テーブル・ターニング
今も昔も『食事』の時はメリッサと二人きりだったから、こうして人前でキスをするというのは、実はこれが初めてになる。
だが、スヴィトラーナの目を気にするとか、そもそもこれで合っているのかというような考えは、唇同士が触れ合った途端にきれいさっぱり掻き消えていた。
(温かい……ううん、熱い……!)
力なく開いていた唇に温もりが戻ったと感じたのとほぼ同時に、少女の身体がぴくりと動いた。
完全ではないが、幾ばくかの力の補給はできたようだ。
「メリッサ……ディスクを探して!」
唇を離して耳元で囁くと、了承の合図なのか少女はゆっくりと腕を上げた。
しかし、まだ目に光が戻り切っていない。
そのままコートのポケットをもぞもぞと探り始めるが、まだ力が足りていないのか、目的のディスクがなかなか探せないようだ。
「私も手伝うわ」
小さな手の甲に掌を重ねて、私はあたかもテーブル・ターニングをするかのように息を殺し、目を閉じて神経を集中させた。
テーブル・ターニングは、非常に原始的な交霊術である。
その呼び名や、方法は様々だが、古くは厳粛な儀式として、現在では大人に隠れてやる子供の遊びとして世界各地で行われているようだ。
言ってしまえば、霊を呼び出して悩みの答えを貰ったり、探し物を見つけ出したりする術(ネクロマンシ―)の一つである。
ちなみにアメリカで流行したウィジャボードという占いゲームはこのテーブル・ターニングをそのまま商品化したものであり、更に言えば発売の少し前に日本へ漂着したアメリカ船員がテーブル・ターニングを現地の住民に教えてしまい、狐がどうたらという遊びを大流行させた記録が残っている。
キリスト教徒によって建国された大陸にネクロマンシーが蔓延っているというのも皮肉なものだが、そこを嗤っているような時間は今はない。
(モルガナ……聞こえてるんでしょ……?)
テーブル・ターニングのやり方は、とても簡単だ。
参加した人間全員が呼吸を合わせ、意識を一か所に集中させる。
コインはなくても構わない。
単なる意識の集中先の目印に過ぎないからだ。
大事なのは、参加者の意識の深層を言語化し、探している答えを得る事である。
そう、目の前にいる石の魔女を打ち倒すために必要な力を宿したファイルを----。
(お願い、貴女のファイルをこの子に渡して……!)
「ちょっと、いつまでくっ付いてんのよ! 鬱陶しいったらありゃしない!」
スヴィトラーナの苛立たしげな声が響いた。
「目障りなだけだから見逃してあげようかと思ってたけど、まずはアンタから片付けてあげる……!」




