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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第54話 魔王と悪魔は情報を整理するのか

 いつもの部屋のいつものタタミの上、俺はコタツでぬくりながら本を読んでいる。

 そういえば、そろそろ年末である。この世界でも12月の次は1月であり、この辺は俺の世界のものをそのまま流用している感じである。異世界においては多くのものが俺の世界と共通しているのだが、そうなると言語についての異常な違いは意図的なものすら感じてしまう。

 言語が違うことによる効果。正直に言えばわからんの一言だが、言語によって思考に影響が及ぶ可能性があるのかもしれない。クリエイターが異世界を大量に創造しているのもそれぞれの世界に多少の差異を与えた上で、年月によってどのように変化するのかを観察するためなのだろうか。あいつらの目的が感情を失わないこと、情動を得られる観察物を作ることであるのなら、バリエーションを増やすことにも意義はあるはずだ。

 まぁ、考えた所でやはり分からないのだけどな。俺とこの世界の奴らに関して精神構造の違いなどほとんど感じてはいないし、そんなものを気にするより目の前の問題について考えた方が良いだろう。


「コッタツー、コッタツー」


 謎の言葉を発しながら、書類を抱えた魔王が部屋に入ってきた。はい、コイツが目の前の問題です。


「コタツはやっぱり縦置きより普通のがいいよね」


 靴を脱ぎ、タタミに上がった魔王は即座にコタツの中へ足を突っ込む。縦置きのコタツはこの世界にしか無いので、俺は何も言えない。ってかストーブとかヒーターとかが俺の持ってきた本に載ってるだろ!? これ以上縦置きコタツなんてものが世界に広まる前にそっちの名前に修正すべきじゃないのか?


「それで悪魔さん、今日は情報の整理をするよ」

「……何かマトモだな」

「そろそろ年末だし、今のうちに難しいことは考えちゃってのんびり新年を迎えたいんだよね」

「わかる」


 わかるぜ。


「それじゃあ、まずは勇者の軍勢の状況からね」

「確か酒や煙草で死ぬ呪いをかけて国に返したんだよな。あれからどうなった?」

「商人さんからの情報だと、突然倒れちゃった人が何人もいるみたいだね」


 倒れちゃったじゃねぇよお前が呪いかけたんだろ!


「呪いをかけたことはバレてないだろうな」

「半信半疑って感じなのかな。呪いの可能性も考えているみたいだけど、勇者たちを診たお医者さんは疲れている体にお酒や煙草が毒だったのかも、って言ってたらしいよ」

「そうか……にしても、かなり詳細に情報が入ってきてないか?」

「商人さんたちが勇者たちにたくさん物資を売っているからね。情報も自然と入って来るんだ」


 敵の味方は味方!


「どちらかと言えば商人さんたちはボクたちの方をいいお客さんとして扱ってくれてるみたいで、勇者たちの健康状態が悪くなるようにお酒や煙草を勧めて欲しいっていうボクのお願いも聞いてくれたんだ」


 いややっぱ敵とか味方とかそういうのとは無関係で儲けるためなら何でもしてるわ、商人! 


「本当は勇者たちとボクたちの戦いが長引けば長引くほど、商人さんたちは儲かるみたい。でも勇者たちを支援している貴族の財産から考えると、軍団として攻めるのは頑張ってもあと2回しか出来ないんだって。だからその間に取れるだけお金を取るつもりみたい」

「勇者たちを支援している貴族もやっぱり勇者なのか?」

「その可能性は高いだろうね。2人いるらしいから、あとでちゃんと倒しておかないとね」


 殺すのは最後にしてやるってやつだな。


「それと勇者の軍勢の規模なんだけど、ほとんど増えて無いみたいだね。次に攻めてくるときは2回目より少なくなるはずだよ」

「そいつは結構だな」

「女神信仰の国でも成果を出せない勇者の軍勢への支持は低下してるみたいだし、次に来る人たちはほぼ全員勇者だと考えて良いかもね」

「つまり、容赦なく殺せるわけか」

「物騒だね、悪魔さん。前にも言ったけど、勇者だからって理由で殺すわけにはいかないよ」

「悪いことをしたから殺す、って形にしたいんだろ。だけど他国に攻め入るってのは充分に悪いことじゃ無いのか?」

「女神信仰の国で暮らす人たちにとって、魔族は悪者だからね。それを倒そうとするのは良いことなんだ」

「そういう意識を変えることは出来ないのか?」

「何十年、ううん、何百年もかかると思うよ」

「やっぱそうなるか……」

「もしかして、悪魔さんの世界でも似たようなことがあったの?」

「どの世界でもそういうことはあるさ。それでだ、残り2回の襲撃でも一掃するわけにはいかないってことは、その後どうするつもりだ?」

「どうしようかなぁ」


 なんか考えて無いんすか。


「勇者の軍勢が解散しちゃうと、バラバラになった勇者が各地で魔族を襲うから困るんだよね……暴風の王だけに任せられる数じゃ無いし、どうにか魔王城に向かうよう誘導しないとだよね」

「商人たちを使ってどうにか出来ないのか?」

「出来るかもしれないけど、あの人たちに頼むとお金かかるからなぁ……でも仕方ないのかな」

「勇者たちが魔族を攻撃すれば、魔族の人間たちへの感情が悪化する。お前にとってそれは困るだろ」

「そうだね。出来れば人間と魔族が協力する世界になって欲しいし、そのための経費だと思うしかないかな」


 博愛主義っぽい発言だがコイツの心情は「そっちの方が面白そうだから」といった感じなんで怖いんだよな……平和な世界というより愉快な世界を求めてるから、変なスイッチが入ったら世界がヤバいかもしれん。その時は俺も交流候補異世界の安定に失敗した責任で仕事クビかな。そういう事態は全力で阻止しなければ、元の世界に戻った時にお金が無くて死んでしまうわ!


