第38話 霊木の王は植物に愛されているのか
いつもの部屋のいつものタタミの上から遠く離れた農業試験場。そこの主でもある霊木の王は、時折立ち止まっては作物の葉や実を丹念に確かめ、手帳に観察結果らしきものを書いていた。また、実については採取して小さな麻袋にいれることもあった。
だが俺は正直興味が無いので、手持ち無沙汰になって草むらを見たりしてた。そしたら、なんか格好良いバッタがいた! 頭部がタカっぽくて、前足がトラみたいな模様してるぞっ!?
「おい、行くぞ」
霊木の王に急かされ、俺は少し惜しみつつその後に付いて行く。さっきのバッタに名前を付けるならタカトラバッタかな……
「そういえば、害虫とか大丈夫なのか?」
バッタがいるということは、そういう農作物の被害もありそうだが。
「魔界の植物は害虫への耐性が高いんだ。この辺りで育てているのは魔界の植物ばかりだから、害虫についてはそこまで心配する必要は無いな」
「魔界と地上の植物は、やっぱり違うのか」
「当然違うさ。魔界は地上と比べて、日差しが弱い代わりに土壌に含まれる魔力が豊富なんだ。だから魔力によって丈夫にはなるけど、食用には適さないものも多い。地上はその逆で、日差しが強いから甘い実をつけることも多いけど、土に含まれる魔力が少ないせいか脆い植物も多いんだ」
「そうなると、作物は地上の方が美味いのか」
「悔しいが、そういうことになるな。でも、魔界の植物も地上で育てればそれなりの実をつけることがあるんだ」
「そういうことをここで研究しているわけか」
「転送門が近いからか、この辺りの土は地上にしては魔力が多いんだ。日光も魔界に比べれば十分強いし、魔界では役に立たなかった植物の隠れた可能性を発見できるかもしれない」
「……可能性、か」
「何か気になるのか?」
「いいや」
口元に笑みを浮かべてしまった俺の顔を、霊木の王が怪訝な顔で見た。いやだってさ、可能性、って。それはあの魔王と同じものを求めているということで、性格は違えど霊木の王と魔王の考えには似ている部分があるというわけだ。
劫火の王は戦いを、水禍の王は恋を地上に求めた。霊木の王が地上に求めるのは、可能性。ただし魔王のように外の世界にある可能性を求めるのではなく、内に眠る可能性を求めているように感じた。自らを凡庸と自嘲する彼は、それでも自分の中にある可能性を信じたいのではないのか。使い道の無い植物への期待はそんな心の現れではないのか。
「……変な奴だな」
霊木の王は釈然としない様子だったが、再び前を向いて歩き出した。どれほど文句を口にしても、彼は投げ出さない。自分も、民も、植物も、見捨てたりはしないのだ。それこそが彼の王道であるように、俺には思えた。
「また大きくなっているな……」
霊木の王が立ち止まり、呟いた。
「何か面白いものでもあるのか?」
俺はその視線の先を追う。緑色の大きな植木鉢のような物から、何やら奇妙な巨大植物が生えているのが見えた。赤くて球体の……何かよく分からないものが茎の先にあり、それを固定するようにいくつもの縄が張られている。
「あれは何だ?」
「火吹き花だ。花から火炎魔法を放ち、獲物を仕留めて喰らう性質があるんだ」
「花……ってことは、あの丸いのが花か?」
「そうさ。蕾のようなものだけど、頭にも見えるだろ?」
「確かにな……もしかして、獲物を喰う口も花の所にあるのか?」
「ああ。花の部分が動物で言うところの頭なんだろう。植物と動物、両方の特徴を持っていると考えられている魔物だ」
「珍しいな……」
「そうか? 植物と動物が融合したような魔物は、僕の領地では珍しくないぞ」
「そういうもんか……ところで、何で花を固定してるんだ?」
