「言っとくけどお前もう負けてるぞ」

「え?」


 俺は自分の手を指した。はい、俺の勝ち。バーカバーカ。


「…………負け?」

「ああ」




「ただいま!」


 数分後、魔王が部屋に戻ってきた。怪しいヘルメットみたいなのと怪しい音叉みたいな物を持って。


「……マジで何それ」

「まずこれ!」


 魔王は怪しいヘルメットをかぶる。するとレンズの付いた2本の短い筒が、魔王の右目と左目に当たった。


「何か見えるのか?」

「うん。これは魔力が出ている場所が明るく見える魔術装置なんだ」


 赤外線スコープね、はいはい。なんでお前らは大昔にどっかの誰かが作った物をまた作っちゃうんだよ。それとも想像力や発想なんて所詮そんなもんなのだろうか。


「これを使えば暗闇の中でも勇者たちの居場所がわかるよ。人間も魔族も、大なり小なり魔力はあるからね」

「本当に見えているのか?」

「今だって姫の姿がぼんやり光って見えるよ。ただ……」

「ただ?」

「なんで悪魔さんからは魔力が出てないの?」

「……」

「悪魔さん?」

「魔力を出さないことくらい、造作も無いんだよ」


 そう、言っておく。


「ふ~ん……確かに、悪魔さんなら出来そうだね」


 納得した……と思おう。深く突っ込まれても、何も言えんし。


「それで、どんな状況で使うんだよ、それ」

「ダークネ!」


 部屋がちょっと暗くなった。


「ああ、部屋を暗くする魔法なんてあったな……」

「部屋を真っ暗にして勇者たちの視界を奪って、こっちはこれで勇者たちの位置がわかる。かなり有利になれるよ」


 全く役に立たない魔法だと思っていたが、魔術装置と組み合わせることで実用的になるようだ。変な魔法を有効活用したいがためにいらん努力をしている気もするが。


「それでこの魔術装置の名前なんだけど、悪魔さんなにか」

「赤外線スコープ」

「セキガ……もっと簡単なのが良いよ~」


 お前らが本来発音してる言語より100倍は簡単だろ!?


「んじゃ……ヘルメットで」

「ヘルメット! 決定だね」


 適当にも程があるがもうどうでもいいや。


「それじゃあ次、これ!」


 魔王は音叉のように金属の先端が二股に分かれ、持ち手が木材で出来た魔術装置を掲げる。変身でもするのか?


「この魔術装置にはエレクトウェーブと同じ効果があるんだよ」


 スタンガンかよ。また既成品の再発明かよ。


「魔導石に貯めたボクの魔力を使って、この先っぽを当てた相手にエレクトウェーブを喰らわせるんだ」


 どうでもいいけど内部どうなってるんだよそれ。魔力を魔法に変換するための回路とかあるんだと思うんだけど、そんな手持ちサイズに収まるものなのか? やっぱ得心行かねぇわお前らのヘンテコ装置!


「便利でしょ?」

「普通に魔法で撃てよ……」

「他の魔法で魔力をたくさん使っている時に便利なんだって」

「ああ……例の超高速化だな」

「うん。これで時間が止まるくらいの速さで動きながら勇者たちをシビれさせられるよ!」


 凄いんだけどナイフとかで攻撃した方が早くね?


「この2つの魔術装置と前に覚えた魔法で、今度こそ勇者たちの持ち物を奪うよ」

「具体的にはどうやって?」

「それは当日のお楽しみ!」


 むかつく! 怪しいヘルメットと怪しいスタンガンを装備してるから普段よりむかつく!


「それで悪魔さん、この魔術装置のなま」

「ビリビリシビレレ失神ボーン」


 どうでもいいよ。やけくそだよ。


「ビリビリ……ビリビリだね」

「んじゃ、それで」


 なんでこいつは名前欲しがるかなー……


「よし、ヘルメットとビリビリで勇者に悔しい思いをさせるぞー!」


 響く拍手の音。いつの間にか起きていた姫様が手を叩いていた。ごめん、うるさかったね俺ら。コタツで寝てるのを起こされたんだから内心はメチャクチャ怒ってますよね。ホントすみません。

 

 それにしてもヘルメットで顔を隠してスタンガンで相手を襲って貴重な持ち物を奪うって、それ魔王じゃなくてただの強盗じゃねぇか?

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば悪魔さんって魔法使わないよね
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