杜門
『現時刻を以てフォロロマーノの封印は解除! 回収班は速やかに回収作業に入って下さい! コルソ通り及びコンドッティ通り、パンテオン、ナボーナ広場、スペイン広場においては引き続き一般人の立入り制限を継続……』
カーラが堰を切ったように指示を出し始めた。
それを聞きながら私は左手の手袋も外し、朽ちた大理石の表面にまだ残る五芒星に投げ付ける。
手袋は、ペシャッという微かな音と共に地面に落ちた。
(……特に反応はなしか)
奇門遁甲----。
門は八つ存在し、そのうち進んで良いのは四つ。
残り四つに進めば、死んだり怪我をしたりしてしまう----。
進んで良い四つのうち『休門』『生門』『開門』は特に三吉門と呼ばれている。
(手袋に異常がないという事は、この五芒星が示している先は三吉門のうちのどれかになるはずだ……)
『アイリスは封印帯手前で待機し、回収班はこれを回収……』
私は手袋を拾い上げ、駆け出した。
今はもう吉門に用はない。
『カーラ、私は今からトレビの泉に戻るわ』
『待って下さい! あそこはまだ元素拘束の解放状態が継続中です! 貴女といえども外側からの侵入は不可能です!』
そう言われるのは分かっていた。
だからこそ、私は探しているのだ。
「……これか!」
次に投げ付けた手袋は、地面に落ちる寸前に宙で消えた。
心臓が、ドクンと鳴った。
『……杜門を見付けた! 今からここを通過してメリッサの所に行く!』
『危険です! 正規の施設を使用しない移動は私の観測範囲外となりサポートができません!』
うん。
支援AIとしては至極当然の判断だ。
ましてや杜門は凶門に分類されている。
死門や驚門のように直接的な傷や混乱を受ける事はないが、危害が来るのを逃れる時以外は使用できないとされている。
使用方法を間違えれば死に結び付く害を受ける可能性がある門なのだ。
だけど、私の直感が叫んでいる。
この門----いや、特異点を通過してメリッサのもとへ行くのが、最適解なのだと。
『行け……私が許可する』
法王の声に、私は唇を歪めた。
『この場所に八門を開いた時点で、初めからそのつもりだったんでしょ?』
『それは単なるお前の憶測に過ぎん』
私は五芒星の前に立ち、目を閉じた。
『……なぜ、魔女は森に棲むと思う?』
『え?』
突然の問いに、私は思わず目を見開く。
(今の……まさか……いや、でも……だって、あれはマヌエルが昔私に……!?)
だが私の瞳に映ったのは、遺跡の荒涼たる光景ではなかった。
そこは、既に森だった。
ローマの街中になどあるはずのない、深い森が私を包んでいた。
鬱蒼と生い茂る----深い深い森の----昏い闇が----私を----ゆっくりと過去へと引き戻して----。




