iris
どんなに陽を浴びても白いままだった肌。
絹糸のように細く艶やかな、漆黒の髪。
そして、どんな光も吸い込んでしまうかのような----底知れぬ黒い瞳。
肖像画の中の、幼い私の姿だ。
だけど、それが数百年経った今、ここで私を見上げているというのは、あまりにも非現実的な光景だ。
----いや、『魔女』が、こんな事を言うのも、変な話ではあるけれど。
「ねえ、私も大きくなったらアイリスみたいな目になるのかな?」
「私の……目……?」
差し出された手鏡を、私は覗き込んだ。
「ね? アイリスの目、お花の色みたいな綺麗な青紫で……大好きよ」
鏡に映る私の瞳は、黒くない。
日没後、夜の帳に包まれる寸前の空のような、掴みどころのない青だ。
火刑の後、灰の中から甦った時に、既に変わっていた目の色から、私のこの名前----アイリス----は付けられているのだ。
「いいなぁ、私もアイリスみたいな色がいい……そうしたら、二人でお揃いじゃない?」
「そう? じゃあ、こんな風になりたいなら……貴女も一度灰にならなきゃ」
そう言った私の唇は、多分、生まれて初めて魔女らしい笑みを、浮かべていた----。




