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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第2部 勇者が不条理すぎてつらい
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第47話 湯けむり連続失神事件! 悪魔の浸かる湯に隠された悲しき秘密とはなにか!?

 温泉。それは魔界のユートピア。湯を中心にくつろぎの時間を過ごせるオアシス。ユートピアなのかオアシスなのかどっちなんだと自分でツッコミつつ、俺は脱衣所で服を脱いだ。

 今回の温泉小旅行は俺、魔王、王妃、ヒメ、そしてマリアとメアリの計6人が参加している。男が2人と少ない上に、魔王は「ボクは王妃と一緒に貸し切り温泉使うから~」といやらしい笑顔で言いやがって、実質男湯を使うのは俺1人である。その分ゆっくり入れれば良いのだが、ちょっと問題があった。

 この男湯、何故か入った温泉客が倒れるという怪事件が頻発しているようだ。原因は不明で、呪いが仕掛けられている可能性もあった。魔王は探偵のように調査する気でいる一方、「調査は事件が起きてからでいいよね」とふざけたことを言っていた。探偵ごっこより王妃との混浴の方が大事かお前は! 同じ立場だったら俺も女性との混浴を選ぶけどさっ!

 魔王への不満を覚えつつ、俺はタオルを持って男湯に入った。まぁ、いくら事件が多いからと言って俺たちがいる時に都合よく事件が起きるとは限らない。別に殺人事件とかでも無いし、ゆっくり温泉を楽しもう。

 温泉の湯を見ると、全裸の男がぷかぷか浮いていた。


「し、死んでる!?」


 


「被害者はこの辺りに住んでる人で、それなりの常連だったみたいだね」


 手帳を持って、魔王が探偵のように事実確認をする。広間には温泉旅館の従業員と俺たち魔王一行がおり、客である俺たちは皆、浴衣代わりの簡素な布の服を着てサンダルを履いている。これがこの温泉のスタイルらしいので。


「命に別状は無いみたいだけど、のぼせちゃったみたいだから当分は安静にしてないとね」

「原因はなんだ?」

「長湯のしすぎかも知れないけど……ねぇ女将さん」

「はい」


 女将さんと呼ばれた女性が返事をした。翻訳機がちゃんと機能したということは、この世界には女将って言葉があるのか。メイドは無かったのに女将はあるとか、異世界の文化はどうでもいい所で妙だから時々引っかかる。今はそんなこと気にしてる場面じゃ無いんだけどさ。


「長湯で倒れるお客さんって、結構多いのかな?」

「時々いらっしゃいます。ただ、今日倒れたあの方は温泉に慣れているはずですので、長湯で倒れるとは考えにくいかと……」

「そうなると、何か長湯になる原因があったのかも知れないね。大丈夫、この事件はボクが解決するよ! 祖父様の名にかけて!」


 お前の祖父は魔王であって微塵も名探偵では無いからな。


「面白そうなのじゃ」


 ヒメが目をキラキラさせている。でも男湯には入れないからね、君は。


「事件現場が女湯でしたら私が探偵役になれましたのに……!」


 悔しがるマリア。お前が探偵をやると事件がこじれるのが目に見えているからダメ。


「お、お姉様あの、大丈夫です。次の機会があると、思いますから」


 メアリはそう言ってマリアを励ますが、探偵が必要となるような状況は今回限りにして欲しい。


「それじゃあ早速調査に行こう! 付いてきて、助手さん!」


 魔王が1人、男湯の方向へと歩き出す。


「……助手さん! 助手の悪魔さん!」


 振り返って、魔王が俺を呼んだ。ああ、俺が助手なのね。


「給料はいくらだ?」

「悪魔殿、ここは協力して事件を解決しないとダメじゃぞ」

「はい」


 13歳の少女にたしなめられ、俺は渋々魔王の後ろについて行く。迷探偵にならないよう、しっかりとブレーキをかけないとな……




「ここが事件現場の男湯だね」

「いちいち言わなくても分かる」


 入浴するわけではないので俺たちは服を着ているが、それでも湯に入っていないと少し肌寒い。この温度差も湯あたりやのぼせの原因だろうか。

 魔王はどこからか虫眼鏡を取り出して、湯を観察し始める。


「悪魔さん! 虫眼鏡が曇ってよく見えないよ!」


 バカですね。


「お湯を見ても仕方ないだろ。それより、呪いとかが無いか調べられないのか」

「えっと、ちょっとやってみるね」


 そう言って魔王は両手を地面に向け、何やら魔法を使い始める。


「うん、吸収できる魔力はあんまり無いね。ということは呪いがかけられてる、ってことは無いみたい」

「そういう使い方もあるのか……」


 魔王は恐らく、魔力を吸収する魔法を使ったのだろう。もし魔力が多く吸収できるとしたら、ここに魔力源、すなわち魔力を使用する呪いなどがあることになる。それが無いということは、魔法や魔術によるトリックが原因とは考えにくいということか。


