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21ページ目 ポテトとチクワ


「へーい、到着どぅえーす」


 学校からやや離れた場所にあるスーパーマーケットの近くの路地裏に、コッソリと降り立ったクーリと俺。


「どうでした、あたしとの空中散歩は? これでもミュカレス様からは『機動力は天使ナンバーワン』って言われてるんですよねぇ、へへへ」


「『へへへ』じゃねぇよボケ!! でたらめな旋回やら急降下やら、好き放題しくさりまくりやがって!! 何べん死にかけさせりゃ気が済むんだ!!」


 浮遊時間は地獄だった。


 大回りにグリングリンと回転したり地面スレスレを音速で滑空してみせたり、宙返りを何十回も連続で披露しやがったり。


 ラリったツバメでももっとマシな移動できるぞ。

 

「二度とあんなムチャクチャな飛び方はやめてくれ、頼むから!」


「お客様を退屈させない特別サービスのつもりだったんですが…………『刺激が弱すぎて物足りなかった』とは残念ですね」


「その異常な聴覚をよく今まで放ったらかしにしてこれたな。世界中の耳鼻科から出禁食らってんのか?」


 ほんっとに無茶しやがる…………贄薙ぎとはいえただの人間なんだし、落ちたら死ぬんだからね!!


「第一、俺は協力するなんて言ってないんだけども」


「まあまあ…………ほら、アイス一本あげますから一緒に来てくれます?」


「誘拐犯が幼女さらう時の定型文じゃねえか。俺が幼女っぽいのは声だけゴヴォヴァアアアア!!!」


「いや愛する人を目の前で殺されたカバみたいなゲップ出してる!! 幼女っぽさゼロじゃないですか!!」


 やっぱりアイスはソーダに限るよな。うまいうまい。


 焼け焦げたタルタルソースみたいな甘味と、CDをかんぴょうで巻いたようなコクがたまらない。


「ジャワ原人の方がまだ食欲をそそる食レポできますよ。まあ、気に入ってもらえたようで何よりです。あっ、ちなみにそのアイスには、面白い効果があるんだなこれが」


「ぱぇ?」



「性的に最も興奮する女性の服装を反射的に口走ってしまうという」



「なんちゅうもん食わしてくれてんだテメエ!!」


 クーリの胸ぐらを掴んで問い詰めるも、本人は涼しい顔。


「ちなみに効果は一回だけで、いつ訪れるか分かりません。楽しみで仕方ねえっすね」


「喋るな!! お前あんまり余計なことしてたらマジでブッ殺すからな!! 弘法にも筆の誤りってよくいうだろ!?」


「ぜんぜん関係ねえところで名前出されて坊主もビックリしてますよ」


 ハメられた。


 完全にオモチャにされている。


 性的に興奮する服装だぁ?



 まぁ、俺にはそんなもんねえから関係ないな。




 大型のスーパーに入り、カゴを装備。


 何で俺がカゴ持ち役なんだろう。


「さーてと、じゃあまずは何から買いましょうかねぇ……」


「ラーメンと言えばやっぱり麺だろ」


「なるほど……カッペリーニにペンネにパッパルデッレ…………色々ありますがどれにします?」


「ラーメンだっつってんだろアルデンテ野郎!! なんでこれからラーメン作るヤツがパスタコーナーに直行してんだよ!!」


「アルデンテ野郎!? では、この袋麺とやらにしましょっか。さてお次は……ネギと、ナルトと、メンマと、鶏ガラスープ、お醤油…………」


 そこからはテキパキとムダのない動きで食材をカートに収めていくクーリ。


「買い物慣れしてんな。お前、人間界には結構来るのか?」


「まあね。移怪退治がありますし。くっそ面倒くせえけど一応仕事の一つなんで、こっちで野宿することも多いですよ」


「野宿だと? ミュカレスさんが寝床くらい用意してくれるんじゃねえのか?」


「最初はそうだったんですけどね。屋内だと居心地よくて半永久的に眠っちまうんです。だから任務サボりすぎてどこも用意してもらえなくなりました」


 どの話題振ってもクズエピソードでレシーブしてくるなコイツ。


「さてと、まあメモに書いてあった材料はこんなところですけど……なーんか物足りないですね。サカテくんはラーメンに何か変わったもの入れたりしますか? ロープとかミミズとか」


「いやそんなもん入れたらラーメンと見分けつかなくなるだろ!!」 


「それはIQ一桁の人がするツッコミですサカテくん」


「つか、別に変わったラーメンにする必要ねえだろ。ミュカレスさんは普通のを食いたがってるみてえだし。第一、俺には記憶がないんだからラーメンに何入れるかとか言われても知らね……………」



 ズキン  と。



 強烈な頭痛。思わず膝をついてしまう。



 視界がぼやける。世界が歪む。カゴを持つ力が抜ける。


 あらゆる思考を全て押し退け、俺の脳裏に強引に浮かんできたのは、とある食卓の風景だった。


 見覚えがある。これは…………。



『うええ! 兄さんまたラーメンにフライドポテトいっぱい入れてる! その食べ合わせやめなよ絶対おかしいよ!』


『がははのは! これこそサイタくん作、究極のポテトラーメンなのだっ!! お前も食ってみろ……………ってお前こそなんでラーメンにチクワ入れてんだよ!!』


『へへーん、こっちの方がおいしーんだもーん! これがアタシ作、究極のチクワラーメンだよ兄さん!』


『まったくもう…………二人とも、お母さんが作ったラーメンにトリッキーなトッピングしないの! 普通に食べなさい、サイタ! ミオン!』



 痛みが収まっていく。


………………なんだ、今の記憶は?


