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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第52話 魔王の呪いは自然死に見えるのか

 いつもの部屋のいつものタタミの上、コタツに入ってダラダラしている俺と魔王と王妃。俺ら、14年前から進歩してないな……


「悪魔さんってさぁ」

「ん?」

「どうして疲れることは手伝ってくれないの?」


 魔王が寝転がったまま愚痴らしきものを言った。昨日の勇者との戦いにおいて、魔王と部下たちは4000人近い勇者を拘束し、収容所へと運んだ。麻痺状態なので抵抗は無いが立って歩くことも出来ないので、魔王たちは横たわる勇者たちをせっせと荷馬車に乗せていて大変そうだった。

 俺はそういう物理的な手伝いをしてはいけない契約なので、全く手伝わなかったけどな!!


「俺は知識の提供以外は手伝えないんだ。そういう契約になってるだろ」

「だけど悪魔さんってコタツを出すのを手伝ってくれたよね? それって契約違反じゃないの?」

「あれは俺が俺のためにやったことだ。それをお前が手伝ったんだよ」

「そういう屁理屈が通るならいくらでも手伝えそうなのにね」

「他人に危害を加えるような行為は特に注意しないといけないんだよ。軽々しく手伝って、後で問題になっても困るだろ」

「悪魔さん、実はただ面倒なだけでしょ?」

「その通りだ」

「やっぱり……」

「俺にそういうことは期待するな。人手は不足していないんだし、俺1人が増えた所で役に立つわけでも無い」

「そうなんだけど……でもまぁ、本当に大変な時だけ助けてくれればいいのかな」


 そういう事態には陥って欲しくないが、そのためには魔王たちにしっかりやって貰わなければ。ということで魔王はコタツでのんびりしてないで仕事を……いや、昨日十分働いたんだからちゃんと休まないと後で響くか。どうせ勇者たちも今は収容所だし、休める時にちゃんと休んで貰わないとトラブルへの対応が上手く行かないかも知れない。

 よって今日は休むのがベスト。何もしてない俺が働け働け言うのも最低だしな!

 ……やっぱり、たまには役立ってる実感も欲しいわ。


「そういえば王妃はマンガの仕事上手く行っているのか?」


 何か良い返答を求めて、俺は王妃に尋ねる。彼女は読んでいた本を置いて、手帳にこう書いた。


『悪魔さんが持ってきてくれた本から沢山のことが学べているので、とても順調です』


 そうそう! こういう感じだよ、こういう感じ!


『本を読んで着想を得ることは非常に大事ですから、悪魔さんには感謝しています』


 ありがとう、こちらこそありがとう!


『ですから今の私は休んでいるのではなく、良い発想を得ようと頑張っているんです』


 それは嘘だ。


「まぁ、俺の世界の本が役立っているなら良いけどな」

「あっ、そうだった!」


 何か思い当たることがあったのか、魔王が急に起き上がる。


「悪魔さんに呪いの説明するの忘れてた!」

「呪い? 物騒だな」


 勇者たちを電撃で無力化して手枷と足枷で拘束して収容所に入れてる時点で相当物騒な気もするが、それはそれ、これはこれ!


「勇者たちをゆっくりと減らすために、呪いをかけようと思ってるんだ。今考えている呪いで大丈夫か、意見を聞きたかったんだよね」

「俺は呪いなんて詳しく無いぞ。そんな奴の意見で良いのか?」

「うん。大事なのはちゃんと自然死に見えるかどうかだからね」


 魔法が無い俺の世界では呪われて死んでも偶然で片付けられるだろうが、この世界では呪殺が十分にあり得る。呪いによる死であると思われないためにも、病気などを装う必要があるだろう。


「それでどんな呪いを使うんだ? 高熱が出る呪いとかか?」

「それだとバレちゃう可能性があるね。もっと分かりにくいのを3種類考えたよ」

「3種類もか。どういうのがあるんだ?」

「まずは、お酒を飲み過ぎると死んじゃう呪いだね」


 それ、急性アルコール中毒だろっ!?