「地面じゃない所に火を吹かれたら大変だろ」
「……なるほど」
森に生えてたら自分ごと燃え死ぬんじゃなかろうか、あの植物。
「火を使うだけあって火吹き花の皮は耐火性があるんだ。それに、魔法で操れば敵の迎撃にも使える」
「便利だな」
「厄介だけど、利用価値は高いんだ。魔界ではあそこまで大きくはならないけどな」
「地上の環境と相性が良いのか?」
「そうだろうな。日光や水が相当の栄養になっているのかもしれない」
光合成、光合成じゃないか! ファンタジー世界でも偉大なんだな、光合成。
「あら、王様」
背後の畑から、女性の声がした。振り返ると、魔族にしては少し肌が色黒な、髪の長い女性がいた。
「あの子は一緒じゃないのですか? さっき仕事が終わったので飛び出していったのですが」
「会っていないな。行き違いになった――」
何かに気が付いたのか、霊木の王が言葉を詰まらせる。
「……心配だな」
「もしあの子がご迷惑をお掛けしたら申し訳ありません、王様」
「いや、迷惑がかかるくらいなら良いんだ。問題は今、館にいる奴らで……」
館にいる奴ら……魔王とメアリか。どうも霊木の王に会うために子どもが出て行ったようだが、その子どもが魔王とメアリに会ったら……教育に悪いな。
「……まぁ、ここからじゃどうすることも出来ないな。それで、何か変わったことは無いか?」
「はい、少し気になることが」
女性はそう言いながら畑から出て来た。長い髪は、黒色の中に緑色が混じっているようだ。魔族にも色々な種族がいるのだなと思いつつ、上から下までジロジロと見る。
手足がなんか、変。人間っぽくないというか……
「うぉぅっ!!?」
思わず声を出して飛び下がる俺。足がこれ、どう見ても木の根じゃねぇか!?
「えっと、ああと……」
落ち着け落ち着け。こういう見た目の女性、異世界ではよくいるんだから。
「そちらの女性は、魔族……で良いのかな?」
「純粋な魔族じゃ無いが、魔物というよりは魔族だな。もしかして、女人草を見るのは初めてなのか?」
「あ、ああ」
初めてというか、そんな草知らねぇよ!!
「ごめんなさい、驚かしてしまいましたね」
「いや、むしろこっちが謝る。人の姿を見て驚くなんて、失礼だからな」
それを聞いて、女人草の女性は「あらあらまぁまぁ」と穏やかな微笑みを浮かべた。
「それで、女人草って何なんだ」
「知らないのか?」
「この世界特有のものについては、そんなに知らないんだよ」
「女人草というのは大昔にある魔族の男が生み出した、植物と女性の合成体だ」
「合成体……つまり植物の特性を持った女性、ということか」
「どうなのでしょうね。女性の特徴を持った植物かも知れません。私はどちらでも良いことだと思っていますけどね」
「確かに。大事なのはどう接するかだからな」
「その点では、王様にはとても感謝していますわ」
「その話はいい」
少し恥ずかしがっている様子で、霊木の王が話を遮った。
「ところで……女人草ということは、男性はいないのか?」
「はい。私たち女人草には女性しかいません。男性の魔族と子どもを作る者もいれば、女人草同士で子どもを作る者もいます」
「女性同士で?」
「はい。女人草の数が少なく森の中に住んでいた時代は、皆そうやって繁殖してきました。ですが数が増えて人里にも出るようになってからは、男性と結婚する者が増えて行ったのです」
「なるほど……歴史があるわけだ」
以前、マリアが「魔術を駆使することで女性同士でも子どもを作ることが可能だそうですよ!!」と王妃に熱弁している所を見たことがあるが、女人草の一族も魔法か何かの作用でどうにかしているのだろう。深く考えると思考がいやらしい方向に突っ走りそうなのでこの辺で抑えておくけどさ!