 胸がグッと締めつけられる。


「……………サカテくん? どうしました? 急に座り込んじゃって」


 クーリが心配そうに顔を覗き込んでくる。


 そこでようやく意識が鮮明になった。


「い、いや…………何でもねえ……………」



「母さーん! はやくはやく! お肉売り切れちゃうよー!」



…………ほんと、タイミングがいいのか悪いのか分からねえ。


 ただでさえ急に変なこと思い出して、気持ちの整理がついてねえってのによ。


 狙ったように矢継ぎ早に現れやがって。


 目の前を元気よく通りかかった中学生くらいの女の子を、俺は知っている。


 今しがた俺の頭の中で、ラーメンにチクワを乗せて食ってた少女を。


 俺と一緒に食卓を囲んでた少女を。



 俺と同じ家に住んでいた…………妹を、誰よりも知っている。



「ミオン……………?」



 考えるより先に、一つの名前が口に出ていた。


 赤茶色の髪を短く切り揃えた、人懐っこそうな瞳と八重歯が特徴的な小動物のような少女は、俺の声にピクリと反応した。


 小柄な体をクルリと九十度回転させ、キョトンとした顔で俺に焦点を合わせる。


 だが、確信は持てない。


 俺の今の記憶が信用できるものなのか。


 『本当に俺の記憶なのか』


 それはわからない。


 頭の中に浮かぶ不確定要素の存在に全て気付いていながら、それでも俺はこの子を呼び止めた。


 なんて幼稚で軽率なんだろう。


 見切り発車もいいとこだ。


 なかなか喋らない俺に対して戸惑いの表情を浮かべつつ、右へ左へ視線を移す赤い瞳は、不信感と恐怖にベットリ染まっている。


 ミオンの小さな口が震えている。そこから放たれたのは、あまりに予想通りの言葉だった。



「あの、どちら様…………でしょうか」



 分かりきった返答、分かりきった疑問だ。


 すべてが予定調和。退屈すぎてアクビが出る。


 ヒメラが丁寧に解説してくれたじゃねえか。



 今の俺はコタニ サイタじゃない。

 


 コタニ サイタは、あの中二病野郎なんだ。


「なんでお兄さん、アタシの名前、知ってるんですか……? どこかで会ったこと、ありましたっけ……?」


 おーおー、怯えとる怯えとる。


 そりゃそうだ、見覚えのねえ青年に名前呼ばれたら背筋も凍るわな。がははは。


 第一、この子が俺の妹だって確証はない。


 あの記憶だってデタラメかもしれない。


 そりゃ怖いよな、人違いだったらただのホラーだもんな。


 ただ、まあ…………。



 ショックでは、あるよな。



「いや、そ、その…………き、聞いてくれよクーリ!! この前道を歩いてたらさ! 『ミオーーーンミオンミオンミオンミオンミオン』って鳴いてるセミがいたんだよ! 面白くね!?」


 俺の突拍子もない発言、苦し紛れのウソに面食らったクーリはしばらく言葉に詰まっていたが、ミオンの不安げな視線を察して深い溜め息をついた。


「そうなんですかサカテくん。まあセミは一週間で死にますからね。変わった鳴き声でもあげて少しでも爪痕残そうとしたんでしょう」


「ガハハハッ、それはマジでロックだわ!! 現にこうして俺の記憶にしっかり焼き付いてるわけだしな!! セミの思惑通りだぜ!! まさに弘法にも筆の誤りだな!」


「そんなにそのフレーズ好きならちゃんと意味覚えてくださいよ」


 そんな中身のない会話を交わしながらミオン…………少女を素通りし、スーパーから逃げるように脱出した。




 裏路地に戻ってくると、自分の体がウソのように軽くなった。


「ありがとな。話、合わせてくれて」


「…………お気になさらず。あそこで突き放すほど性根腐ってないんで」


 心臓がまだバクバクと音を出している。


 女の子に見つめられただけでこんなに胸が高鳴るなんて、俺はロリコンなのかな? 


 なーんてな。


「は? ロリコンなんですか?」


「『なーんてな』って言っただろ金欠団子」


 コイツは俺の心が読める。わざわざ説明する必要も、まして言い逃れする必要もない…………か。


「さっきのお嬢さんが、あなたの生前の妹君である可能性が高いと?」


「あくまで可能性だけどな。あんな数十秒の回想程度じゃ自信ねえわ。でもさ…………なんかうまく言えねえけど、さっきの子を見たとき、一瞬だけど心がジンワリと暖かくなったんだよな。『元気そうで良かった』って、そう思ったんだ」


「…………それが何よりの証拠でしょうよ。いま戻ればまだ間に合いますよ?」


「いや、いいよ。話がややこしくなるだけだ。他の店にしようぜ」


 結局、カゴは店内に置いてきてしまった。


「また一から買い物のやり直しだな」


「そうですねロリコン」


「えっ」



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