「魔力を使わない呪いという可能性は?」

「無いと思うよ。ボクが見つけられないくらい呪いを巧妙に隠せるとしても、そこまでしてお客さんの気を失わせる理由があるとは思えないし」

「確かにそうだな。動機が無い」

「今までに男湯で倒れた人たちにも共通点はあんまり無くて、どうもこれはただの偶然な気がするね」

「ということは……」

「これは事件じゃない。だから、探偵は終わりだね!」


 あっさり探偵ごっこ終了を宣言する魔王。お前の祖父はやっぱり名探偵じゃ無かったな!


「もしかしたら男湯のどこかに有毒な気体とかが出てる場所があるかも知れないけど、それは悪魔さんが調べといて」

「お前がやれ」

「ボクが倒れちゃったら大変だし、悪魔さんなら大丈夫でしょ?」

「まぁ、大丈夫だが」

「それにボクは王妃と一緒に入りたいしね!」


 興味が無くなった途端適当になりやがって……


「それじゃあ、後はお願いね悪魔さん」


 そう言って魔王は男湯を出て行った。請け負ったことは最後までやれと親に教わらなかったのかね! でも王様だから他人に任せるのもアリって教わったのかも。どうでもいいか。

 とりあえず事件あらため事故のせいで入れなかった温泉を堪能するとするか。俺は脱衣所に戻って服を脱ぎ、再び男湯に入る。うん、湯に入ってないと寒いな。

 洗い場で身体を洗い、湯に浸かる。おふ~。広さとしては城の浴場とさほど変わらないが、露天風呂であることや岩盤が剥き出しであること、それに温泉の効能なども加わって全身がとてもリラックスし、疲れが抜けていく感じがする。気分の問題かもしれないが、疑似人体を使っている俺にとっては実質的な効能より気分の方が大事だ。

 湯の温度は別段高いとは感じない。よほど長時間浸かっていなければのぼせたりはしないだろう。ということは、やはりどっかからガスでも出ているのだろうか。もうちょい休んでから探すことにしよう。

 顔に触れる、秋の涼風。時間は夕暮れを過ぎ、夜の帳が下り始めている。俺の世界の温泉をモデルにしたそうだが、自然を感じられる湯というのはやはり良い。もうここに住んじゃおうか。でも3日くらいで飽きるから、たまに来るぐらいの方が良いのだろう。

 静寂に心を休める。しばらくすると、声が聞こえて来た。


「早く来るのじゃ、マリア、メアリ!」


 ヒメの声だ。うん、温泉では静かにしようね。


「急ぐと危ないですわよ、王女様! それとメアリは、そんなに恥ずかしがらないでくださいます!」

「で、でもお姉様、私、あまりその……」

「身体に自信が無いというのは私に対する嫌味になるのじゃ! 悪魔殿は大きい胸が好きじゃからな!」


 はい。


「そういえば、悪魔殿と父上はまだ男湯におるのかのう。悪魔殿、父上、おるか~!」

「……」


 ダレモイマセンヨ。


「王女様、大声を出すのははしたないですわ。他のお客様がいたらどうするのですか」


 マリアがまともに保護者してる!


「うむ、そうじゃな。悪魔殿もいないようだし、静かに入るとするのじゃ」

「ではまず、洗い場で身体をキレイにいたしましょう。お手伝いさせていただきますわ」

「すまないのじゃ。お返しに、私もマリアの身体を洗うのを手伝うのじゃ」

「それは光栄ですわ」


 男湯と女湯を仕切る木製の壁越しに、3人が洗い場の腰掛に座る音が聞こえた。壁はそれほど厚くは無いようである。


「…………」


 さて、そろそろ有毒ガスが出てないか調べるか。特に男湯と女湯の間からガスが出てると両方の湯にとって危険だから、そこから調べよう。3人に気をつかわせないように、音は立てないようにしないとな。

