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fragment 7

 すぐ目の前に、女の人がいた。


 まるで、ずっとそこにいたかのように、何の気配もなく、立っていた。


「ま……魔女……?」 


 女の姿から僕が連想したのは、城の濠の黒鳥だった。


(ほんとに、いたんだ……)


 目が慣れるにつれ、女の姿は闇の中にくっきりと浮かび上がる。

 長身に纏った漆黒のローブには飾り気が一切なかったが、身体をゆったりと覆う布地は今までに見たどの貴婦人よりも優美な曲線を描いている。


 不思議と、思っていたような禍々しさや恐ろしさはなかった。


 むしろ、この時初めて自分が彼女の縄張りを侵してしまっているのだという事に気付き、悪戯を咎められたかのような恥ずかしささえ覚えていた。


「あの……ごめんなさいっ! ぼ、僕っ、道に迷って……っ、そしたら、おね……姉上が探しに来てくれたんですけどっ」


 しどろもどろに説明する僕を、魔女は黙って見下している。


「手負いの猪が飛び掛かって来て……っ、うっ、ぐ……ッ、姉上はそれで僕を庇って……」


 気が付けば、僕は泣いていた。

 涙と鼻水塗れになりながら、懸命になって姉上の身体を抱き上げ、魔女に傷を示す。


「お願い……ですッ、姉上を……っ、僕の、姉上を……っ、助けて……欲しいんです……!」

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