「そんなことより、気になることがあると言ってたよな」
霊木の王が脱線した話を元に戻す。
「はい。実は、森の方から人間の気配がするのです」
「気配か……」
不意に霊木の王が目を閉じ、何やら集中し始める。まるで、気配を探っているかのようだ。
「……いるな」
「どういたしましょうか?」
「念のため、周囲にいる者に声を掛けて井戸水を集めておいて欲しい」
「分かりました。王様の護衛は必要でしょうか?」
「僕を誰だと思っている。お前たちは、巻き込まれないように注意しろ」
「そうですね。お気遣い、ありがとうございます」
急に強気な態度を見せる霊木の王と、それを見て嬉しそうな表情を見せる女人草。そして彼女は、他の者へ声を掛けるために走り出した。
「お前はどうする、悪魔」
「何が起きているか分からないが、まさか勇者か?」
「恐らくな。森の方に潜んでいる」
「それを倒しに行くわけか」
「あっちが逃げなければな」
「……逃げないだろうな」
勇者は魔族に敵意を持つ。敵前逃亡など、考えられない。
「分かった。俺も付いて行く」
「手出しはするな。僕の仕事だからな」
そう言って、霊木の王は火吹き花が栽培されている区画を直進する。
「森は火吹き花の先か?」
「ああ。危険な場所だからこそ、火吹き花を育てているんだ」
「敵を倒すための大事な戦力ってわけか」
火吹き花を過ぎ、区画の端に辿り着く。鬱蒼とした森が、草地を挟んだ先に見える。
「数は10人かそこら、ってところだな」
「分かるのか?」
「森の木々を通せば、ある程度は感じることが出来るものさ」
事も無げに言う霊木の王だが、もしかしてこの人、魔力の才能はそれなりに秀でているのではないか。その辺りも見極めたい所である。
「それで、相手は狩人か何かか?」
「いや、森の民だろうな」
「森の民?」
「ここよりもっと北に住む、耳の長い連中だ。勇者の噂が流れるようになってから、この付近に現れることが増えてきたんだ」
「耳の長い……」
もしや、エルフってやつか! 城の中と違って、この辺りはファンタジー要素が豊富だな! オイラ、ワクワクしてきたぞ!!
「まだ仕掛けて来る様子は無いみたいだ。当分はにらみ合いになるな」
「こっちから攻めるか?」
「いや。まだ避難していない者がいるかもしれないし、相手の数を把握してから戦いたい」
「そういうことなら、待った方が良いか」
俺は異次元収納装置を起動し、サングラス型の計測装置を取り出す。以前使用した時にレンズを透明にしたので、メガネ型計測装置と言った方が正しいかもしれない。どっちでもいいわ。
「何故眼鏡を取り出した?」
「これを使った方が良く見えるんだ」
「魔術か何かの効果があるということだな」
はい、大体合ってます。
俺は計測装置をかけ、霊木の王と並んで森を見つめる。森を見るメガネ男子の会がここに結成された。
「どんどん集まってるな……」
魔力の計測によって、森に潜んでいる人数が大体把握できた。20、いや30人はいるのか。
「その眼鏡で分かるのか。便利なものだな」
「これくらいのものなら、この世界でも――」
あ、これもしかして言っちゃダメなやつか? 魔力を見ることが出来る魔術装置のことを魔王は隠したがってた気がしたし。
「お前から与えられた知識があれば、金屑の王でも作れるということか」
「かもな」
ごまかす。
「敵を探知する魔術装置があれば、ここももう少し安全になるな。金屑の王に要求してみるか」
「金を積まないと作ってくれないと思うが」
「民の安全のためなら、多少の出費は仕方ないさ」
いい人!!
「40……いや、50近いな」
霊木の王が言う通り、森に潜む人数は相当な数になっていた。あれが全員勇者だとしたら、かなり危ないんじゃ? さっきこっそり勇者カウンター確認したときは9400人くらいだったから、全体の……えっと……190分の1くらいがあそこに集まっているわけだ。計算すると少ない気がするのが不思議!