「お酒って飲み過ぎると体に悪いって言うでしょ。悪魔さんの世界の本にもそう書いてあったし」

「ああ」


 もしかしてこの世界の医療技術も俺の持ってきた本で上がっちゃうのかな? 王妃なら色んなことを読み取るだろうし、そのうち死亡率が下がりすぎて人口爆発が起きそうだな……そうなると何が起こるんだろうか……?


「どうしたの悪魔さん、難しい顔して」

「ごはんは大事だよな」

「う、うん」


 魔王が困惑した反応を見せる。食糧生産が追い付けばある程度の人口増加には対応できるだろうが、社会が誇大化することでややこしい問題も増えてしまうだろう。民主化が進んで王政が倒れるとか。


「お前の時代も終わるんだろうな……」

「悪魔さん、何を考えているのか分からないけど、呪いの話を続けていいかな?」

「ああ、そうだったな。別のこと考えてた」

「人の話を聞かない人は嫌われちゃうよ……」

『そういう人、嫌いです』


 魔王と王妃が俺の人格を攻撃してきた! この世界の未来を憂いていただけなのに! でも今考えなくていいことなのも確かだね!


「すまん。それで、その呪いは酒を飲み過ぎると気分が悪くなって倒れる感じか?」

「もう少しゆっくりと進行する呪いかな」

「急性じゃ無いのか。具体的にはどんなだ?」

「えっとね、お酒をたくさん飲むと血がドロドロになっちゃうんだ」


 それただの生活習慣病じゃね?


「血がドロドロになると、心臓とか頭が止まっちゃったりするんだって。悪魔さんの世界の本で調べたんだけど、特に頭にある血の通り道、脳血管って言うのかな、そこをドロドロした血が通ると詰まっちゃって、それで死んじゃう人もいるんだって」