 俺はそっと立ち上がり、壁の付近を調べる。ガスは無い。壁にも異常は無い。


「王女様、やはり綺麗な肌をしていますわね。羨ましいですわ」

「だけど弾力はマリアの肌の方があるのではないか?」

「多少肉付きが良いだけですわ。それに比べて王妃様譲りのこの美しい肌は、天性の美と言えますわね」

「悪魔殿も美しいと思ってくれるかのう」

「あの方にこの美しさが理解できるかは分かりませんけど、分からないようならあんな男など見切りをつけてしまえば良いのですわ」

「そういう言い方は良くないのじゃ。鈍感な所も悪魔殿の長所だと私は思うぞ」


 鈍感なのかな、俺……

 物音を立てないように、壁とその下の方を調べる。壁に穴は無く、地面や足元の湯に異常は無い。


「ううむ……」

「どうかしたのですか、王女様?」

「ちょっと……触っても良いかの?」

「もちろんですわ。殿方ならともかく、王女様なら拒否する理由はありませんわ」

「では失礼するのじゃ……」


 ええい、穴もとい毒ガスはどこだ!? だが焦ったら俺の存在がばれて誤解されてしまうので、落ち着こう、落ち着くんだ……


「あの……王女様そろそろ」

「待て。これは確かに男たちが惹きつけられるのも分かる気がするのじゃ……」

「そんな気持ちを理解する必要、王女様にはありませんわ」


 くっ、もう無理矢理にでも穴を開けて……じゃなかった、今の俺は毒ガス探すマンだ。壁の端から端まで、丹念に毒ガスが出てないかを調べるマンだ。雑念は振り払う!!

 ん? 何かあっちの壁に変なでっぱりがあるな。これはまさか、やっぱりアレなのか!! ヨシ!!

 俺はそのでっぱりに近寄る。指でつまめるほどの、小さな取っ手のような物がそこにあった。そして同時に、足元から妙な熱を感じた。

 男湯の隅、岩によって入口からも死角になっている場所。足元のお湯は他の場所より明らかに温度が高く、どうもこの付近から熱い湯が湧き出ているようだ。そして壁にあった小さな取っ手を静かに引っ張ると、栓のようなものが抜け、壁に穴が出来た。

 

「マリアでこれなら……メアリはどうなのじゃ?」

「は、恥ずかしいのでやめてください……」

「むむ? 貴女、前よりも大きくなっていません?」


 穴を覗くと、洗い場で触りっこしてる女子3人が見えたっ!! 石鹸の泡とか湯気が邪魔で肝心な場所は見えないが、まぁいい許す!!

 それにしても、この場所は視覚的には素晴らしいのだが体温的にはちと危険である。足元の温度が高い反面、身体の大部分は秋風によって冷えて行く。その上、穴の向こうに集中するため頭に血が上ってしまう。疑似人体である俺ならともかく、普通の者は血流が乱れて倒れてしまうのではないか。

 つまり、これが真相ということか。この男湯には女湯を覗くための仕掛けがある。しかし偶然なのかそれとも長時間覗くことで女性側にバレる事態を防ぐ工夫なのか、その足元からは熱いお湯が出ていた。それに構う事無く、気分を害するほどの長時間に渡り女湯を覗いていた者が倒れ、連続失神事件の被害者となったのだ。

 被害者はほぼ全員、自分が倒れた原因に察しがついていたのだろう。だが覗きをしたという犯罪を隠すため、呪いやら湯にのぼせたやらの言い訳で誤魔化したわけだ。被害者だと思ってた連中が全員加害者だったとは、まさに盲点。当然俺も、自分が加害者であることは白状しない! ぶっ殺されるからね!

 身体を洗い終えた3人は、湯に浸か……らないで、穴の視界の外に行ってしまった。ん? どういう……

 気付いた時には、既に遅かった。板を蹴り破る音と共に、浴衣代わりの服を着たマリアが飛び蹴りをかましてきた。どうにか防御するものの、俺は体勢を崩して湯の中に倒れてしまう。その俺にマウントを取り、顔面を何度も殴打するマリア! さ、流石に死ぬかもっ!?


