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出撃の刻(とき)

「遅い!」


 階段まで戻ると、司祭枢機卿は心底嫌そうな顔で仁王立ちになっていた。

 その肩には、先程の白いカラスが微動だにせず止まっている。

「まぁいい、作戦内容は追って説明させる。来い」


 不機嫌極まりない神の御使いの背中を追うようにして、私とメリッサは手を繋いだまま階段を上る。

 司祭に小学生にスーツ姿の長身の女----事情を知らない人間がもし見たら、季節外れのハロウィンの仮装行列か何かに見えそうだ。


「これからお前達は封印の外に出る事になるが、間違っても変な気は起こすなよ?」

「起こさないわよ」


 歩みを緩めないまま私達は階段を上り、温室に足を踏み入れた。

 静まり返った温室に、大小様々な足音だけが響いている。


 いよいよ始まるのだ。


 夜陰に包まれた硝子の天井。

 その向こうに広がる世界は、あの時からどれほど変わっているのだろう。


 茂みを突っ切ると、毒草達が道を開けようとするかのように、しっとりと濡れた葉をさざめかせた。

「すごい……アイリス、貴女本当にここからお外に出られるんだね……」


 メリッサが呟いて、私の手を握り直した。

 ほんの一瞬手を引かれているような錯覚を覚えて、私は気付かれないように深呼吸する。

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