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fragment5
もちろん、僕もそう聞かされてきた。
ほんの幼い頃は、母から、
母が亡くなってからは、乳母や世話係の侍女から----。
いつしか僕にとって、森は魔女そのものになっていた。
だけど、姉上は違った。
『森には危険がいっぱいだから、絶対に入っちゃ駄目よ』
魔女という言葉を僕は姉上から一度も聞いた事がなかった。
姉上は、魔女なんて信じていない。
今こうして魔女の森に横たわり、命の灯が消えつつある時ですら、
魔女も、魔術も、神秘の存在も、
姉上はなに一つ信じていない。
剣だけをしっかりと握ったまま、
僕の姉上は----ゆっくりと死につつある。