「このっ!! 破廉恥なっ!! クソ悪魔様!! 覚悟してください!! ませっ!!」


 顔を叩きながらなんか言ってるマリア。言っておくが、俺じゃなかったらもう死んでるからな。殺人犯だったからなお前。


「悪魔殿、流石に覗きはダメなのじゃ!」

「さ、最低です……」


 ヒメとメアリもなんか言ってるが、俺もその通りだと思う。だが、男にはやらねばならない時がある。さっきがその時だっただけだ!!


「……ところで悪魔殿、私の裸には興味があったのか?」


 湯に溺れながらマリアにボコられている状態で答えられるわけが無いよね?


「……無いのか」

「ありますっ!!」


 無理矢理マリアを押しのけ、俺は立ち上がった。男には言わねばならない時がある。今がその時だ!!


「だったら、良いのじゃ」

「良いわけありませんわっ!!」


 マリアの右ストレートが顔面に炸裂した。ああ、マリアの服がお湯で湿ってちょっと透けてる。エロいな。

 再び倒れた俺を追撃するマリアさん。俺がいくら殴っても壊れない男で良かったな……

 その後数分ほど俺はマリアに殴られ、その後広間へと連行されたのだった。




「というわけで、真相はそういうことだ」


 縄で縛られて正座させられながら、俺は解き明かした真相を従業員と魔王たちに話す。ところで俺は犯人なのか、それとも探偵なのか、もしくは変質者なのか。どれなのだろう。


「なるほどね。つまり犯人は悪魔さんだったってことだね」

「話聞いてた?」

「でもなんで、悪魔さんは女湯を覗こうなんて思ったの?」

「男の悲しきサガだ」

「よく分かんないけど、そういうのがあるんだね」

「ああ」

「昔の悪魔さんにはそういうの無かった気がするんだけど」

「前は近くに王妃くらいしか女性がいなかったし、下手に女性への興味を示して厄介なことになったら元の世界に帰りづらくなってたからな」

『私には魅力を感じませんか?』


 王妃がニコニコしながら、手帳に書いた文字を見せてきた。


「魅力を感じないというよりは、魔王のものだから手を出したくないだけだ」

『そういうことですか』

「私たちだって、自分の身体は自分のものですわっ! 殿方に見せるようなものではありませんわっ!」

「はい。全くその通りです。ごめんなさい」


 とりあえず土下座する俺。返す言葉が無い。


「でも待って。ということは、今の悪魔さんは元の世界に帰れなくなっても良いと思っているってこと?」

「思ってねぇよ。なんて言うか……すまん、この話は別の機会にしてくれ」

「しょうがないなぁ」

「それより、気になることがあるんだ。さっきの常連客が女湯を覗いて倒れたとすると、穴を塞いでいた栓は抜けたままになっていたはずだ」

「ああ、なるほど」


 女将がぽん、と手を叩く。


「つまり、栓を元に戻した者がいるということですね。あのお客様が倒れてから魔王様たちが入るまでに男湯に立ち入ったのは、ウチの従業員の……」

「ちぃっ!!」


 1人の男性従業員が脱兎の如く走り出した。その後頭部にマリアの飛び蹴りが命中する。それ、死ぬやつだからね。自重しようね。


「あの者は男湯の管理をしておりました。細工をする時間も十分にあったでしょう」

「あの人が真犯人ってことだね」

「今回は誠に、お騒がせ致しました。全ては、私の従業員教育が至らなかった故のことです」

「気にしなくていいよ。ボクのお城にもああいう人いっぱいいるし」


 それはお前の所も規律や教育が不十分ってことだよ。


「とにかく事件も解決したし、あとはのんびりしよう」

「うむ。まずはお風呂に入りなおすのじゃ!」

「そうだな。俺も入りなおしたいし」

「悪魔様は駄目ですわっ! あと夕食も抜きにすべきですわっ!」

「そ、そうです!」

「そうだね。悪魔さんはちょっと反省しないとだね」

「えー」

「私は許しても良いのじゃが、マリアとメアリのために罰は受けるべきじゃな」

「えー」

『面白いのでそうしましょう』

「おい」


 その後、俺は温泉にも入れず美味しそうな夕食もほとんど見ているだけという散々な仕打ちを受けた。

 でもヒメが「私のことを可愛いと言ったら一口あげても良いのじゃ」と言ってくれたので10回ほど餌付けしてもらいました。

 フルーツ牛乳は、なでなで100回で奢ってもらいました。

 色んなものを失った気がするけど、結果オーライだな!

 ……オーライなのだろうか。

 


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