「ああ、いるな」

「昔からこの世界ではケガもしてないのに急に倒れて、回復魔法でも治せなかった人がいたんだけど、それももしかしたら頭の血管が詰まったのが原因だったのかもね」

「詰まるだけじゃなくて、血管が破れて出血する場合もあるな。どっちにしろ命にかかわることだ」

「怖いね~。ボクもお酒の飲み過ぎには気を付けないと」

「それでだ、その呪いを受けると飲酒で血液がドロドロになって、いずれは脳の血管が詰まるってわけか」

「そういうことだね。効果も個人差があるだろうし、呪いだとは気付かれにくいと思うよ」

「飲酒をしない勇者はどうする?」

「それは他の呪いでどうにかするよ。どの呪いも効かない勇者もいると思うけど、それについてはまた別の呪いを考えるつもりだよ」

「急いで倒すつもりが無いならそれもアリか……効き目がありすぎると呪いをかけたことがバレるから、そのくらいで良いのかもな」

「うん。のんびりやるよ」


 勇者をのんびり生活習慣病にする魔王って、相当邪悪だと思うけどな。


「それで、他の2つはどんな呪いなんだ?」

「うんとね、煙草を吸い過ぎると死んじゃう呪いだよ」

「この世界にも煙草があるのか」

「嗜好品として地上では結構人気があるみたいだよ。魔界にも似た植物があるんだけど、そっちは毒草なんだよね」

「つまり、煙草を吸うのは人間だけか」

「魔族でも吸っている人はいるかもしれないけどね。でも悪魔さんの世界の煙草と同じだとすると、かなり健康に悪いみたいだね」

「全身に悪影響が出るが、特に肺への影響が酷いな。それに吸っている奴だけじゃなくてその近くにいる者にも健康被害が出る」

「怖いね。ボクの領地では煙草を吸う場合は人から離れて吸うようにしてもらおうかな」


 煙草が広まる前に分煙が始まりそうな謎社会である。


「んでだ、煙草を吸うと死ぬってことは、煙草の悪影響を高める呪いか?」

「そうみたいなんだけど、特に血への影響を強くする呪いなんだ」

「ということは……」

「血がドロドロになって血管が詰まるんだよ」

「さっきの呪いと同じ効果じゃねーか!?」

「全然違うよ! お酒を飲むと血管が詰まる呪いと煙草を吸うと血管が詰まる呪いは全然違うよ!」

「原因が違うだけで結果は同じだろ!」

「原因が違うのは大事だよ。片方だけじゃなくて、お酒も煙草も両方やめないとダメになるからね」


 健康に気を遣えば効かなくなる呪いってなんだよ。


「でも2種類にした所で、酒も煙草も嗜まない勇者は死なないぞ」

「そんな勇者のために3つ目の呪いがあるんだよ」

「3つ目はどんなだ」

「お塩を摂りすぎると死んじゃう呪いなんだ」

「……血がドロドロになって?」

「うん。血がドロドロになって血管が詰まるんだよ」

「これ1つの呪いの発動条件を3つに分けただけじゃねーか!」

「そんなこと……あれ、もしかしてこの3つの呪いってそうなのかな?」


 呪いについては詳しくないから断言できないが、恐らく動脈硬化や血栓の増加を引き起こす呪いを無駄に原因別で分割したのだろう。そっちの方が効果が強くなるなどの理由があるかもしれないが、人を殺すならもっと普通に呪い殺して欲しい。


「なんかね、しょっぱいものを食べ過ぎると血管が傷付きやすくなるみたいなんだ。そうすると血管の壁がはがれて、それで血管が詰まるんだって」

「血栓ってやつだな。煙草の吸い過ぎでも出来やすくなるって聞いたことがあるぞ」

「やっぱりこの3つの呪いって全部同じなのかな……」

「その呪いが載ってた魔法書には何か書いてあったか?」

「『お酒を飲み過ぎる者だけを殺す呪い』とか『煙草を止めない者だけを殺す呪い』みたいに書いてあったよ」


 あ、これ生活習慣が悪い者同士を殺し合わせるための呪いだわ。呪いが三分割されているように書いてあるのも読者を騙して自滅させるための罠かも知れないな。怖いぜ。


「念のため、それらの呪いを使った後は自分にも呪いがかかっていないかを調べた方が良いな。かなり怪しげな呪いだからな」

「大丈夫だよ。だってボクはお酒も飲み過ぎないし煙草も吸わないし、しょっぱいものもそんなに食べてる気しないし」


 そうやって油断してると不健康になるんだからな!!


「念のためだよ念のため。魔王が脳卒中で死ぬとかアホらしいからな」

「脳……なに?」

「脳の……血管が詰まって死ぬ」

「確かにそんな死に方するとカッコ悪いね。悪魔さんの言う通り、呪いをかけた後はちゃんとお祓いしてもらうよ」

「それが良い。人を呪わば穴二つとも言うからな」

『悪魔さんの世界のことわざですね』


 かしこいかわいい王妃が手帳に文字を書いて会話に参加してきた。


「どんな意味なの?」

『相手を呪えば自分もその報いを受けるので墓穴は2つ必要になる、というような意味です』

「こわいねー。そうならないように、呪い対策にも力を入れた方が良いのかな」

「むしろ健康管理に力を入れろ」

「健康管理に力を入れるってことは、血を見てドロドロかどうか調べられるようにすれば良いのかな」

「出来るのか!?」


 血液検査を魔法でやるなんて発想、もはや狂気の域じゃね!?


「今は出来ないけど、そういう魔法が書いてある本が見つかるかもね」


 そんな魔法なんて無いと思う。


「それで悪魔さん、この3つの呪いを使えば勇者が自然死したように見えるかな?」

「色々と気になる点はあるが、死者が多すぎない限りは自然死だと思われるだろうな」

「体に悪いことをしてる勇者がそんなに多いとは思えないし、多分大丈夫だよ」

「ちょっとずつしか減らないと思うが、長期的に考えればそれで良いのか」

「うん。地上の人間たちに警戒されないためにも、気長にのんびり行くよ」


 そう言って魔王は再び寝転がる。きっとお前がそうやってゴロゴロしてる間にかわいそうな勇者たちが脳梗塞で死ぬんだろうな……いや、飲酒や喫煙が原因だから自業自得なのか? どこまでが呪いでどこからが不摂生なのか分からねぇ!


「呪いは明日から少しずつかけることにするよ。だから今日はおやすみだね」

「そういえばどうやって呪いをかけるんだ? 壁越しか?」

「天井越しかな」


 俺は収容所の天井を這いつくばりながら呪いをかける魔王を想像する。

 ……忍者だ。



 勇者カウンター、残り6248人。 

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