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蛇苺とスニーカー

 メリッサが再び温室へと連行されて来たのは、ジェヴォーダンの獣事件(とりあえずそう呼ぶ事にする)から一週間後の夕方だった。

 

その時、私は薬草の入った籠を抱えて、ちょうど階段を降りかけていた。


 「アイリス!」


 初めて会った時と同じ白いワンピースを着た少女は、温室のドアが開くと同時に駆け寄って来る。

 

 「アイリス……っ!」

 「わ……ッ、ちょっと待って……!」


 籠を抱えているのも構わず抱き付いて来た少女の勢いに圧倒されて、私はそのまま仰向けに蛇苺の群れの真ん中に倒れ込んでしまった。


 その上から、宙に飛ばされた籠の中身と、それから少女が降って来た。


「うぅ……おも……」

「何? 何か言った!?」


 胸元からお腹にかけて子供一人分の重量が乗ってるのだ。重たい以外の感想はあるはずないのだが、『案外気にする性格』というカーラの言葉を思い出してしまった手前、私は喉元まで出かかった抗議の言葉を飲み込んだ。

 我ながら大人の対応だ。


「ねぇ、お腹すいた!」


 少女の声は、無邪気だ。

 一週間前と変わらない。


「早く、ごはんにしよ?」


 だが、その無邪気さが無数のガラスの組み合わせから成っているのを、私はもう知ってしまっている。


「……先に下に行ってて」


 私はそっとメリッサの手を取り、私の上から身を起させた。

「私もすぐ降りるから」

「……分かった」


 少女は頷くと、呆気ないほど素直に階段に向かう。


「扱いはだいぶ慣れたようだな」


 司祭枢機卿の真新しい白い布靴(スニーカー)が、蛇苺の茂みを踏みしだくのが見えた。

 立ち上がった私は傍らに転がった籠を拾い、散らばった薬草を一本ずつ中に戻す。


「おかげさまでね」

 赤い果実が潰れ、小さな染みを点々と付けるが男は意に介さない。

「これも燃やす……どうせ中庭に入った時点で魔女の穢れからは逃れられない」

「……そうね」

 本人の気が済むのなら焼くなり煮るなり好きにすればいいのだろうが、顔もよく知らない彼の部下達に私は少し同情した。


「今回の件は、あの子の性能試験だったという訳?」


 靴裏を確認していた男は、私の質問に不快そうに鼻を鳴らした。

「否定はしないが、仕掛けてきたのは『T』だ……たまたま我々にとってもお誂え向きの試験環境だったというだけだ」

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