「穏便にお願いします」

「なんか悪魔さん、急に態度が大人しくなってない?」

「気のせいです」

「う、うん。とりあえずあと2回の攻撃の間に、勇者たちが目標を変更しないための作戦は考えておくよ」

「頼みます」

「……悪魔さん、さっきまで勇者の軍勢は容赦なく殺しちゃえって言ってたよね?」

「やっぱりやめた方が良いと思います、はい。お金がかかってもゆっくりのんびり慎重にやるのが一番です」


 人の命は多くのものと繋がっている。そしてその先に、俺の給料がある。つまり人の命を粗末に扱うと俺の生活がピンチだってことに今更気付いたんですよ!


「……まぁ、悪魔さんもこの世界を安定させるって仕事があるわけだし、混乱は少ない方が良いんだよね」

「ああ」

「そう考えると、お金がかかっても安全策を取り続けた方が良いんだろうね。悪魔さんの世界との交流が早まるかも知れないんだし」

「かもな。確約は出来ないが」

「可能性があるだけでも十分だよ。それじゃあ勇者の軍勢は今まで通り対処しつつ、解散しない方法を考えるということで」

「そうだな」

「じゃあ次は、聖獣たちについてなんだけど」

「最近はあまり倒せてないみたいだな」

「そうみたいだね」


 勇者カウンターの減り具合から推察するに、聖獣の群れの討伐頻度はかなり減っている。地上にいる聖獣の多くを既に倒してしまったということだろうか。


「むしろ静かな所で休んでいる時に人間の勇者が襲ってきて面倒臭い、って暴風の王は言ってるよ」

「勇者の軍勢に参加していない勇者か……」


 でもその状況って野原とかで魔王に遭遇してるということだよね。この世界、勇者に厳しすぎない?


「暴風の王も気配を察知するのは得意みたいだからどうにかなっているけど、今度来た時に勇者の接近を知らせる魔術装置を渡そうと思うんだ」

「そんなもの作れたのか?」

「ヘルメットを応用した魔術装置で、強い魔力の接近がわかるんだよ」


 ヘルメット。魔力の発生箇所を可視化する頭にかぶる魔術装置である。確かにそれを利用すれば、周囲の魔力反応を検知することは出来そうだ。


「暴風の王から出る魔力が強いから、それを検知しないようにするのが大変だったんだよ」

「具体的にはどうやって対策したんだ?」

「魔力を検知する方向を限定したんだよ。休む場所の周囲に配置すれば、外からやって来る相手の魔力だけを見つけることが出来るんだ」


 指向性のある感知器といった所か。地味に技術が向上していく魔王軍。


「これで暴風の王も安心して眠れると思うよ。念のため、強力な回復魔法が発生する魔術装置も持ってもらうことにしたよ」

「どんどん装備を強化しているな。もしかして、勇者が強くなっているのか?」


 勇者は倒されても、力の元凶である勇者の断片が別の勇者に移る。最近は勇者が死ぬペースが速いため、当然勇者が強くなるペースも速くなっているだろう。


「もちろん暴風の王の敵では無いんだけど、少し強くなっているみたいだね。万が一を考えると、備えは重くならない程度には必要だと思うよ」

「万全であることに越したことは無いからな。それで、暴風の王にはこのまま聖獣と野良勇者の退治を続けてもらうってことで良いんだな」

「うん。暴風の王も困っている人を助けてごはんをご馳走になるのが楽しいみたいだし、何か状況の変化が起きない限りは続けてもらうつもりだよ」

「そうか」

「暴風の王の領地からはもっとお金ちょうだいって催促されてるけどね……」


 魔王が少し遠い目をして言った。コイツ、お金の悩みばかりだな。世の中お金のやつかよ。


「この城、というかお前の領地の財政状況はどうなんだ?」

「コタツや縦置きコタツが好評なのと、あとライチャーや魔法瓶の売り上げも良いから大丈夫かな」


 ライチャーってなんだっけ…………ああ、ライターか。


「ライチャーは勇者の軍勢でも人気なんだよ」


 煙草に火を付ける時に便利だしな。って、勇者の軍勢大丈夫かよもう完全に魔王や商人のおもちゃになってねぇか!?


「利益はそこまでじゃないけど、王妃のマンガと手の乾燥を防ぐ軟膏もちゃんと売れてるね。そんなわけで、財政状況は大丈夫かな」

「そいつはなによりだ」

「出費が多いけど、利益も多いからね。出費が多いけど……」


 本当に大丈夫かよ。


「ということは現状、勇者にしろ領地の財政にしろ問題は無いという感じか」

「……」


 魔王は肯定を示さず、意味深な沈黙を返して来た。


「……なにかあるのか」

「ちょっとね……」


 勇者の軍勢でも、聖獣でも、財政でもない問題。さては娘であるヒメに嫌われたとか、領民からの支持が低下してるとかだな。城下町にも何人かいるだろ、魔王が嫌いな――


「……マナはどうなった。勇者の断片が憑りついた、あの子は」

「それなんだけど」


 不意に、部屋の入口で物音がした。そこには王妃が立っており、荷物が入った大きな麻袋を床に下ろした所であった。

 ……サンタクロースかな?


「悪魔さん、王妃と一緒に行って欲しい場所があるんだ」


 良い子の家かな?



 勇者カウンター、残り5559人。

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