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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第70話 悪魔は少女の機嫌を取ることが出来るのか

 いつもの部屋のいつものタタミの上。昼寝から目覚めた俺はコタツに入ったまま、起きるべきか、それとも二度寝をするべきかを考えながら、うとうとしていた。よーし、起きぬぞー……

 今日はマナが朝食を作る音で目覚め、彼女と一緒に朝ご飯を食べてからマナちゃんルームを出た。魔王城へと帰った俺はまず入浴し、その後この部屋に来た魔王にマナの様子を報告した。魔王は朝帰りの件もちょっと気になっていたようだが、俺が正直に全部を話すと「ああ、それならよかったよ」と安堵の表情を見せた。何やら俺とマナがあんなことこんなことするとマズいっぽいようだが、貴様に指図される謂れはない!

 魔王との話が終わった後は、昼食を食べて昼寝をして、そんで今に至る。まるで無職のヒモ男性みたいだが、実際それ以外の何者でも無い気もする。でも働いている人が偉いなんてのは近代以後の価値観だってなんかの本で読んだことあるから、この中世ファンタジー世界では働かなくても許されるはずだ! 今までだって許された気がするし! だから、今は寝る!


「悪魔殿……おったな」


 不穏な声が聞こえ、俺は思わず起き上がってしまう。なんだ今の声、まるで怒れる少女みたいな感じだったぞ!?

 正面を見ると、ヒメがマリアとメアリの2人組を連れてタタミに上がろうとしていた。


「学校終わったのか。おつかれ」


 ヒメは無言でコタツに入り、じーっと俺を見つめてくる。どうしよう、目が座っている。


「……どうした?」

「どうした、じゃないのじゃ」


 やはり怒っている様子のヒメ。俺、またなんかやっちゃいました? 心当たりなんて……

 ……あるわ、思いっきり。


「……マナなら心配ない。あいつなら大丈夫だろう」

「そうじゃろうな」

「ああ、その……別に、何も無かったぞ」

「悪魔殿……私も今年で14歳じゃ。男と女が一夜を共にするのがどういう意味か、ちょっとは分かっているのじゃ」


 ヒメは呆れ気味に言った。左右に座るマリアとメアリも眉をひそめており、三方向から来る軽蔑の眼差しが超痛い。


「信じてもらえないかもしれないが、本当に何もしていないんだ」

「別に、私は悪魔殿が他の女の人と仲良くしてても、ぜんぜん、ぜーんぜん、気にしないんだけど」


 くっ、普段と違う口調で拗ねられるとちょっとドキッとする! 子どもとはいえ、流石に美少女は強いぜ!


「お前が想像しているようなことはしてないんだが……証明する方法が無いんだよなぁ」

「……本当に、何もしてないんじゃな」


 訝しげな目付きでヒメが俺の顔を見据える。なんか、ここまでヒメに睨まれるのも初めてかもしれない。不機嫌な顔は少し怖い感じも受けるが、これはこれで趣があるな。かわいいのは正義、ということか。


「……どうやら、本当に何も無かったようじゃな」


 そう言ってヒメは安堵した様子で肩の力を抜き、目を閉じた。そしてほんの少し、微笑んだ。


「今ので分かったのか?」

「やましいことをしているのなら、もっと表情に出るはずなのじゃ。それなのに悪魔殿は、なにかどうでも良いことを考えていたみたいなのじゃ」


 どうでもいいのかよ、お前の可愛さは。


「とりあえず、安心したのじゃ。悪魔殿はまだ私のものなのじゃな」

「いや、お前のものじゃねぇよ。俺は誰のものでも無いっての」


 これ、マナにも言ったな。もしかして俺って、女性陣から道具扱いされてるの?


「王女様、やはりこの男には首輪か何かを付けるべきではありませんか?」

「犬かよ俺は」


 でも道具よりランクが上!


「ちょ、ちょっと面白そう、ですよね」

「面白くねぇよ」


 メアリさん、時々俺への扱いがひどくないすか?


「自覚が無いのは、まぁ、仕方ないと諦めるのじゃ。でもマナの所に泊まるのなら、私にちゃんと伝えて欲しかったのじゃ」

「なんでだ?」

「はぁっ!?」


 ヒメの拳がゴンッ、とコタツを叩く。


「私はっ! 悪魔殿のぉ! 許嫁ぇ!」

「ごめんなさいでした」


 声を荒げるヒメを見て、俺は額をコタツの天板に擦り付けながら謝罪した。

 うん! そういえば俺は許嫁だったね! これは俺が悪い!!


