セカンドコンタクト
『……ほう、それでお前は庭園局で最も高価なこの端末(カーラβ)が、今まさにどこの馬の骨とも分からぬ魔女の依代になってると言う訳だな?』
渋々繋いだ念話を開始した途端、アンソニーの機嫌は分かりやすく急降下していった。
『アネモネはれっきとした魔女だし、今はトゥーレ協会の管理下にあるわ』
しばしの沈黙。
多分、アンソニーは私に向けて大きな溜息をついて見せたのだろうが、生憎な事に、念話だと脳内での発語以外はこちらには聞こえない。
『……お前、隠してたな』
『言うのを忘れてたのよ』
私は掌の上の白いカラスをそっと撫でる。
温かくもないが、冷たくもない。
生き物ではない----だが、魂がここに宿っている。
(……アネモネ……いくら風の魔女の貴女でも、ここまで来るのは並大抵の事ではなかったはず……一体何が……?)
艶やかな羽毛。
計算され尽くした彫刻のような丸みを帯びた輪郭。
だけど、その瞼は閉じたままだ。
(アネモネ、お願い……返事をして……!)
カラスの身体を通じて、私は白い髪に赤い瞳をした少女へと語り掛ける。
『……Tの魔女が封印を突破して地下まで到達するなどというのは、法王庁始まって以来の事態だぞ』
『そうね、庭園局の失態だわね』
カーラβの身体がぴくりと動いて、私は上げそうになった声を慌てて抑える。
『これがTの意図ではないと断言できる理由は何だ?』
『……アネモネがもしそう命じられていれば、以前地下室で私と最初のコンタクトを取った時点で何らかのデジタルな攻撃はしていたでしょ、でも……彼女はそれをしなかった』
アネモネが私にしたのは、ただ、言葉を伝えた事だけ。
いや、恨み言と言うべきか----。
(裏切者、ね……)
風の魔女であるアネモネの能力をもってすれば、電波や電磁波の攪乱や変調はお手の物だろう。
だからこそアンソニーも電子戦の警戒を真っ先にしたのだろうが、
(……でも、貴女は恨んでいるはずの私に何もしなかった……)
ぴくり。
白いカラスの身体が再び動いた。
『とにかくそのアネモネをそのままにしておく訳にはいかん! すぐに回収に向かう!』
『……了解』
思いっ切り乱暴に念話のチャンネルを閉じ、私は「はぁー」と大きな溜息をついた。
「アネモネ、このままだと貴女今度は法王庁のラボに連れて行かれちゃうわよ」
「……それは嫌」
白いカラスはゆっくりと目を開け、囁くような声で言う。
「アイリス……私を助けて」




