術中
通路を歩きながら、私は考えていた。
アンソニーは、モルガナは人間の庇護欲をそそるために自らネオテニーという形態を選び、メリッサとして再生したと考えている。
確かに、幼い姿でいた方が路頭に迷っても世話をしてくれる誰かが現れる確率は高いだろう。
普通の生物であれば庇護欲をそそる姿は生きていく上で有利に見える。
だが、モルガナは、魔女だ。
モルガナは全ての生物の中枢神経を活性化させ、操作できる『力』を持っていた。
それが彼女の武器、剣にも等しいものだとして、脳を未成熟なままにしておくという、その『力』をみすみす弱めるような真似をするだろうか?
私が引っ掛かるのは、そこだった。
敢えて幼い少女の姿という未成熟な状態で再生したのは、その不利をカバーできるという思惑があるからではないのだろうか?
そしてもう一つ。
メリッサはモルガナの記憶と人格をどこまで引き継いでいるのだろうか?
(あんなに可愛いのに……地下のラボでの惨状を引き起こした事、本当に覚えてないの……?)
そこまで考え、私は自分がもう既にメリッサの術中に嵌っている事に気付く。
やはりメリッサは魔女なのだ。
幼くても、成熟した----魔女なのだ。