「許嫁に連絡もせず、他の女と一晩過ごすような男は捨てられても仕方ないのじゃぞ!」

「はい。全く以って仰る通りです。二度としません」


 許嫁というのは魔王と王妃が勝手に決めたことだが、ヒメがそれを本気にしている以上はこちらも付き合うべきだろう。少女の想いを粗末に扱う奴は馬に蹴られて地獄に落ちるからな!

 

「ってことはもしかして、俺がお前のものっていうのも」

「許嫁じゃから、悪魔殿は私のものじゃ。そして」

「お前は俺のもの」

「そ、そうじゃ!」


 顔を赤くしながらヒメが肯定した。ってか俺のものでいいのかよ、お前は。


「ちょっと聞いておきたいんだけど、お前ら2人は俺がヒメの許嫁で良いのか?」


 俺はマリアとメアリを交互に見て尋ねた。


「私は王女様が良いのならば、それで良いと思いますわ」

「良いのか」

「確かに性格は卑猥で顔もイマイチですが、魔王様と王妃様からの信頼や、戦いでの強さを考えると悪くないと……」


 そこまで言って、マリアは急に黙り込んだ。


「どうした?」

「考えてみれば、ここまで男性を褒めたことは今までに無かったような気がしますわ……」


 もっと男を褒めてやってください。


「なんじゃ!? マリアも私から悪魔殿を奪うつもりかっ!!」

「違いますわ!! 私は男とかいう人を見た目でしか判断しない生き物は御免こうむりますので!」


 お前は中身を含めると評価が下がるから、見た目だけで判断された方が良いと思うよ。


「なら良いのじゃ。それで、メアリも悪魔殿が私の許嫁で良いんじゃな?」

「は、はい。見た目と性格以外は素晴らしいと、思います」


 ほぼ全否定じゃねぇか!


「うむ。ならば良しなのじゃ」


 何も良くないんですけど……


「これでハッキリしたじゃろ? 悪魔殿と私が許嫁なのは、誰もが認めることなのじゃよ」

「まぁ、はい。そうっすね」

「なので悪魔殿にも、その自覚を持って欲しいのじゃ」

「……善処する」

「うむ。よろしくお願いしますなのじゃ」


 ヒメはそう言って、笑顔を見せた。お前は笑顔が一番だよ、やっぱりね。


「それにしても、女性の部屋に泊まりながら何もしなかったというのは、相手の方にむしろ失礼なのでは無いでしょうか?」


 なんか丸く収まりそうだったのに左にいるゴリラメイドが変なこと言い出したよ!!


「悪魔殿は意気地無しじゃからな」


 その通り過ぎて否定できない!


「ですがそのような気弱な性格では、積極的な女性の誘惑に負けてしまうことも考えられるのではありません?」

「言われてみればそうじゃな……悪魔殿が何もしなかったのは、マナの押しが弱かったのもあるかも知れぬのう……」


 「う~ん」と何やら考え出すヒメちゃん。奇妙な結論に達する気がしておじさんは怖いよ。


「よし、これしかあるまい」


 何が来るッ!?


「悪魔殿、子づくりをするのじゃ!」

「なんでだよ!?」

「既成事実を作ってしまえば、もう悪魔殿は完全に私のものなのじゃ!!」

「難しい言葉を知ってるなオイ!!」


 13歳って微妙なお年頃は知識が偏っていたりするから面倒だわ!


「だが、俺は断る」

「どうしてじゃ!? 私に魅力が無いからか!? おっぱい小さいからかっ!?」

「違うわっ! 子どもだからだ!」

「じゃあ、私がこのままの見た目で18歳とかになったら、悪魔殿は子づくりしてくれるのか!?」

「それは……」


 ヒメがこのままの見た目で18歳か……身長は低いし体型も貧相なんだが、可愛いって言えば可愛いし、無くは無いのか……? いや、でもやっぱり子どもとしてしか見れない気もするし、だがちょっと待て大事なのは雰囲気なんじゃないのか。18歳にもなれば性格は多少落ち着いてくるだろうし、今のようなのじゃのじゃ口調が無くなれば結構いけるような感じもしてくるな。


「悪魔殿?」


 でもやっぱり子どもっぽさは抜けないか? だけど成人済みでも子どもみたいな背格好の女性はいるわけだし、それを考えると言動が一番大事になるんじゃないのか。いやいや待て待て、そもそも異世界の女に手を出すのは危ないんだから拒否しないといけないわけで、だがでも18歳になったヒメに迫られると逃げられるかどうかあんまり自信が――


「考えすぎですわっ!」


 ゴリラがいきなり俺の後頭部をぶん殴った。俺じゃ無かったら頭蓋骨が陥没するほどの痛みだよ!


