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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第64話 魔王激走! 魔界最速伝説が今ここに始まるのか!?

『さて、いよいよ始まります、大魔界大競争大会! 実況は私、金屑の王の城で伝令として働いております、通称ぞんざいが担当します!』


 出走前の車内、魔導車の座席に並んで座る俺と魔王。観客に向けて陽気に話すぞんざいさんの実況が、レースへの緊張感を高めていく。あとどうでも良いんだけど「大」って言葉を使い過ぎじゃね?


『そして解説は魔術研究の権威にして、今回の大競争大会の企画にも携わったこの方! 現在は地上にある金屑の王の城下町にて大学校の最高責任者も務めている、学校長です!』

『観客の皆様、本日はよろしくお願いいたします』

『早速ですが学校長、本日の魔導車大競争の見どころとしてはどのような点が挙げられますか?』

『まずは参加者の方々でしょう。これほどの方々が直接競い合う機会など、今までに例が無かったと思われます』

『確かに、錚々(そうそう)たる面々が参加されてますね! ちょっとよく分からない方も参加していますが、それはそれで面白いかもしれません!』


 ちょっとよく分からない方、というのはマリアのことだろう。アイツ、バイクっぽい見た目をした魔導車にメイド服姿で乗ってたし。さっき試走した時に見かけて大いにビビったわ。


『他にはどのような見どころがあるのでしょうか?』

『魔導車だけでなく走路にも注目して頂けると嬉しく思います。私や錬金工房の者で工夫を凝らした走路を用意致しましたので』

『どうやら一筋縄では行かない、楽しい競争になりそうですね! それでは、今回の競争について説明させていただきます! 今回の競争は金屑の王の領地で開発された魔導車という魔術装置に乗って行います! 参加者の皆様にはまずこの観客席の前方にあります楕円形の走路を2周していただき、その後は競技場外の走路を進み、最後にこちらの競技場へと戻っていただきます! 魔導車は空を飛ぶことも可能ですが、定められた走路を外れるような高さまで飛ぶことは禁止となっています! それについては走路の上空にいる空中班がしっかりと見張らさせていただきます!』


 大きな鳥に乗って上空を飛行している空中部隊は、観客席に映像を届ける魔術装置であるモニターの運用だけでなく、ルールを守って楽しく競争しているかの監視も行うわけだ。やることが多くてお疲れ様です。


『なお、他の参加者が乗る魔導車への攻撃は禁止となっております! あくまでも、これは競争ですから!』

「聞いてたか、魔王」

「わかってるよ~。そんなことしたら、後で怒られちゃうしね」


 よくよく考えると、マリア以外への攻撃は要人へのテロ行為になるんだよな。この競争がきっかけで領地間戦争になるリスクもあり得る。こんなレースやらない方が良かったんじゃ?


『それでは、参加している選手のご紹介をさせていただきます! まずは黄色の魔導車1号に乗る、金屑の王!』


 歓声とブーイングが観客席から同時に聞こえて来た。他の領地から観戦しに来た連中も多いだろうから、まぁ、しょうがない。


『なんと、あの悪魔と一緒に乗っての参加だそうです! これは期待できるでしょうか!?』

『悪魔の力による手助けが確認された場合には即失格となりますので、乗せている意味は無いと思われます』

『なるほど、つまり金屑の王はバカってことですね!!』


 大歓声が湧く観客席。


「なんでみんな喜んでるの?」


 右隣にいる魔王のバカが俺に尋ねてきたが、無視!


『では続いて黒塗りの魔導車2号、乗るのは荒土の王です! ちなみに学校長、魔導車によって走りの性能は異なるのでしょうか?』

『色は違いますが性能は全く同じです。その分、選手の能力が重要になると言えますな』

『そうなると荒土の王には期待が持てます! そして緑色の魔導車3号車に乗るのは、霊木の王です!』

『霊木の王は植物を扱う魔法に長けておりますから、今回の競争でもそれを活かして頂きたいと思います』

『次は今回の競争で唯一、魔王では無い参加者であるマリア選手です! 彼女は金屑の王に仕える従者で、相当に強い魔力を持っていると評判です! ところで彼女が乗っている魔導車は木馬に車輪を付けたような形をしていますが、あれはどのようなものなのでしょう?』

