第72.5話 特別編『勝田是ガールズと秘密基地の部屋・番外編「フォトン・バカ」』
ここは皆さんご存知の勝田是ガールズの溜まり場、超喫茶「フォトン」である。
人気メニューは遠赤外線調理パンケーキと紫外線キャッサバミルクラテ。オシャレでナイスーな女の子に話題のお店なんだ。
「そういえばマモさん」
「何かしら愛華さん」
「この前テレビで知ったんですけど、カルテットって4人組って意味だったんですね」
ガバッ、という音が出るくらいの豪速で揚巻ちゃんと咲夜が衛を見た。衛は気まずそうな顔になり、茜は何も聞かなかったフリをしながらタピオカミルクティーをぐびぐび飲む。
「どういうことだよ、オイ……」
「落ち着いて、咲夜さん」
「これが落ち着いていられっか! アタシたちのチーム名を決めたの、マモだろ!?」
「この中に一人、プリティ・マジカル・カルテットじゃない魔法少女がいるということね」
茜の言葉に、愛華と咲夜は揚巻ちゃんを見た。
「え、あたし?」
「……ふざけんなよ、マミ!」
「本当に落ち着いて、私は衛よ。マモさんよ」
「マモさん、本当に揚巻ちゃんを仲間外れにしているの……?」
「誤解よ、愛華さん。私がそんなことするわけないじゃない」
「ギャバヘッドバブフラワー!」
「お客様、他の方のご迷惑となりますので、申し訳ありませんが変身はおやめ下さい」
「あ、すみません」
店主に諫められた揚巻ちゃんは人間に戻る。
「他に客なんていねぇじゃねぇか」
「あぁ? やんのかクソガキ?」
「やめてよ咲夜ちゃん。すみませんでした」
「いいのよ愛華ちゃん。私もそういう頃があったもの。思い出すなぁ、チェンソーで悪者を倒してさぁ」
「コイツ、警察に通報しなくていいのか?」
「やめときなさい。きっと時効か、さもなくば余罪が増えるだけよ。私たちの命でね」
「いやだわ、もう。証拠が無ければ犯罪じゃないのよ」
「これ以上追及するのは危険よ。話を戻しましょう」
茜の言葉に、愛華、咲夜、元半魚人の3名は衛へと向き直った。
「それでマモさん、どうしてカルテットなんですか? 5人組を英語でどう言うかわからなかったんですか?」
「5人組はレンジャーに決まってんじゃん!」
「違うわ」
「5人組はクインテットよ、咲夜さん」
「知ってんならどうしてホーンテッドにしなかったのさ!」
「ピキャバッチャガガジー!」
「お客様」
「すみません、つい」
「貴女ってほんとバカね」
「あんた、相変わらずムカつくわ~」
「やめなよ揚巻ちゃん、茜ちゃん。仲良くしないとダメだよ」
「愛華がそういうなら、仲良くしましょう」
「あんたさぁ、急に満面の笑みになるの気持ち悪いんだけど」
「それより、どうしてマモさんが揚巻さんを仲間外れにしたか、その理由を聞きましょう」
「……違うの」
「何が違うのかしら?」
「揚巻ちゃんは、カルテットに入っているわ」
喜びの雄叫びを半魚人が上げ、店主のメニュー手裏剣が頭のトサカを切り裂いた。
痛みに暴れる揚巻ちゃんだったが、彼女は治癒の力が強いのですぐに傷を治し、大人しく椅子に座った。
「ちょっと待てよ、オイ。コイツが仲間外れじゃないとしたら、あとは……一人だけ学年が違うマモか?」
「自分から仲間外れになるなんて、そんなの絶対おかしいよ」
「違うマモよ」
「だとしたら、咲夜かしら。転校生だし、年上のマモさんに敬語も使って無いマモね」
「昔なじみだから敬語なんて必要ないのさ。なぁ、マモ」
「……」
「マモ! アタシはカルテットだよな!?」
「言葉づかいには気を付けて欲しいけど、あなたもカルテットよ」
「やったマモー!」
「そうなると……まさかマモさん、貴女、愛華を……」
茜が左の手のひらに出現させたリリカル人面疽を衛に向ける。
「やめ、やめて茜さんっ! わかった、正直に言うわ。カルテットに入れてないのはね、茜さん。あなたなの」
「…………ふぇ?」
予想外の言葉に、茜の表情と人面疽がふにゃふにゃと脱力した。
「どうして茜ちゃんを仲間外れになんてしたんですかっ!?」
「愛華が私のために怒ってくれてる……ウフフ……」
「その……本当にごめんなさい。実は私、人面疽が苦手で……」
「そうなんですか。それじゃあ仕方ないですよね」
「愛華!?」
「バッキャオスバッバー」
「お客様」
「はい、すみません」
「ちょっと待った。半魚人は大丈夫なのかよ?」
「可愛いから良いのよ」
「いや~、やっぱり揚巻ちゃんは超絶美少女ってことですな~」
「あまり調子に乗らないでくれる?」
「怒んなよ、茜。アタシはその人面疽、別に嫌いじゃないからさ」
「私も怖くないよ。でも、怖いって言う人がいるのも仕方ないと思う」
「あたしはあんたに興味無いからどうでもいいんだけど、いつも助けてもらってるし、その、ベラッキャボギー!」
「お客」
「マジカルすみません」
「みんな……ありがとう」
「私はごめん、無理。生理的に無理よ」
茜の人面疽がマモさんの時間を魔法で操作する。
「マ、マモさん、顔が大人っぽくなってるよ!?」
「や、やめて茜さんっ!! 今度からちゃんと5人組にするからっ!」
「……約束よ」
「あっ、顔が元に戻ってる。やっぱり優しいね、茜ちゃん」
「ウェヒヒありがとうウェヒヒ」
「やっぱコイツやべーな……仲間外れでもいいんじゃねぇか?」
「咲夜、そんなこと言ってると次はあんたが歳を取らされるわよ」
「そいつはごめんだね。いっそマモを仲間外れにすればいいんじゃないか?」
「マモさんは悪くない! 悪いのは人面疽を受け入れられない闇のマモさんの方だっ!」
「闇のマモさんって誰だよ……」
「とにかくみんな、今度から私たちは『プリティ・マジカル・カルテットと人面疽クソ少女』の名前で活動するわよ」
「おー! ってちょっと待てよマモ!?」
マモさんの頭部がみるみる時間経過し、30歳くらいの見た目になる。
「ごめんなさいごめんなさい! クインテット、クインテットにするからっ!」
俺は本を置き、一息つく。
…………なんでこんな本読んでんだ、俺。