「何をするんだ」

「女性3人の前でいやらしいことを長々と考えているんじゃありませんわ!」

「いやらしいことは考えてな……ちょっとは考えたかもしれないが」

「えへへ~」


 そんで、ヒメはなんだかにやけた顔で呆けていた。


「なんで嬉しそうな顔してるんだよ」

「えへ~」

「ヒメ」

「えへ~」

「貧乳」

「だれが貧乳じゃ!!」


 俺の言葉で正気に戻る貧乳少女。もしかしてこの世界では「貧乳」というのは人を正気に戻す魔法の言葉なのかな?


「なにがそんなに嬉しかったんだ?」

「悪魔殿がちゃんと考えてくれたことが嬉しかったのじゃ。それはつまり、私を魅力的に思っているということなのじゃ」

「と、ということはその、悪魔様はやっぱり、ロリコン」

「ロリコンじゃねぇよ!! 仮にロリコンだとしても、大人の女性にも魅力を感じる紳士だよ!」


 メアリの妄言に俺は全力で反論する。もうやだ、このおっぱいメイド。


「とにかく、悪魔殿にとっては年齢だけが問題と言うわけじゃな」

「そういうわけじゃ無いが、まぁ、年齢は問題だな」

「それじゃあ仕方ないのじゃ。大人になるまで、頑張って我慢するのじゃよ」

「ああ。そうしてくれ」


 ヒメが大人になる頃。その頃には俺以外に好きな男が出来ているかもしれない。それは少し寂しくもあるが、別の世界から来ただけの取り柄の無い男と結ばれるよりはずっと良いはずだ。それまでの間に何事も無く過ごせるのであれば、許嫁という名分でヒメを守るのも悪いことでは無いだろう。


「早く大人になりたいのじゃ~」

「急がなくても良いんだぞ」

「やはり悪魔様はロリコンなのではありません?」

「違うって言ってるだろうが」


 我ながら、説得力が皆無であった。




 その夜。寝室で寝ていた俺は、気配を感じて目を覚ました。疑似人体は気配に敏感だから、こういう安眠妨害もたまにある。だが今回はネズミとかそういうのでは無さそうだ


「誰だ」

「ひゃぅ!? お、起きていたのか悪魔殿……」


 ベッドから起き上がって部屋の入口を見ると、寝間着姿のヒメが枕を持って立っていた。


「どうした?」

「よ、夜ばいに来たのじゃ!」

「……大人になるまで我慢するんじゃ無かったのか?」

「一緒に寝るくらいなら、良いかな、って……」


 もじもじとしながら、ヒメは俯いてしまう。昼間は明るく前向きな態度を見せていたが、どうもヒメの中にはまだ不安が残っているようである。まぁ、何もしてないとはいえ俺とマナは同じ部屋で寝たわけだし、自分もそれをやらないといけない気分にでもなっているのだろう。


「言っておくが、何もしないぞ」

「い、一緒に寝るだけなのじゃ。私も、何もしないから……」


 のじゃのじゃ言わない時のコイツって、やっぱちょっと色気があるな……


「勝手に布団に入ってくれ。俺は寝る」


 そう言って、俺はベッドに横になった。ヒメは「えへへ」と言いながらベッドに寝転がり、俺の布団を奪った。


「ちょっと待った、せめて半分は布団を使わせろ」

「思ったより布団が小さいのじゃ。もっとくっ付かないとダメじゃな」

「くそ、無理矢理距離を縮めようとしやがって」

「襲っても良いのじゃぞ?」

「何もしないって言ってるだろ」


 そんなこんなで、俺とヒメは背中合わせで布団の両端を引っ張り合う形となった。背中越しに、小さく確かな体温が伝わってくる。


「悪魔殿は、いつも遠い感じがするのじゃ。だから、私は近くにいたいのじゃ」

「遠い感じ、か」


 仮の体、複製された精神、帰るべき世界。この世界における俺の存在は、きっととても(かす)かなものなのだろう。それによる他者との距離感を、ヒメは遠いと表現したのかもしれない。


「悪魔殿は、その、もし自分の世界に帰ったとして、私より可愛い女の子と結婚できる……のか?」

「無理だろうな」

「そ、そうか。それなら……」


 言葉の続きは無く、代わりにヒメの呼吸が聞こえた。


「ううん、やっぱり、何でもない……のじゃ」

「当分は元の世界に帰らないと思うけどな。あと10年はいると思うぞ」

「そうか……だったら、それまでは私のこと、ちゃんと見ていて欲しい……な」

「……ああ」


 会話はそれきり終わり、俺たちはやがて眠りについた。

 ――まったく、俺には不釣り合いな、良い子だよ。

 そんなことを、思いながら。




 翌朝。ヒメの姿がベッドの上に無かったので起き上がると、床に転げ落ちたまま熟睡しているヒメの姿があった。

 うん。やっぱこの子もバカだわ。



 勇者カウンター、残り1786人。   

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