透明な存在
人を人とも思っていないような司祭枢機卿に同情する気など欠片もないが、確かに、魔女という存在をどう扱うべきかという問題は、教会にとって非常に悩ましいものなのだ。
ましてや人権意識の発展しているはずの現在、一つ対処を間違えれば、信徒の心が離れるという致命的な結果を招いてしまうものであるという事は想像に難くない。
そしてその結果として----。
「つまり公式には、私達人外としての魔女は、この世界には存在していない……って事ね?」
「あぁそうだ……その通りだ! お前もメリッサも……存在しない! 法王庁の地下には何もいないんだ……ッ!」
自棄になったのか、腹を立てているのか、あるいはその両方か----アンソニーは咆哮する。
「お蔭様で庭園管理局の予算は雀の涙だ! 毎年人員希望を出しているのに、新人はここ何年も来ない! 挙句にゃ毎日植物相手にのんびりできていいですね、引退されてもお庭作りとかされるんでしょう? なんて抜かされるんだぞ!?」
「……はぁ」
やはり痛い所を突いてしまっていたようだ。つい嫌味なんて言ってしまった自分を心の中で叱りながら、私は自然と先生に怒られている生徒のような神妙な顔つきになっていた。