『通常の魔導車は4つの車輪を使っておりますが、マリア選手のものは2つの車輪を用いた1人乗りの魔導車となっております。車体が軽く、動かすのに必要な魔力も少ない点が特徴と言えますな』

『ということは、マリア選手にも勝利の可能性はあるということでしょうか?』

『魔王の方々に比べるとマリア選手の魔力は弱いものですが、勝負にならないということは無いと思われます』

『マリア選手の健闘に期待しましょう! そして最後に紹介するのは、今回の優勝最有力候補である、暴風の王です!』

『今回の競争では魔導車では無く、我々が飛行円盤と呼んでいる魔術装置を使用するようです。制御が難しい乗り物なのですが、暴風の王は見事に使いこなしております。暴風の王の隙を如何に突くかが、この競争における勝利の鍵と言えますな』

『果たして他の選手たちは暴風の王に勝てるのか、楽しみにしたいと思います! さて、間もなく開始の合図となりますが、何かありますか学校長!』

『この競争は選手同士の勝負でもありますが、走路を準備した我々と選手の皆様との勝負でもあります。是非とも、完走をして頂きたい所ですな』


 なんか嫌な予感がする一言デスネ?


『それでは開始の合図です! 大鐘が3回鳴ったら、選手の皆様は魔導車を動かしてください!』

「いよいよだね」

「ああ」


 観客席にはヒメや王妃、メアリなど城の連中も多くいるので、あまり格好悪い姿を見せるわけにはいかない。魔王1人だけの参加ならどうでも良かったのだが、同乗している以上は情けない負け方をすると俺まで無様に見えてしまうだろう。くそ、やっぱ乗るんじゃなかったか!?

 そして銅鑼のような音が1回、2回と響く。

 3回目。空気の震える音が周囲に広がる!


『開始です!』


 ぞんざいさんの開始宣言と共に、横一列に並んでいた3台の四輪魔導車と1台の二輪魔導車と1台の飛行円盤が走り出す。って、ふざけた光景だなオイ! それとちょっと気になったんだけど、車が5台並ぶって道幅広すぎない? 普段はデカイ魔物でレースでもしているのか、この競技場。


『さて、まず先行したのは予想通り暴風の王です!』

『序盤で魔力を使い過ぎれば後半が辛くなってしまうのですが、暴風の王はそれを恐れていないように見えますな』

『そんな暴風の王に続くのが荒土の王、そしてその後ろに霊木の王です!』

『多少速度を上げ過ぎているようにも思われますが、お二人の魔力でしたら後半までこの速度を維持できる可能性もありますな』

『金屑の王が他の魔王の方々より遅れているようですが、これは狙ってのことでしょうか?』

『そうでしょうな。金屑の王は狡猾ですから、後半戦に備えて力を温存しているのでしょう』

『その作戦は上手く行くのでしょうか! さて、残念ながら現在最下位はマリア選手! やはり魔力の差が大きすぎるのでしょうか!』

『魔王の方々から大きく引き離されていないだけでも十分に頑張っていると言えるでしょう』

『話は変わりますが学校長、マリア選手が着ているあの妙な服は何なのですか?』


 なんで競走中にメイド服の解説をさせようとするんですか?


『あれはメイド服と呼ばれるものです。なんでも悪魔の世界では従者の証として女性たちが着用しているそうです』

『自分が従者であることを競走中も忘れないという心の現れでしょうか。だとしたら金屑の王は彼女に負けるわけには行かないということですね!』


 そういうことを言われると負けちゃう予感がしてならないのが俺の隣の魔王である。


『さて、順位は変わらないまま2周目に突入です! 競技場の外へ出るまでは大きな変化は無いのでしょうか!』


 俺と魔王の前方には霊木の王の乗る魔導車が見える。速度を上げれば追い抜けそうにも見えるが、この後の走路に何が仕掛けられているか分からない以上、魔力を温存するのが最良の選択だと言える。速度を上げて車がグラグラ揺れるのも嫌だし。正直に言って、魔法で周囲の空気を操作して宙に浮きながら走っているこの状況はちょっと怖い。というか降ろして欲しい。


「楽しいね、悪魔さん」

「ああ!」


 全然楽しくない!! 事故ってもどうにかなるって自信がある魔王の皆様がホント羨ましいよ!