「来るか……」
森の中から何かが発射された。弧を描いてこちらに向かって来るのは、複数の矢。しかしそれらは突然失速し、地面に落ちた。
眼鏡越しによく見てみると、矢の棒部分が折れ、そこから緑色の芽が生えていた。森からさらにいくつもの矢が発射されるが、それらも全て芽を出して地面に落ちた。霊木の王が防御しているのは間違いなかった。
「一体、何をしたんだ?」
「矢に使われている木材に、少し魔力を与えただけだ。魔力が加わった部分は急速に成長しようとして、他の部分から養分を奪う。それで亀裂が入り、矢が折れるんだ」
「凄い魔法だな……」
「こんなものは初歩の矢避けだ。悪魔のくせに知らなかったのか」
はい、知りませんでした。でもあの速度の矢を何本も落とすのって、尋常じゃ無いと思うんだけど。
いくら矢を撃っても無駄だと判断したのか、森が僅かに静まる。そうなると次に考えられるのは……
「諦めると思うか、悪魔」
「思わない」
「だったら、念のため使うしかないな」
そう言って霊木の王は振り返り、火吹き花を見た。俺もそちらを向くと、火吹き花を拘束していた縄が解け、植木鉢が割れるのが見えた。完全に自由になった火吹き花は、根っこを動かしながらゆっくりとこちらに近づいて来る。
「アレ、大丈夫なのか?」
「僕なら操ることが出来る。何の問題も無い」
火吹き花は俺たちと並んで、森の方を睨む。いや、目がどこにあるのか分からないから睨んでいるかどうか知らんけどさ!
そして、雄叫びと共に森から何十人もの人影が現れる。草地を走る耳の長い、緑や茶色の服を着た集団。エルフだ!! ゲームとか漫画とか小説に出て来るエルフそのまんまだわ! それが数十人もいると、壮観だな! 格好良いぜ!
しかし、その格好良いエルフたちが次々に転倒する。何かに転んだのかと思って足元を見ると、草地に生えていた草がエルフたちの足に絡みついていた。草を結んで敵を転倒させる罠というのは聞いたことがあるが、霊木の王は草を操ってそれと同じことをやっているのだろう。
続いて、火吹き花が攻撃態勢に入った。丸い花が裂け、4枚の花弁が展開する。その中心には、牙らしきものが生えた丸い口がある。思った以上にグロいわ!
火吹き花の口の前で火球が生成され、転倒したエルフに向かって発射される。火球が命中したエルフは火に包まれながら転がり、辺りの草に火を移らせる。さらに火球が何発も発射され、炎がエルフと草地に広がっていく。そんな状況に後方のエルフたちは立ち止まるが、足元の草に拘束されて憐れにも火球の餌食となった。何て言うか、植物系の王様のくせに炎属性が強いなオイ!?
一部のエルフが、体勢を立て直すためか森に戻る。だが森に入った瞬間、悲鳴が響き渡った。メガネ型計測器で確認すると、魔力が霧散し始めているのが分かった。つまり生命活動を停止、死んだのだ。
「森の方でも何かやったのか?」
「矢と同じことをしただけだ。枝を成長させ、奴らの身体を貫かせたんだ」
「えげつないな……」
「あいつらが何もわかっていないだけさ。植物は生きている。魔力と養分、水があれば沈黙することは無い。僕を倒すつもりなら、まずは全ての草木を焼くべきだったんだ」
焼いてるのはアンタの方ですけどっ!?
「だけど、森の民にそれは出来なかった。森を焼くなど、とてつもない冒涜だからな。勇者共がどんな使命を背負わされているのかは知らないけど、全てを捨てる気が無いのなら僕と戦うべきじゃ無かったんだ」
その言葉は、どこか魔王に似ている雰囲気を帯びていた。相手の愚かさに対する、憐憫。もしかしたら彼は森の民との共存も考えていたのだろうか。だけどきっと、それはもう叶わない。植え付けられた正義がその未来を閉ざした。
もう、動く人影はいない。火吹き花は花弁を閉じ、霊木の王は振り返って、遠くからこちらを見ていた人々に手で合図を送る。霊木の王と彼らは協力して、桶やら樽に入れた水を魔法で操り、草地の火を消火した。
感謝の言葉に包まれる霊木の王だが、その顔に笑みは無かった。配下の人々が運ぶ死体を見てほんの少し、嫌悪の色を浮かべるばかりだった。
後始末を農業試験場で働く人々に任せ、俺と霊木の王は館に戻ることにした。魔王とメアリは大人しくしているだろうか……俺、アイツらの保護者じゃないんだけどな……
「あっ、王様!」
少女の声が聞こえたと思ったら、館の近くから褐色黒髪の、女人草らしき子どもが走って来た。ははーん、あの子が例の子どもってわけか。人気者だな、王様。
足が植物の根であるはずなのに、少女は意外と俊足であった。そして霊木の王の前でジャンプし、その胸に飛び込もうとする。
霊木の王はそれを避け……ずに抱きかかえたっ!!?? ちょっと待て、そこ避けるとこだろ!? もし俺がヒメに同じことやられたら絶対に避けるし!! おかしいですよ、霊木さん!!
