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グラン・ルーメ

「知識を求める行為が、魔女の本質……かぁ……」


 私は大きく伸びをする。

 机の上のランプに照らされた影法師が、ゆらりと揺れる。


 魔女の本質とは、分かったような分からないような言葉だ。


 確かに私の知っている魔女の多くは、身分の差こそあれ、普通の人間よりも技能や知識を持ち、それゆえに魔女として審判にかけられた者が多い。

 あまりにも理不尽な話だが、今となっては、そうした者達を恐れ糾弾した人々の心も少しは理解できる----彼らを許すかどうかはまた別の話だが。


(でも、例えばアネモネは生まれつき身体が弱くて一日のほとんどを寝て過ごしていた……私だって、何かを極めようとしていた訳でもない、ただの……領主の娘だ……モルガナに魔女にされるまでは、普通の……平凡な人間だった……)


 いつもならそこで私は思考を止めていた。


 だが----今夜はそのもう少し先まで考えてみよう、と、初めて思ったのだ。


(……本当に?)


 私は椅子から立ち上がる。

 書庫を見回す。


(本当に、私は……『魔女にされた』だけなのだろうか……?)


 書庫にぐるりと並んだ本の位置は、もうすっかり空で覚えてしまった。

 白い背表紙の本、青い背表紙の本、厚みのある本、箔押しの施された本----。


 見た目はどれもバラバラだ。


(違う……見た目に惑わされてはいけないんだ……)


 書かれている言葉も内容も違うが、ここにあるものは全て、書物であるという一点において同じだ。


(私達も同じ……自分が分かっていると思っているよりも、自分の事を知らないんだ)


 影法師が大きく伸び縮みする。

 まるで踊っているかのように。


(何か、もっと違う意味が……バラバラに見える私達に共通する、もっと……そう、根源的な何かが、私達の中にあるんだ……)


 私達の奥に。

 魔女の奥に。


 私達が魔女たる所以が、眠っている----。 


「……グラン・ルーメ」


 アネモネの残した言葉がふと口をついた途端、ランプの灯が、音もなく消えた。

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