『さぁ、いよいよ競技場内の走路を走り終わり、場外へと勝負の場は移ります! ここからは上空からの光景を皆様の正面にあります、大型魔術装置に投影しながら実況を続けたいと思います!』


 観客席の前方には転送された映像を映し出す巨大なガラス製のスクリーンが4つ設置されている。そのためどの座席からも問題無く競争の様子が楽しめることだろう。俺もそっち側に座りたかったよ。

 俺と魔王の魔導車も競技場外へと出て、実況の声が遠くなっていく。俺は実況を聞くためのテレフォンと小型モニターを起動し、魔王のサポートを開始する。車に乗りながら画面見ると時々酔っちゃう体質なので、あんまり無茶な運転はしないで欲しい所だ。


『上空からの光景が送られてきました! 直線の道を進む選手たち、先頭はやはり暴風の王です! それどころか、2番手である荒土の王との距離をさらに広げているようにも見えます!』

『相当な魔力が使われているはずですが、流石は暴風の王と言った所ですな』

『後続の選手たちにも順位の変動は無く、しばらく大きな動きは無さそうに思われますが』

『いえ。すぐに第一の関門へと突入致しますので、何かしらの動きはあるでしょう』

『第一の関門ですか! おっと、走路の先に何やら森があります! しかも、上空からは森の中にある曲がりくねった道がハッキリと見えます! 学校長、これは一体!?』

『あれが第一の関門です。曲折した走路では魔導車の速度を維持することは難しく、かと言って速度を落とせば後続に追い抜かれることでしょう』


 手元のモニターを見ると、森の中にあるカーブだらけの道に入って行く暴風の王の円盤が確認できた。だけどこの道、道幅的に……


『しかし学校長、この森の中の道、どうみても魔導車1台分くらいの幅しか無いように見えますが、どうやって追い抜くのでしょうか?』

『相手より高い位置を飛んで追い越せば良いのです』

『な、なるほど!』


 本当になるほどだよ! 地面の上を走らなくて良いからこその発想だけど、接触する可能性も高そうだな。無理に追い抜かず、森を抜けるまで力を温存した方が安全か。


「魔王、この先は少し速度を落とした方が良い」

「ダメだよ悪魔さん。これ以上暴風の王と距離が離れれば後で追い抜くのは難しくなるだろうし、マリアも全力で追い上げてくると思う。速度を落とさないで道を曲がって行くしかないよ」

「だが、他の連中は速度を緩めるんじゃないか?」

「そんなに生易しい人たちじゃないよ」

『おっと、暴風の王はほとんど速度を緩めず、曲線を滑らかに進んでいます!』

「ほらね」

「……分かった。木にはぶつかるなよ」

「任せて」


 俺たちの車も森に突入し、最初のカーブに遭遇する。


「えい」


 魔王は魔導車に付いているハンドルらしき器具を回し、車の向きを大きく変える。


「うおおおおぉぉぉぉぉ!?」


 だいたい、135度くらい。


『ご覧になりましたか皆様! 金屑の王の魔導車が驚くような急転回で道を曲がりました!』

『4つの車輪から発生する風の魔法の強さを上手く制御すればあのような動きも可能です。魔術装置の扱いにおいては魔王随一と呼べる金屑の王の本領発揮と言えますな』

『これで先を行く選手との差を縮めることが出来るでしょうか! 期待したい所です!』


 実況は盛り上がっているが、車内の俺は気持ち悪くなってきたよ。


「次も行くよ、悪魔さん!」


 魔王はまたしてもドリフト走行みたいな動きでカーブを曲がる。この車、シートベルト無いから本当に危ないんだけどっ!!


「次! だんだん楽しくなってきたよ!」


 俺はだんだん吐きたくなってきたよ。


『さて、そろそろ暴風の王が森の道を抜けます! おや? 道の先に誰か立っているようですが?』

『彼女が第二の関門です』

『彼女とはいったい、誰なのですか!?』

『劫火の王です』


 なんで?



 勇者カウンター、残り2509人。

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