「危ないぞ」
「えへへ」
ものすごく嬉しそうに笑う女人草の少女。なにこの……え、何これ?
「あ、お帰り悪魔さ~ん」
「あ、あの、お帰りなさいませ」
館の中からバカとメイドが現れた。
「いや~、その子から色々聞いたよ、霊木の王」
「……何か言ったのか」
霊木の王が少し不機嫌そうに、少女に尋ねた。
「うん! アタシが王様のこと大好きってことと、王様もアタシのことが大好きってこと!」
「……」
霊木の王は少女を地面に下ろし、溜息を吐く。でも彼の左手は、蔓の先端のような少女の手を優しく握っていた。この男、もしや強者か!?
「随分と優しいみたいだね、霊木の王」
「別に優しいわけじゃない」
「王様は色んなことを教えてくれるし、いつも一緒に遊んでくれるの!」
「本当に優しいんだね~」
ニヤニヤと笑う魔王と、嫌そうな顔をする霊木の王。面白れぇ。
「それで、君は霊木の王のお嫁さんになるの?」
「え、ええと……なりたいけど、でも王様は偉い人だから、無理かもしれなくて……」
「大丈夫、ボクが手伝ってあげるから」
「本当!? 金屑の王様も優しいんだね!」
「うん。よく言われるよ~」
言われてねぇだろ!
「金屑の王……この子が言ったことは」
「分かってるよ。全部本当のことだよね?」
「……」
霊木の王の右手が握られ、震えだす。正義の怒りをぶつけろ、霊木の王!
「王様、お腹すいてない? アタシも手伝って、おやつを作ったんだよ」
「……分かった、一緒に食べよう」
「やった!」
「わ~い。おやつだよ、悪魔さん!」
まるで精神年齢が一緒であるかのように、喜び合う少女と魔王。一方、眉間にシワが寄っていく霊木の王。この人も大変だな……
「おやつ、おやつ~」
楽しそうに館へと戻る魔王。というか、バカ。
「おやぐぇっ!?」
そのバカが急に転んだ。その右足付近で、植物が解けて行くのが見えた。
「いたた……よいしょっと」
立ち上がり、再び駆け出す。
「おやつ、おぐぼぁ!?」
また転んだ。左足付近で、やっぱり植物が動いていた。
「王様、ダメだよ。仲良くしなきゃ」
「……分かったよ」
少女の言葉に、霊木の王は正義の怒りを止めてゆっくりと歩き出した。繋いだ手の先で、少女は眩しい笑顔を浮かべている。
俺はそんな2人を見ながら、メアリの横に移動した。
「……どう思う?」
小声で、メアリに尋ねる。
「は、はい。結婚できると良いですね」
「……」
良いのか?
「あっ、もちろん悪魔様と王女様も結婚できたら良いですよね」
「……」
良いのかぁ?
「こう、あの、何て言うか、王妃様もそうなんですけど、強い男の人を年下の女性が支えているのって、その、凄く良いと思います」
「そういうもんか……」
「そうです、とても、その、素敵だと思います」
なんか熱のこもった様子でメアリが語る。
「本当に、結婚できると良いですよね……」
霊木の王と女人草の少女を見ながら、メアリが呟く。どうしよう、変なスイッチ入れちゃったかな。
俺はメアリを放置し、館へと歩き出す。もう、俺の手には負えない。魔王城に帰った後、霊木の王とあの少女のやり取りがヒメに伝わって面倒なことになる気もするが、それでも手に負えない。
……どうしよう。
勇者カウンター、残り9358人。




