表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
13/153

第6.4話 勇者はシビれるのか?

 勇者一行にとって、全滅とは何か。

 死んでしまえば当然全滅だが、死んでいなくても戦闘不能であれば全滅となるのがゲームでの基本である。重要なのは生死では無く、勝利の可能性があるかどうかなのだ。

 だが、そうなると勇者一行の状態を常に監視し、戦闘が出来るかどうかを判断している何かの存在を考えざるを得ない。この世界では女神がそれに当たると思われるのだが、ということは勇者一行は四六時中女神に監視されていることになる。風呂やトイレの時とかも含めて。

 勇者たちは不死身の代償に羞恥心を失っているのだろうか……



 いつもの部屋に、魔王の部下が慌てた様子で入って来た。


「魔王様! 勇者たちがき」

「姫も悪魔さんもいつもの位置に移動して!」

「魔王様!? 最後まで言わせてくださいよっ!」

「勇者が来たんでしょ。はいはい今倒しに行くからねー」

「ええ……そうです、お願いします」


 報告に来た魔王の部下はそう言ってとぼとぼ去って行き、魔王と姫様はいつものタタミから立ち上がる。


「今日はこの前覚えた魔法を使うからね!」

「超高速化で瞬殺だな」

「違うよー。痺れる方だよー」

「そっち? 何で?」

「倒すのより大事なことがあるからね。それじゃあ、行ってくるよ!」


 魔王は手を振って戦いへ向かい、姫様がお辞儀をして見送った。そして姫様も俺にお辞儀をした後、自分の部屋へと避難する。俺はモニターの電源を入れ、大広間が映った画面を見つめながら考え始めた。

 倒すことより大事なこと。勇者を倒すことは、確かに重要ではない。死んでも生き返る相手を倒したところで、何の意味も無いわけで。死んで失われるものなど、お金くらいである。


「……持ち物、か」


 俺は魔王の狙いに見当がついた。勇者を倒しても意味はないが、もし勇者の所持品を奪うことが出来れば戦力の低下に繋がる。お金だけでなく、貴重な道具や強力な装備品を奪うことが出来れば相当な痛手になるだろう。たとえそれらが何処かで購入可能なものだとしても、魔物からお金を手に入れることが難しい現状では勇者たちは苦労すること間違い無しである。精神面への攻撃という意味では十分効果的なわけだ。

 性格悪いな!


「ははは、よくぞ再び我に挑む気となったな、勇者よ!」


 モニターに付いたスピーカー……じゃなくてなんだっけこの装置の名前……まぁ、音を受信する装置、その装置から魔王の声が聞こえる。


「だが何度戦おうとも同じことだ! 君たちがこの私に勝つことなどありはしないのだ!」


 玉座の前で勇者たちに向かって挑発的な台詞を吐く魔王。痛々しいキャラである。


「しかし見逃してやらないこともないのだ。君たちがこの城から、尻尾を撒いて街へと帰れ――クトウェーブ!!」


 魔王は急に両腕をクロスし、そこから電撃のような魔法を発射した。帰れクトウェーブ。長くて痛々しい台詞から先日覚えた魔法「エレクトウェーブ」へと繋げる卑怯で恥ずかしい戦法だった。こいつの父親は帝王学みたいなのを教え込まなかったのだろうか。

 エレクトウェーブの電撃は勇者たち4人に直撃し、4人は大広間の床に倒れる。実際に喰らったから分かるのだが、あの魔法を受けると本当に全身が重くなって身動きが取れない。勇者といえどもそれは同様だろう。


「よし! 済まないが勇者諸君、大人しくしていてくれたまえ!」


 魔王が倒れた勇者たちへと歩み寄る。これから所持品を奪うつもりなのだろう。

 だが――


「なっ……!?」


 魔王が絶句した。何が起こったのか、それを確かめようと俺がモニターを注視すると、勇者たち4人の身体が徐々に透き通って行くのが確認できた。


「なるほど……」


 全員が麻痺状態、つまり戦闘続行不可能になったため、全滅だと判断されたのだ。

 そう、いつも勇者たちを見守る、女神によって。


「なんで!? 死んでないのになんでなの!?」


 狼狽える魔王。威厳もなにも無いわけだが、なんというか、ざまあ。


「ちょ、ちょっと待って! せめて死ぬまで……」


 魔王がメチャクチャなことを言ってる間に勇者たちは完全に透明となり、恐らくはどこかの城か教会に転送されたようだ。残ったのは、呆然と立ち尽くす魔王のみ。


「あれー……?」


 まだ納得のいかない様子で、魔王は首をかしげていた。


「ねえ悪魔さん、見ているんでしょ? 何が起きたのかわか」

 

 俺はモニターの電源を切った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